9/4 2006掲載

よもやま話 Part3
 
k.mitiko 
 
私の慶州旅行の際、お寺に墓地が見当たらないことは
印象に残りましたが、それほど深くは考えており
ませんでした。「冬のソナタ」をはじめ韓流ドラマを
見るうちに、お墓参りする所が山の斜面の円墳に気が付き、
友人に聞きましたところ、韓国では葬式はほとんどと
言っていいほどお寺と関係がないことを知り、日本との
違いに驚いてしまいました。
 
(韓国三大名刹寺院 通度寺(慶州))
韓国の葬式は儒教形式で、日本のように一つのお墓に何体もの
お骨が入って「先祖代々」と刻まれるような形ではなく、一人ずつ
小山のようなお墓に土葬されているようです。そのためほとんどの
お墓が山中にあり、日本との違いにカルチャーショックを受けました。
 
 
 
(通度寺と並ぶ海印寺。ここの八万大蔵経板木は世界遺産になっています)
日本に仏教を伝え、新羅時代には仏教文化を花開かせ、仏教国と
ばかり思っていました国の変貌は、どこからきたのかと疑問が
生じましたが、これは私の無知、無関心によるものでした。
 
 
 
(朝鮮王朝の王宮 景福宮)
高麗王朝に替って新たに成立した朝鮮王朝は、それまでの
仏教を廃して国の政治の基本に儒教をすえ、冠婚葬祭を
はじめとして、社会の生活方式や各種の儀式などを儒教的な
制度に定めました。祖先を崇拝すること、年長者を大切に
すること、君臣の礼を守ること、男女の格差を設けること
などがその主な内容としてあげられます。
 
 
(景福宮にある慶会楼)
その考え方は韓国の文化に深く根付いており、韓国人は、親、
家族や親族、祖先を大切にし、目上の人への礼節を重んじます。
このことを知らないと韓国を理解したとは言えないのではないか
と考えるようになりました。韓国では仏教は死者儀礼と関わりが
なくなりましたがその信仰は今も人々の中に根付いているようです。
(最近のテレビのニュースでは、お葬式にお坊さんの姿が見えていました)
 
 
(山の中腹にある墓地)
韓国では何よりも祖先を大事にし、日本のお盆にあたる
旧暦の8月15日に秋夕(チュソク)があり、旧正月
(ソルラル)とともに年間の二大行事になっています。
祖先を敬う儀式は祭祀(チェサ)とよばれ、日本の法事に
あたるもので、今もなお盛んに行われています。
儒教の中心となる「親に対する孝行」にたいして、チェサとは
親が生きている間にし尽くせなかった親孝行を補うという意味で、
韓国人の精神文化を支える重大な行事なのです。
 
 
(「チェサ」のお供え)
韓国文化を語るとき欠かせないのが「チェサ」。「チェサ」には
韓国の人々の考え方、宗教観、家族関係、料理などが凝縮されています。
4代前までの先祖の命日に執り行われるほか、それ以前の先祖に
対しても墓参りをすべき日があるなど、細かいしきたりがあり、韓国人に
とって重大な行事のようです。チュソクは9月の中頃で、忙しい農作業がほぼ終わり、
一年の中で最も食物が豊かで余裕があり、天気もよく、韓国の人々にとっては
お正月よりも豊かな気持ちに浸ることができる時なのです。チュソクの前後の日も
休日になるため、この時期は日本のお盆と同じように帰省ラッシュになるようです。
 
 
(秋夕(チュソク) 右は松餅、左は踊り)
秋夕(チュソク)の日の夜、美しく着飾った女性が数十人ずつ
ある場所に集まり、お互いの手を取り円形に並んで'カンガンスルレ'
と繰り返される歌を歌いながらぐるぐると回る遊びをします。
また秋夕(チュソク)のお供えの松餅(ソンピョン)は、「秋夕」に
しか作らない特別のお菓子で、松餅は蒸し上げる時に松の葉を
敷くために、松の香りが独特のエスニックな風味を出しているのが
特徴だそうです。
 
 
(告祀(コサ)のお供え)
チェサとは違いますが、韓国では映画がクランクインする前に、
告祀(コサ)という成功祈願・安全祈願をこめた儀式をします。
豚の頭の燻製をそのまま真ん中に置き、撮影用のカメラや器具を
置いてナムルやジョンというお好み焼きのようなものにナツメや
果物、お餅などを供えます。日本で言うと、お払いみたいなもの
のようで、釜山のチャガルチ市場で見た豚の頭はこの儀式のための
ものだったことがわかりました。あらためて古代からの肉食の伝統が
生きつづける国であることを実感しました。
 
 

 
(秋夕(チュソク)の催し)
 
韓国旅行の際、街の表示はどちらを見てもハングルで、アルファベットも
漢字もなく判別しがたい文字にお手上げでした。しかし韓流ドラマでの
セリフに「契約」「約束」「規則」等の日本語と同音同意語(発音と意味が同じ)
が語られているハングルに驚くとともに興味を持ちました。
 
 
(同音同意語一覧)
友人の調べによりますと上記のようにかなりあることがわかり、
あの○や□のおまじないのようなハングル文字にも親近感が湧いて
きました。言葉にも儒教社会の考え方が反映されていて、年長者、
同輩、目下と厳しく区別されているようです。儒教文化は現代も
韓国社会のすみずみまで色濃く残っていて、韓国の人々のものの
考え方、見方に大きな影響を与えていることに驚きました。
 
