不思議な玉手箱Ⅱルワンダ編・その4  by もりぞのとしこ

キガリ~キブエ~キヴ湖

丘また丘が連なる景色の中を四輪駆動の大型車を走らせる。丘はすべて棚田としてバナナ、とうもろ
こしや豆などの野菜、あるいは茶の木を栽培している。それらの緑が流れるように移り変わり、私たち
の目を楽しませてくれる。

また、丘と言わず道路わきといわず、いたるところにユーカリの木が植えてある。これは、紅茶を生産
する過程で、茶葉を蒸らすときにユーカリの木を燃やすためだそうだ。ユーカリは油分を含んでいて燃
えやすいからだ。緑化対策の一環でもあるのだろうが、こんなに過密状態で植林していては土地が
疲弊してしまうのではないか。自然と人が営む農業との兼ね合いという難しい問題がここにもあるよう
だ。低地では、水田で三期作の稲作も行われている。この国の食糧自給率は100パーセントだそうだ。

丘の中腹や頂上などに小さな家がポツンポツンとたっている。あるいは集落ができていて、民家が密
集している場所もある。典型的な地方の家は、小さな箱のような形で、泥を固めただけの壁、中央に
入り口一つ、両側に窓が一つずつ付いた質素な作りだ。窓のガラスさえ入ってなくて、ビニールを貼っ
て代用している家もある。

中国のアフリカへの援助が増えたと、新聞などで昨今取り上げられているが、実際にこの国でも、中国
の援助による主要な国道の舗装が、かなり進んでいる。未舗装の部分では、現在も工事が精力的に
続けられている。
これらの幹線道路を、ウガンダやブルンジなどの隣国との間を移動する人々を乗せた小型バスが走っ
ている。それ以外には地上の交通手段がないのだ。

車や小型バスがスピードを上げてビュンビュン走る道路わきを、近隣の村の人々は、てくてくとひたす
ら歩いている。
頭上にカゴを乗せて食料を運んだり、バナナの大きな房を背負ったり、水のタンクを担いだりして歩く。
サトウキビの長い枝を何本か頭に乗せて歩いている人もいる。バイクも走る。仕事帰りの人、あるいは
一杯やりに集まっているのか、村の人たちが集まって歓談している様子も見られた。それはメディアで
見たことのあるアフリカの田舎の風景だった。

子供たちは集団で遊んでいたり、お父さんの畑仕事を手伝っていたりしているが、私たちの車が通り過
ぎる時に、必ず、車に向かって手を振ってくる。この子供たちは、おそらくおやつにチョコレートなど食べ
ないだろうし、アイスクリームの味も知らないかもしれない。だからと言ってそれが不幸だとは言えない。
逆に、知ることが必ずしも幸福であるとは限らないことを、現代社会がいやというほど見せつけている。
ここに生まれて、ここで一生を過ごす子がほとんどだろう。それとも出世して、国を変えるような子が出
てくるだろうか。十分な教育を受けられたら、その力を発揮できるかもしれない。なによりも教育が大
切だと改めて思う。子どもたちのあどけない顔が曇ることのないように祈りたい。

キガリから東へ走ること3時間あまり。道路は良好。車両は右側通行だが、たまに猛スピードで、セン
ターラインを越えて走ってくるので、正面衝突をしないかと気が気ではない。

キヴ湖畔のコルモラン・ロッジに到着する。ここはベルギー人の老婦人が経営するリゾートホテルだ。
ベルギー人は現在この国では居づらいらしいと聞いた。原因は虐殺の首謀者を巡る争いのようだし、
もっと根深いところにあるのかもしれない。フランスも疎まれているようだ。虐殺のとき、フツ派に武器
を調達したのはフランスだったと考えられているかららしい。公用語であったフランス語が、今では公
けには使われていない。しかしルワンダの人は達者なフランス語を話してもいる。

