インドへの旅立ち・No.17 もりぞのとしこ（文・イラスト）
１０月１９日
夫が「インドにはおもしろい事があるらしいよ。アユル・ベ
ーダーという、古来からの伝統的な健康法を量子物理学的に解
明したものなんだって。それによると健康体を得るための方法
に、超瞑想（ＴＭ）とヨガ、脈診などがあるらしい。例えば、
植物に音楽を聞かせたらどんどん成長していくというのもアユ
ル・べーダーからの発想らしいよ。近いうちに有名な脈診の医
者のところに行ってみよう」と、オフィスから帰ってきて話し
た。仕事の関係で会ったインド人からこの話を聞いたらしい。
わたしの好奇心がむくむくと湧いてくる。ヨガは知っている、
瞑想も知っている、けれど脈診って何だろう。早速、夫がその
人からもらって来た「パーフェクト・ヘルス「（完全なる健康
という本を辞書を片手に読んでみた。この本はディーパック・
チョプラというアメリカ在住のインド人医者が書いたもの。
それにはこう説明してあった。「アユル・ベーダー」とは５
千年の歴史を持つ、人間の精神と肉体に関する医術のことであ
る。（なんとマハリシ・ヨーギという人物は、ビートルズに超
瞑想を教えて有名になった人であった。）
「アユル」とはサンスクリット語で「生命」の意。「ベーダ
ー」とは「知覚」の意。「精神は肉体に深い影響を及ぼす。自
分自身を知覚することによって病気から解放され、それが精神
のバランスをもたらし、さらに肉体のバランスをもたらす」と
いうことがアユル・ベーダーの根本理念らしい。
１０月２３日
紹介された「脈診」の医者の診療所に行った。診療所はニザ
ムディン駅の近くの、ごみごみした場所にあった。たくさんの
人が待合い室で待っていたが、紹介状を持ったわたしたちは直
接医者の診察室に通された。ガマガエルのように肥った、色の
黒い老人が有名な脈診医、トリグンナジーという人。彼はアメ
リカやヨーロッパにまで脈診のために行っていると聞いた。そ
の人の前に４０才位の男性がいる。この人は、トリグンナジー
師の息子で助手をしている。
まず医者の前に座る。医者は脈を取って２、３秒じっと空を
見ている。ヒンディー語で何やら助手の息子に話す。
「バータ・ピッタ。アンバランス。肝臓、熱い。結腸にベルト。
胃に酸。」そして息子さんがわたしに通訳してくれる。しかし
具体的な病名は出てこない。要するに決定的な病気でなくても、
その部分にアンバランスが生じているということらしい。その
アンバランスが病気を呼ぶというのは、東洋医学のもともとの
考え方で一理ある。バータ・ピッタというのはわたしの身体の
タイプらしい。「トマト、ホウレンソウ、ヨーグルトはしばら
く食べないように。酢を取りすぎないように。薬をもらって帰
ってください。」
診察室を出て真っ直ぐ外に向かうと、道をはさんだ反対側の
建物に薬を作っている場所が見える。中に入ると、カウンター
の向こうで薬草を薬研（やげん）でゴリゴリと潰している人、
紙に包んでいる人などが忙しそうに働いている。わたしのもら
った薬は、葉を粉々にしたものと木の根を細かく砕いたものが
ミックスされていた。瓶に入った水薬は、立ち姿の女性の描か
れているラベルの絵からみて婦人科系のものと思われた。
確たるものがなくて、すっきりしない気持ち。しかし「座れ
ばピタリと当たる」というような胡散臭いものではないという
気はする。なにしろ、インド５千年の歴史により培われた、い
わば秘伝であるらしいから。帰って、再び「パーフェクト・ヘ
ルス」を読み始める。
量子力学医学の考え方では物質とエネルギーは交換で
き得るものであり、精神と肉体は一つである。故に人間
の肉体の健康状態を「堅固な物質」と思っているが、実
際には「川」のように絶え間なく形を変えているもので
ある。たとえば胃の細胞は５日ごとに、皮膚細胞は５週
間ごとに新しい細胞に変わっていく、というように。わ
れわれの肉体を構成している「原子」の９８パーセント
が、毎年交換されている。われわれは煉瓦が一個一個コ
ンスタントに取り替えられている建物のようなものであ
る。人間の身体には大まかに分けて３つのタイプがあり、
さらにその３つのタイプのコンビネーションにより、よ
り細分化されたタイプに分ける事ができる。
３つのタイプ・・・・バータ タイプ
ピッタ タイプ
カファ タイプ
これらのそれぞれのタイプがバランスを壊したときが病
気の始まりである。バランスを保つため、または元に戻す
ために、次のようなさまざまなセラピーがある。
アユル・ベーダー式ダイエット
ハーバル・メディスン（薬草）
マッサージ
アロマ・セラピー（香り）
ヨガ
マインド・コントロール（超瞑想）
等など
以上、「パーフェクト・ヘルス」よりの抜粋である。
（続く）