 
 
(世宗大王)
世界の言語はほとんどが自然発生的ですが、ハングルは
朝鮮王朝の四代国王世宗(セジョン、名君と言われ大王の尊称で
呼ばれています)によって1446年創られ公布されました。
それまで限られた人たちしか読み書きできなかった漢字に代わって
誰もが使える文字として考えだされたものです。初めは両班階級
には受け入れなれなかったハングルも、次第に庶民の間に広がりました。
19世紀半ばから韓国の対外情勢が悪化する中で、ハングルは韓国の人々を
結束させる象徴になり、この頃からハングル(偉大な文字)と言われる
ようになったようです。
 
 
 
(日本と韓国の文字)
 
韓国語の先生の書かれた私の名前とハングル文字です。ハングルで
書かれた 作品、「春香伝」は映画などで日本でも知られています。
ハングルの同音同意語は、日本も韓国も中国の漢字文化圏にある
ことや、日、中、韓の歴史的経過から入り混じったようです。
良きにつけ悪しきにつけこの三国は離れがたい関係にあるのではと
思います。余談ですが私の好きな韓国語はケンチョナヤ(大丈夫)で、
ドラマの中では頻繁に登場して、楽天的で開放的な韓国の人々を象徴して
いるように思います。
 
 
 
(釜山のチャガルチ市場)
韓国には「三種類の人間がいる。男と女とアジュマだ」
という言葉があるそうです。それほど韓国ではアジュマは
特別な存在として認識され、逞しく生きています。
アジュマは実に良く働き、情が深く、店の女の子からは
イモ(お母さんの姉妹)と呼ばれ、悩み事などの相談に乗ったり、
料理を教えたりして皆から母親のように慕われています。
心が通う間になると、親以上の心遣いをしてくれる素晴らしい
人たちです。
 
 
(「韓シッタン」のママさん)
 
私の住む西新の町にも韓国の家庭料理の店があり、その店
「韓シッタン」のママさんはまだお若いですが、アジュマの
名にふさわしい女性です。釜山出身で日本に来て20年になり、
お店を開いて12〜13年なるそうです。日本語も結構流暢に
話され、ときどき微妙な発音に聞き返すこともありますが、
ママさんのお人柄もあってご愛嬌になっています。
 
 
 
「韓シッタン」は慶州旅行で知った韓国料理の美味しさを、
手軽に味わえるお店として何度か足を運ぶうちにママさんと
親しくなりました。お店は1階が韓国の食材をご主人(日本人)が、
2階3階の食堂はママさんが家庭料理を提供する場になっています。
 
 
 
その料理が好評で、私が頂いた料理はどれも美味しいのですが
チジミや冷麺は本場よりも美味しく思いました。ママさんは
手八丁口八丁の働き者で、それに肌がつやつやした美人で、
健康志向の強い韓国の人らしく料理にまつわる健康の話には
学ぶことが多く、美味しい料理を頂きながら色白で血色の良い
ママさんに、韓国の食事の素晴らしさを実感しています。
 
 
 
 (豆腐チゲ)
日本語は若いころ働いていた旅行会社(韓国)のガイドさん
たちからや、福岡市と釜山が友好都市の関係で日本にこられた
際など、少しづつ覚えたとのことでした。友好使節団の一行と
関西まで行かれましたが、福岡が気に入り結婚を決心された
そうです。その頃(1970年代)は今と違った日本人ブームが
あったが、一般の韓国人は日本への渡航が認められてなかったそうです。
日本人との結婚で福岡に住むようになって、料理店を開きたいと
思ったのは、故郷の情報が得られる事や、故郷の人と話せること
などの理由がありました。
 
 
 
  (1階の食材売り場で)
西新の町で店を始めた頃は冷たい仕打ちも受けたが、一方では
親切な日本人に助けられたとのことで、同じ町に住む者として
ほっとしました。ママさんからみた日本は道がきれいで、人が多勢
集まっても必要なときは行列をつくり、人に迷惑をかけないという
ことを大事にしている。ウソをつかないし自慢しない、物づくりが
素晴らしくメイドインジャパンは価値があるとのことでした。
しかしその素晴らしさも少しづつくずれていっているように思う。
若者たちをみていると、韓国の若者は目標がありプライドが高く
意欲的だということと、日本の若者には少し気になるところがある
とのことでした。韓国にパチンコ店がないということには驚いて
しまいました。
 
 
 
「韓シッタン」の食事は夕方5時半からで、昼間は週1回の
韓国料理教室(2階)と韓国語教室(3階)が開かれています。
韓国語の先生Yさんは、30歳になられたばかりの二児の
お母さんで、在日三世の複雑な環境にもめげず好学心に燃えて
自分らしい生き方を歩んで居られる方です。いろいろとお話を
伺い日本人として考えさせられましたが、それについては
後日紹介したいと思います。教室では個人レッスン、グループ
レッスンとあり、関心のおありの方は「韓シッタン」に
ご連絡ください、とのことでした。
 
 
「韓シッタン」については

   福岡市早良区西新4−9−18
   ハトヤ通りビル(ほうらく饅頭の横から入る)
   tel.092−846−9888
   営業時間 17:00〜
        1階の食材市場は11:00〜19:00
  (月曜日定休)
 
 
参考資料
 
   「日本人と韓国人」なるほど辞典      PHP文庫
    朝鮮・韓国の歴史     岡百合子    平凡社
    となりの韓国人            黒田福美    講談社

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