7/10 2006掲載

                川島道子
 韓よもやま話 Part1
 
韓国のくらし
 
私の初めてのそして唯一の海外旅行は2001年5月の
韓国旅行でした。妹夫婦と博多港から高速船ビートル
で釜山に着き、目的地慶州への2泊3日の旅は、3時間
足らずで行ける韓国での見聞にカルチャーショックを
受け、文字どおり近くて遠い国を実感しました。
「冬のソナタ」を見たことがきっかけになり、韓国の映画や
ドラマをとおして、私が韓国についていかに無知で無関心
だったかに気がつき、私が素朴に感じたことをくらしや風習、
文化について韓国よもやま話としてまとめてみました。
 
韓国の国花をご存知でしょうか。日本ではムクゲと呼ばれて
夏に咲く花で、散っては咲き、また散っては咲く生命力の強さが、
韓国人の歴史と性格によく例えられ、韓国の人々から無窮花
(あるいは木槿)と呼ばれて愛されています。大韓民国
(テハンミングク)の総人口は約5千万人、その内の4分の1が
首都のソウルに住んでいて、面積は日本の半分程度です。
気候は日本と同じように四季のある温帯気候で、北部は
大陸性気候の影響で寒暑の差が大きく、南下するにつれて
海洋性の温和な気候になります。

韓国といえばチマチョゴリが有名ですが、現在ではほとんどが
洋装のようで、正月や秋夕(日本のお盆にあたる)結婚式などでは
民族衣装の韓服を着る人も多いようです。女性の韓服は短い上衣の
チョゴリと優雅なスカートのチマ、男性用は上衣のチョゴリにズボン
のパジ、くるぶしはデニムという紐で結びます。チマ・チョゴリは
色彩が華やかで、刺繍入りの豪華なものもあります。
 
チョゴリの胸元につけるノリゲは装飾として多種多様に造られ
華やかさを演出しています。からっと乾燥した韓国の風土には
原色が映え、赤や黄、青、黒、白の5色は邪気をはらって幸運を
招くための聖なる色として、朝鮮王朝(1392−1910)末期までは
王宮や寺院だけに限って使用されていました。
現在、この5色はセクトンカラーといい韓国の民族を象徴する
色として、子どもの晴れ着であるセクトンチョゴリ、ムーダンの
衣装から寝具にいたるまで、また宮廷料理をはじめ庶民的な
ビビンバブにまで、この5色を見ることができます。
 
服を上下に分けた韓国の伝統的な男女の衣服は、4世紀から7世紀
後半ごろの高句麗古墳壁画に描かれた人物の服飾とほとんど変わって
いないようで、時代によって多少の変化はあっても基本構造は
伝承されていて、そのことは韓民族のすぐれた伝承力と
忍耐心、さらに保守性が反映された結果ではないかと考えられて
いるようです。
 
韓国ではあぐらが正座で、日本の正座は韓国では恭順の意をあらはす
ときの座り方になっています。韓国の女性の正座は片方の膝は
あぐらの形で床につけ、片膝を立てて座ります。チマチョゴリには
この姿が優雅で良く似合っています。女性の立てひざについては知って
いましたが、正座については日韓の違いに驚きました。

韓国の食べ物といえばキムチを連想しますが、私の韓国旅行でも
その料理の美味しさにとりこになってしまいました。韓国料理の
おいしさの秘密は、ひとくちに言えば薬念(薬味)に塩、砂糖、醤油、
味噌、塩辛、胡麻胡麻油、胡椒、唐辛子、にんにく、生姜、酢など調味料と
香辛料の組み合わせによって醸しだされています。たとえば、キムチを
漬けるときの塩味は食塩よりも、塩辛で味付けるために、キムチの味を
複雑な深いものにしています。
 
韓国料理の美味しさとともに重要なことは、さまざまな食品材料が
健康を志向していることで、韓方薬(漢方薬)と結びつきをもちながら
発展してきたことです。その根底には「薬食同源」の考え方が流れていて、
薬菓、薬食、薬酒と食べ物の名に薬という字を入れたものが見られ
ます。韓国料理の味の決め手になる唐辛子は、17世紀中ごろ中国や
日本から伝来したものを、品種改良によって今日みられるような形や
辛さをもった唐辛子ができあがりました。韓国の唐辛子は日本のような
辛さはなく品種も多様で、甘みや香りの高いものになっています。
韓国では子どもが生まれると、玄関に藁で編んだひもをつるし、男の子
なら唐辛子を、女の子なら炭をはさんで邪気を払いました。
 
唐辛子の辛味成分、カプサイシンが脂肪を分解してエネルギー
代謝を亢進する効果があるために、寒い冬に身体をあたためる
効果があるといわれています。また唐辛子は乾燥してもビタミン
Cや、ビタミンA・Eの豊富なために、長い冬のあいだ野菜が
不足がちな韓国の人々にとって、唐辛子をたくさんとるように
なったのは、長い歴史の中で見出した知恵ではないかと言われて
います。多様な料理法によって宮廷料理から郷土料理まで、
多彩な韓国の料理は薬念と調和して他の追随を許さないものに
なっています。
 
日韓の食文化の違いを感じさせるのは食事のさいのマナーで
金属製の箸と匙を使い、基本的に汁物は、汁も具もご飯も匙で
食べ、皿に盛られたキムチや焼肉などは箸でたべます。
食器は原則的に持ち上げてはいけないルールになっています。
この点では韓国式が世界の主流派で、日本の方が珍しいマナー
といえるのではないでしょうか。食器類も庶民の間ではとんどが
金属製のものになっています。またお酒を飲むときは、目上の人の
前では、少し顔を横に向けて飲むのが礼儀正しいとされ、口元を
隠しながら飲むとさらに礼儀正しいとされます
 
器に盛られた白いご飯、味噌仕立ての汁物、漬物や和え物の小皿、
日韓に共通する食文化に、玄関で靴を脱ぐ習慣の韓国の住まいは
日本ともよく似ています。日本は世界で最も寒い住居で暮らして
きた国ではないかと言われるほど、日本式家屋は夏向きに建て
られています。緯度の高い韓国の冬は寒さが厳しく古くから
伝統的な暖房設備が普及してきました。それがオンドルです。
 
オンドルは床暖房の一種で韓(朝鮮)半島では11世紀ごろから広まり、
燃料は台所の煮炊き使う薪だけでしたが、現代では石油ボイラー式
になりました。暖める室の床を二重にして、その床下に煙の通る道を
つくって、暖かい空気を送り込んで床を暖めるようになっています。
かってはオンドル部屋は石の床に何層もの油紙を敷き詰めていましたが、
現代ではビニールクロスが用いられています。オンドルがよく効く炊き
口に近いところは、日本でいう床の間に近い上席で、家の長老や客が座ります。
 
煙突も建物の重要外観で趣向を凝らしたものになっています。
床から部屋全体を暖めるオンドルのため、床に布団を敷いて
寝るという点では、日本と韓国は似た者同士で、毎朝毎晩、布団の
上げ下ろしをするのも同じです。オンドルを炊けば室内の空気も
乾燥し、布団を干す習慣がありません。そして錦織りや色鮮やかな
布地の布団は、床暖房のために上下とも薄く、表を出して折りたたみ、
インテリアとして室内の一隅に置かれているのには日韓の文化の違いを
感じさせます。
 
参考資料
 
 韓国       金両其 監修   新潮社
 朝鮮の歴史    池明観      明石書店
 日本人と韓国人  コリアンワークス PHP文庫
 韓国ドラマ10号           角川書店

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