不思議な玉手箱Ⅱルワンダ編・その6  by もりぞのとしこ

ルヘンゲリから今夜の宿、マウンテンゴリラ・ビュー・ロッジへ向かう道は、赤土のおそ
ろしくガタガタ道なので座席で飛んだり跳ねたりひどいものだ。これを「アフリカン・マ
ッサージ」というらしい。これまで経験したマッサージの中でもっとも手荒なものだ。
ドライバーに支払う金額は、宿泊費込みで2日間400ドルである。ただし車も彼の持ち込み
。名前はイノセントさん。
あたりは暗くなり、ヘッドライトだけがガタガタ道を照らしだしている。疲れ果てて、や
っとの思いでロッジの入り口にたどり着く。遠くに聳え立つ山影は暗く、すべてが夕闇の
なかだった。

カウンタ-で手続きをすませて、ベルボーイに通されたのは、暖炉のある石造りのコテー
ジだった。バスルームの設備は素朴だったが、部屋は落ち着いた雰囲気。ルワンダ産の紅
茶が、熱いお湯とともに用意してあるのが嬉しかった。このロッジは電力節約のために、
夜11時から翌朝まで計画停電を実行している。そのためにろうそくとマッチが用意してあ
った。

寒くて暖炉をたいてもらう。ユーカリの薪がパリパリと燃える。
ダイニングルームで食事をする。ほとんどの客が、明日の「ゴリラ・ツアー」が目的らし
く、早めのディナーを済ませている。コテージに帰り、お風呂をすませて明日の支度に取
り掛かる。友人から借りた登山靴に、トレッキング用スティック2本、日本から持参の雨
具、手袋、リュック、カメラ、ミネラルウォーターなどを並べる。
早朝5時半に目覚ましをセットし、モーニングコールも頼んだ。疲れ激しく、9時半にダウ
ン。

2月12日
昨夜は9時半にベッドに入るも、興奮のためか寝付けず、朝までトロトロしただけ。
食事を済ませ、イノセントさんが運転をする4WD で「ヴォルカン公園センター」へ向か
う。ここで、友人が半年前から買っておいてくれた許可証を見せると、入園者登録をして
グループに割りふられるのだ。

友人から、センターで「できるだけ緩やかな山道に行くグループに入れてほしい」と交渉
したほうがいいと忠告を受けていた。(以前、このツアーに参加した友人夫妻は、かなり
きつい山道を何時間も登ったとのこと)

交渉の結果、私たちはドイツ人のシニア(といっても同年輩らしき人々?そうだ、私たち
もシニアなのだった!)グループといっしょになった。
このゴリラ・ツアーは毎日、午前中だけ行われ、1グループ8人ずつ、10グループが許可さ
れている。1日に80人だけがゴリラに会えるのだ。この決まりは厳格に守られている。ゴ
リラの生活のなかに土足で踏み込んでいくようなものだから、人間は遠慮しなくてはなら
ない。
毎日、生活を覗き見されるゴリラのストレスは如何ばかりだろう。しかし悪いことばかり
ではない。そうやってゴリラたちの身の安全が守られているのだ。かれらの保護、国立公
園運営の費用、近隣に住む住人への手当て(密猟をさけるためもあり)などの資金の一部
となっている。

ゴリラのファミリーは13あるらしいが、会えるのは現在10ファミリーだけ。ゴリラたちは
食べ物を求めてテリトリーを移動している。私たちは(シニアグループだから)一番近場
にいるファミリーを訪ねるようだ。

センター前の広場で小1時間ほど、リズミカルな太鼓の音と、掛け声で元気いっぱいのル
ワンダ民族舞踊、「イントーレ」を見学する。


昨日はヴィルンガ火山帯を望むことはできなかったが、今朝はゆっくり仰ぎ見ることがで
きた。高く、蒼い山々にかかっている靄が、ゆっくりと上昇していく。

ヴォルカン国立公園について
160平方キロメートルの広さをもつ国立公園。ウガンダ、コンゴ民主共和国と連なる3つの
国立公園の1つである。
ヴォルカン国立公園はヴィルンガ火山帯の7つの火山のうち5つを有している。これらの
火山地帯にマウンテンゴリラが生息しているのだ。

アメリカ人の博物学者がゴリラの保護を訴え、ベルギー政府が1923年にアフリカ初の保護
区として、アルバート・ナショナル・パークを設立する。(のちにヴォルカン国立公園と
なる) そしてゴリラの保護に尽くした人々の遺志は、アメリカ人の動物学者、「ダイア
ン・フォッシー」へと受け継がれていった。
ダイアン・フォッシーはカリシンビ山に住み、20年の間、ゴリラの生態研究に捧げた。そ
してあるとき謎の死をとげたといわれるが、その謎は明らかにされていない。

マウンテンゴリラは800万年前にヒトと枝分かれし、DNAの97%をヒトと共有していると言
われる。
1903年に、遺伝子解析により、新種のゴリラと断定されたが、その巨大な姿(体重約200
キロ、身長1.5~1.8メートル)から、人々からモンスターと呼ばれ、密猟者などに50頭以
上が殺された。
今は「絶滅危惧種」としてIUCN(国際自然保護連合)に登録されている。

現在は700頭ほどしかいないが。手厚い保護により少しずつ増えている。
私たちが会うのはサビニョ(Sabinyo)というファミリー。公園内のサビニョ火山(高さ
3637メートル)から名づけられた。

センター前で私たちのガイド、ペイシャントさんと対面。「みなさんに忍耐強く説明をし
ますよ」とジョークを言って皆を笑わせた。

ORTPN (Office Rwandais du Tourisme et des Parcs Nationaux)はツーリストオフィ
ス兼、国立公園を管轄するところである。
ORTPNのガイドには、優秀な人しかなれない。英語、フランス語が堪能であり、ゴリラに
ついてのさまざまな知識があることなどが条件とされている。ガイドになれる人は数千人
に1人と聞いている。

私たちのグループ8名が集まって、各人が「××国から来た○○です」という自己紹介を
したあと、ガイドから観察に際しての注意を受けた。

1.ゴリラに近づきすぎないこと
2.咳をするときは、静かにゴリラに背を向けてすること(近年、人から感染して肺炎に
罹り、死に至ったケースもあった)
3.カメラのフラッシュをたかないこと
4.ゴリラを指ささないこと
5.ゴリラと目が合ったり、吠えられたりしたときは速やかに視線をそらして、ガイドの
方に移動すること

各自、自分たちの車に乗り、ガタガタ道を20分走り、ようやくサビニョ山のふもとで再び
集合する。