不思議な玉手箱Ⅱルワンダ編・その2    by もりぞのとしこ

準備
しかし私にとって、まず必要なことは未知の土地への不安に対しての覚悟だった。
旅行を決めてからは、特に健康に気を配った。ルワンダの友人より「予防接種の件、怠りなく」という
メールが主人のもとに届いた。
インフルエンザの予防接種を受けたあと、暮れも迫るころに、新宿区にある国立国際医療研究セン
ターを訪ねて接種の日程を決めた。その日はA型肝炎と破傷風の予防注射を終えた。
医療センターの冷たい椅子にすわって、マラリアや黄熱病の予防薬接種後の『あるかもしれない副
作用』の説明を聞いていると、「この歳になって命を賭してまでなぜ行くのだろう、まるで死への旅路
に出るようなものだ」、などと弱気な思いがフツフツと湧いてくる。

マラリアの予防についてはかなり迷った。赤道近くの熱帯から亜熱帯では、ハマダラ蚊による熱帯
熱マラリアにかかる恐れがある。現在の医学では、マラリアは発病後の対応が早ければ死に至るこ
とはないそうだ。(ただし、発病して24時間以内に処置を受けねばならない)
予防薬は、日本で認可されているのはメフロキンという薬で、服用は毎週1回、現地に赴く1週間前
から、現地を出てもその後4週間のあいだ服用をしつづけなければならない。副作用が強いため、
服用していると、徐々にうつ状態、不眠、頭痛、倦怠感などの不調をきたすこともあるらしい。
ルワンダは高地であるため、マラリアの発生はさほど多くはないようだった。
医師から、「最後の判断は個人にまかせます」と言われた。私は、命にかかわることなのでとても迷
ったが、旅行中に予防のためとはいえ、不調になっていくのは本末転倒だから、と薬の服用をやめ
ることにした。原始的だが、蚊取り線香と防虫スプレーと自分の抵抗力に賭けようということになった。
蚊取り線香の威力は、インド滞在中、十分に恩恵に預かっていたので何よりも信頼していたのだ。

そして年が明けて、1月に黄熱病の生ワクチンの接種を受けた。これはルワンダ入国の際に接種して
いることが必須のものだ。このワクチンは少々辛かった。1週間したころから、微熱を伴うだるさが少し
の間続いた。黄熱病ワクチン接種ともう一つ、入国に際して絶対不可欠なものはビザだ。
1月のある一日、ルワンダ在日大使館に赴いてビザの手続きをすませた。大使館は、世田谷にある
個人の邸宅のような小さな建物だった。一等参事官のS氏より、個人旅行の私たちに、紳士的で親
切な対応を受けルワンダ情報を得ることができた。ほとんど情報がないなかで、とてもありがたいこと
だった。
大使館の小冊子とHP、ウェブサイトで見る情報以外には、どこの書店を探しても旅行誌などないのだ。
しかし、出向く前に旅行誌などで雑多な情報を得るより素のままで見ることができたのが、あるいはよ
かったかもしれない。