グローバル・アイ:パリコレと経済効果 年商1兆8000億円の源泉=西川恵
http://mainichi.jp/select/world/news/20090328ddm007070133000c.html
今月初旬、パリで開かれた09〜10年秋冬コレクションを取材した。9日間にわたって
世界の約90ブランドが、ショー形式で半年先の秋冬もののプレタポルテ(高級既製服)の
数々を披露したが、経済危機のさなかにあって、ファッション産業の意味を改めて考えた。
今回のコレクションに経済危機は深い影を落としていた。モデルの数を減らしてショーを
縮小したところ、会場を安い場所に移したり、展示会だけにしたブランドもあった。ただ例
年と変わらず世界からジャーナリストとバイヤーが駆けつけ、会場は熱気に包まれた。
日本のファッションショーは一般の人も見られるケースが多い。しかしニューヨーク、ミラ
ノもそうだが、パリでは招待状のあるジャーナリストとバイヤーしか入れない。ショーは顧
客サービスやエンターテインメントではなく、純粋にビジネスの場である。
新作の服を着てランウエーを行き来するモデルたちから、ジャーナリストは来季の傾向
を探り、新しい才能を発掘する。バイヤーは自分が気に入った服や、売れ筋の服にチェッ
クを入れる。
実際の商談の場はショーが終わった後に各ブランドが開く展示会である。バイヤーは服
を手にとってデザインを確認し、生地や素材の質感、仕立てなどを見て、注文を入れる。
各ブランドは商談でまとまった点数を積算し、工場に発注する。
つまり春と秋の年2回開かれるコレクションは、見た目の華やかさと裏腹に、デザイナー
とそのブランドにとっては、仕事の成否がすぐさま数字となって表れる厳しい世界なのであ
る。
ファッションは建築に似ている。建築は土木、資材、インテリアなど多様な分野を巻き込
むため経済波及効果が大きい。ファッションも生地、装飾、宝飾、皮革など広いすそ野を
もっている。服の流行に合わせてジュエリーや、靴、ハンドバッグのデザインも変わる。
年2回のコレクションはフランス経済に組み込まれた仕掛けである。パリコレという場を設
け、関係する人々を世界から呼び込む。ファッションを中心とした高級ブランド産業は16万
人の雇用を生み、年間150億ユーロ(約1兆8000億円)を売り上げる。世界中からのジャ
ーナリストとバイヤーが落とすおカネも大きいが、各国のデザイナーたちの知的ノウハウも
この国を潤している。
今週、東京コレクションが開かれた。日本の若いデザイナーの登竜門だが、世界での知
名度はまだ低い。いつの日か、日本のファッション産業を動かす仕掛けになってほしい。
(専門編集委員)