不思議な玉手箱Ⅱルワンダ編・その8  by もりぞのとしこ

2月14日
朝食をすませ9時にキガリをスタート。手配済みの借り上げ車にてアカゲラ国立公園
(Akagera National Park)を目指す。

アカゲラ国立公園はキガリから東へ車で約3時間半、タンザニアとの国境地帯のやや低
地(標高1600メートル)に位置する、アカゲラ川に沿った広大な湿地帯である。
1934年に設立された公園。南北に100キロメートル、東西に10キロメートル、1112平方
キロ四方のサバンナである。
かつてはより広大なサバンナであったのだが、ルワンダ紛争のさいに逃亡した難民が
紛争後に帰還し住み着いたため、政府が彼らにこの公園の土地を一部解放したのだ。

キガリからの主要国道をはずれ、赤土がもうもうと舞い上がるデコボコ道を走り、よ
うやくアカゲラ国立公園センターオフィスに到着した。
入園登録料を払う。内訳はドライバー氏の入園料3500RF(ルワンダ居住者は安い)、
私たちの入園料36000RF、車の入園料4000RF, ガイド料27000RF,(1.5日分)。センタ
ーオフィスは改築中で、大工さん数人が工事をしていた。オフィスには二人の若い女
性ガイドがいた。

センターから5分ほどのアカゲラ・サファリ・ロッジにチェックイン。今回の旅のすべ
ての予約は友人にしていただいたので、私たちはまったく心配のない旅行を楽しむこ
とができた。東京のビジネスホテル並みに簡素で、飾り気のない、サファリのためだ
けに存在しているようなホテルだが、人も場所も居心地はすこぶるいい。レストラン
にてランチ、その量にびっくり。ピザ、ミックスサンド、どちらも半量しか食べられ
なかった。

ここではガイドなしでサファリを走ることを禁止されている。自分の用意した(乗っ
てきた)車にサファリのガイドが同行して、鳥や動物の説明をしてくれるのだ。
もっとも、ガイドなしであてなく彷徨ったら、動物たちに遭遇するのは難しいうえに
とても危険だろう。

午後2時すぎ、ガイドのジェームズさんとともに、さっそく9個の湖の1つに向かう。イ
ンパラが1頭、道路を横切った。初めての動物だ。
その後はアンテロープの仲間(12種以上存在する)のエランド、ウォーターバック、ト
ピー、インパラ。ヒヒ猿のバブーンやベルベットモンキーなど様々な動物たちが顔を
見せる。湖の岸辺では私たちの現われたのを察知してか、岸辺にいた1・5メートルほ
どのクロコダイルが、ノソノソと這いずるように体をくねらせて、水草の浮いている
水中に消えていった。遠方の水面を望遠鏡で覗くと、数頭のカバが目鼻と耳だけ出し
ているのが見える。ときおりガバーッと大音響で水を噴き上げているのは壮観だ。
カバは、昼間はほとんど水中にいて、夜になって陸に上がってくるのだそうだ。
別の客に付き添っているガイドから、昨日100頭のゾウがいたと聞いたので、探しなが
ら車を走らせた。
ブッシュのなかに車の轍が続く道なき道を、潜んでいる動物たちを刺激しないように
そろそろと進んでいった。

突然アフリカゾウの群れが歩いているところに出くわした。
「ゾウの群れにはなかなか出会えないのに、あなたたちはラッキーだ」とジェームズ
さんがいう。
アフリカゾウは身体が大きく迫力があり、威厳を感じる。群れにロバくらいの大きさ
の小さな子ゾウを2,3頭連れている。子ゾウは大人のゾウ達に守られるように群れの
中にいる。10数頭が沼でパピルスを食べながら移動している。シャワシャワ、パリパ
リと大きな音をたててひたすら食べる、そしてノッソノッソと移動してまた食べる。

