インドへの旅立ち・No.3  もりぞのとしこ(文・イラスト

1月10日
 珠貴がマジック・イヤーズ幼稚園に入る。車で30分もかか
るヴァサント・ヴィハールという地区にある。ちょっと遠いが、
英語での教育をする学校を何校か調べたなかでは、一番しっか
りしている感じがした。サリーを着た校長先生のブリティッシ
ュアクセントの英語を聞いていると、かなり上流の出身だろう
と思われた。

1月12日
 
昼食に、レビにカレーを作ってもらう。なすとトマトと海老、
じゃがいもが入っていた。レビはこの国では珍しく女性のコッ
クで、ゴアから出稼ぎに来たクリスチャンだ。英語が堪能だが
なにかと口うるさく、他の使用人からけむたがられている。今
日もスイーパーにミルクを買いに行かせ、お釣りを5ルピーご
まかしたと責めたてていた。インド人相互の不信感は相当なも
ので、レビは「インド人の誰も信じるな」とうるさくわたしに
忠告するのだ。

 家庭での使用人

 コック・・・男性がほとんど。地方から出稼ぎで来ている
                人が多い。仕事は早いが、時に食料品を盗ん
                で売ったり、酒を盗み飲みして水を入れてお
                 くような悪い人もいる。サラリーは800ル
                 ピーから1500ルピーくらい。
 ヘアラー・・食器洗い、台所の片付け、嗅ぐの埃取り、
                パーティーの給仕など。700ルピーくらい
 スイーパー・・床掃除、すべての汚い仕事はアンタッチャ
                 ブルの仕事である。350ルピーから500
                 ルピー。
 ドビー・・・洗濯、アイロンかけ。200ルピーから
                 250ルピー
 チョキダール・・門番。会社で雇われたり、夜番だけだっ
                 たり使い方が様々なので、給料も画一的では
                 ない。

    ※スイーパー、ドビーは、何軒かの家を掛け持ちで回る
       人が多い。

1月13日
 夜、インド大蔵省のマンカッド夫妻、スプラマニアン夫妻そ
してジョスィー夫妻の三組と、夫のオフィスの3夫妻がモーリ
アシェルトン・ホテルのレストランにて会食する。この3人の
大蔵官僚は「IAS」という超難関の国家公務員試験をパスし
てエリートコースを突っ走っている優秀な人たちである。
 夫人たちは錦糸が織り込まれた優雅なサリーを着て、額には
赤いビンディーを付け、文字通りインド女性の華やかないでた
ちだった。
 マンカッド夫妻はインド公使として日本滞在の経験があり、
一家揃って日本食が大好き。海苔、醤油など今でも手に入ると
みんなで喜んで食べるという、インド人にしては変わった嗜好
を持つ親日家である。(インド人は日本人が和食にこだわるの
と同じくらい、あるいはそれ以上にインド料理にこだわる人種
だ。)
 スブラマニヤン夫妻はヴェジタリアンで、肉食、魚類をいっ
さい食べないという。ミルクと卵、パニール(豆腐のように四
角く固いカッテージチーズ)、ダール類(ひよこ豆、金時豆、
大豆など豆類は種類が多い)などでタンパク質をとる。彼ら夫
妻にとってヴェジタリアンであることは、宗教上の理由という
より習慣だと言っていた。ミスター・スブラマニヤンは奥さん
に内緒で、外ではノン・ヴェジタリアンの食事もたまにしてい
るらしい。けっこうインテリ階級の我慢比べのような意味合い
もあるのかもしれない。
 何故インドにヴェジタリアンが多いのか。彼ら曰く、ヒンズ
ー教徒の敬虔な信者であるということが、もちろん第一の大きな
理由ではあるが、酷暑の中で新鮮な肉や魚に恵まれなかったか
らということもあると。なるほど。
 このレストランのコックさんは、グルメ漫画「美味しんぼ」
に載った人、さすがに一流の味がした。

            今夜のメニューの一部
            ダールカレー・・・豆のカレー。種類が多い。これをナ
                                       ンというパンにつけて食べる。
            サフランチャパティー・・・サフランの雌しべでオレン
                                          ジ色に着色したチャパティ
            ラムカレー・・・ラム肉入りのカレー
            海老とざくろのホイル焼き・・・海老とざくろ、玉ねぎ
                                       をチリソースでホイル焼きにする
            クルフィ・・・粉っぽい、インドのアイスクリーム


(続く)