キヴ湖の景観を利用して、その湖畔にコテージが数個たっている。
コンゴとの東側の国境に位置するキヴ湖は、近年、エコツーリズムのスポットとして注目されている。
この湖は、西リフトバレーに、2万年前から形作られ始めたものである。この深い藍色をたたえた大き
な湖は、もっとも深いところで、480メートルもある。高度1450メートルにあり、面積2700平方キロメー
トル、アフリカで6番目の大きさである。

湖底300メートルに、65立方キロメートルのメタンガスと256立方キロメートルの炭酸ガスを埋蔵してい
る。ルワンダはこれらの天然ガスにより、幸運と不運の両極で困惑している状態である。メタンガスが
地震や火山の爆発などが原因で、地上に浮きあがってくると大火災の原因になりうるし、あるいは20
0万人の周辺住民を窒息死に至らすこともありうると英国の研究者が指摘した。しかし、一方、メタンガ
スをうまく取り込むことができれば、ルワンダ国内で100年分の燃料を確保できるのだ。

ルワンダ政府は目下、ある米国企業と提携して、パージ船を湖に浮かべ、パイプをガスの層まで伸ばし
て吸い上げる方式で、メタンガスを湖底からとりだす作業を試験的に行う予定と報道している。(2012
年2月1日BBCニュースマガジンより)

夕食には、友人のすすめで、豆のスープやチキンのソテー、ティラピアという鯵ほどの大きさの淡水魚
のフライ、イカのフリッターなどを食した。ティラピアは淡泊な味で、なかなかおいしい。豆やジャガイモ
の味が自然の味らしく濃い。
ワイン博士の友人が、自宅のワインセラーから持参したボルドーが、旅の和やかな気分を盛り上げて
くれた。ロッジ泊。

2月11日
早朝からコロコロと透き通った鳥の声。太陽が出たら巣に帰るらしく、ピタリと鳴き声が止んだ。朝食を
すませたあと、湖面まで延びた斜面に咲いている花々を眺めたり、散歩したりして数時間過ごしたのち、
ロッジをあとにする。

途中のキヴ湖畔で、客待ちをしている何人かのボート業者と交渉の末、40000ルワンダフラン(3200円
くらい)を払って一艘の舟に乗りこむ。ボートとはいえ、ただエンジンのついた簡単な舟。キヴ湖上をの
んびりと走り、ナポレオン島という小さな島に着く。その姿がナポレオンの帽子に似ているからついた
名前だという。中腹ではヤギが何頭か草を食んでいる。 「降りて頂上まで歩きませんか」と友人夫妻
の誘い。
急峻な石ころ道を登って頂上を目指す。息を切らして登ること20分、全方向に開けた景色の中に見え
る島々や、水上をゆっくりと進む舟の眺めが絶好だった。遠方のコンゴ民主共和国(DRC)は霞に煙っ
て見えなかった。

湖の中央の細長い島、イジウィ島にはピグミー族が住んでいる。友人の奥様(彼女はアルピニストな
ので、山を見つけては登っているそうだ)はある時、ナポレオン島で「小さな大人」が、ヤギのそばで
昼寝をしていたのを見たそうだ。

下りは石ころを蹴飛ばし、しりもちをつきながら、ほうほうの体でボートにたどり着く。このときほど日ご
ろの運動の大切さを感じたことはない。ちなみに友人夫妻は息も切らさず平気な顔。とりわけミセスは。
夫は、上り数十メートルでまさかのギブアップ。これでは先が思いやられる。

キガリに向かって車を走らせ、途中のギタラマという町で、あらかじめキガリで友人が借り上げておいて
くれた4WD のドライバーが待っていてくれた。私たちは車を乗り換え、友人夫妻とはそこで別れた。彼
らはキガリに、私たちはルヘンゲリという街に向かって北上する。
途中で、左に行くとコンゴ民主共和国(もとのザイール)のゴマ方面へ、右に行くとルヘンゲリへという分
岐点があった。ジェノサイドのとき、この道を左へと何百万人という難民が逃れて行ったのだろうと思った。

キヴ湖を臨むコルモラン・ロッジ
(続く)