野生のゾウはこうやって、ほとんど寝ないで、一日中食べながら移動しているそうだ
。身体が大きいので、一日の食事量は200キロから300キロ。水は100リットル飲むとい
われる。ときおりプシューッ、ザバッと鼻から水を吸い上げて身体にかける。その轟
音がすごい。
ボスは身体が一番大きい。いつも最後尾を歩きながら、敵はいないかあちこちに目配
りをしている。
私たちがかなり近づいて(3,4メートル)群れを追っていたら、ボスが突然大きな耳
をバタつかせ、鼻を振り回して私たちを威嚇し、向かってくる気配を見せた。ガイド
が車をドンドンと叩いて反撃する様子を見せると、やっと諦めて歩いて行った。

移動するゾウを追いかけていたら日が暮れてきた。今日の探検はそこまでにして、サ
バンナの空を染める夕焼けを眺めながらホテルに戻ることにした。
夕食後、部屋に戻りながら夜空を見上げると、オリオン座がくっきりと見えた。南十
字星は見つからなかった。いろんな国で見あげたオリオン座がここにもあり。今更だ
がいつも不思議。
ロッジ泊

2月15日
午前7時ガイド、ジェームズと待ち合わせてサファリに出る。アカゲラ国立公園の南側
エントランスから、北に向かう尾根をゆっくりと動物を探しながら走る。道は昨日と
同じくアフリカの映像でよく見る赤土のでこぼこだ。アフリカン・マッサージ再び。

「カバのビーチ」でカバを探す。遠くに何頭も見えるが、顔を水面から半分出してい
るだけで、大きな鼻息が聞こえるだけ。
さらに北上を続けているとアンテロープの仲間が次々と出現、ゼブラの群れもあちら
こちらに見える。白黒の模様がくっきりとして、ゼブラの姿は美しい。かれらの縞模
様は一頭一頭がすべて違うのだそう。人間の指紋と同じらしい。

動物たちは私たちの車が近づいても逃げるでもなく、一斉にじーっとこちらを見つめ
ている。勢ぞろいでこちらに顔を向けている様子がかわいらしく思えるが、実は神経
を張りつめて、私たちの一挙一動を観察しているのだ。かれらの筋肉はいつでも逃げ
られるようにスタンバイしているはず。これらの草食動物はとても臆病だ。

ゆるゆると走りながら、遠くの山々に囲まれた、広い大平原に出た。マサイキリン、
ゼブラ、バッファローがそれぞれの群れをなして、草を食んでいる。その上空には様
々な鳥の群れが舞い飛んでいる。まさにサバンナの真っただ中。夢中で写真を撮る。
一頭のキリンがじっと立っている。こちらがどんなに近づいても逃げないで、様子を
伺っている。写真を撮ったあと、車中でホテルのサンドイッチをほおばっている間も
キリンはその様子を見守っていた。

車を走らせていると、広大なアカシアのブッシュが山火事で真っ黒に焦げているのが
目についた。原因不明の出火がときどきあるそうだ。近隣に住む住人の失火もある。
まだ燻っている場所もあった。真っ黒に焦げた炭を好んで食べにくる動物もいるとい
う。塩分があるのだそうだ。ミネラル不足の動物たちは、それを補給するためのいろ
んな知恵を持っている。

このサファリには肉食動物がいない。
そのため近々、南アからライオンとサイを持ち込む予定だという。その方が、サファ
リの生態系の理にかなっているとガイドは言う。いま悠々と草を食んでいる草食動物
たちが、いずれは、食われるかもしれない恐怖の中に放り出されるのかと思うとかわ
いそうな気がした。今があまりにも平和なだけに。

サファリを南から北まで移動するのに7時間ほどかかった。動物たちだけではなく、こ
の公園は鳥類のサンクチュアリでもある。約500種の鳥類が生息する。
長かったサファリの旅を終えるべく北の出口からキガリに向かう。途中の町でガイド
のジェームズが下車。お礼を言って別れる。私はもうクタクタだ~。途中の町のカフ
ェに入り休む。ドライバーはまだ若く、子供が生まれたばかりだと奥さんと赤ちゃん
の写真を見せてくれた。