5/10 2007掲載

想い出の映画スター

デボラ・カーの代表作
 
 
知的で気品のある容姿と確かな演技力で、1950年代を
代表する大スター、デボラ・カーはスコットランドに生まれ、
早くから演技の道を志していました。「赤い靴」などで有名な
マイケル・パウエル監督、製作者のエメリック・プレスバーガーに
見出されて1941年に映画デビューをしました。
 
 
1943年「老兵は死なず」に出演の初々しいデボラ・カー。
パウエル=プレスバーガーのコンビによる作品に次々と出演し、
デボラ・カーの魅力は磨かれていきました。
余談ですが、このイギリスのコンビは、1940年代から
50年代にかけて「黒水仙」「赤い靴」「ホフマン物語」などの
名作を世に送り続けました。
 
 
1946年の「黒水仙」はストーリーとしては少々難解でしたが、
ヒマラヤの奥地の修道院の尼僧を演じたデボラ・カーの気高い
美しさと、名カメラマン、ジャック・カーディフの撮影による
ヒマラヤの厳しい自然や風土とが一体となって強い印象を受けました。
この後ハリウッドに招かれ、次々と話題作に出演し、大成功をおさめました。
 
 
1951年「クオヴァディス」
 
 
1953年「悲恋の王女エリザベス」
1950年代に入ると気品ある容姿から「クオヴァディス」や
「悲恋の王女エリザベス」のような歴史劇が続き、デボラ・カーは
作品に飽き足りなく思っていました。
 
 
1953年の「地上より永遠」に出演したことが、デボラ・カーに
とって大きな転機になりました。映画は日本軍の真珠湾攻撃の前後の
ハワイの基地を舞台にして、アメリカ陸軍の内幕を鋭く描いた内容でした。
将校である夫の浮気による不仲と、不妊となったために、男あさりを
している女性を演じました。
 
 
不倫の妻役は他の女優が演じる予定でしたが、紆余曲折の末
貴婦人タイプのデボラ・カーが演じることになりました。冷たい美しさの
なかに、深い苦悩とともに内面からにじみ出る女としての色香が、一層
苦悩を深めていく演技は、それまでの慎ましやかな淑女からの脱皮で、
デボラ・カーのイメージを一新しました。
 
 
登場シーンは多くはありませんでしたが、恋人役のバート・ランカスター
との浜辺のラブシーンは、一部映倫カットを受けるほどでしたが、映画史に
のこる名場面になりました。この映画のデボラ・カーには、三島由紀夫も
惹かれたほどその魅力は素晴らしいものがありました。この映画はその年の
アカデミー賞の作品、監督、脚色、撮影、録音、編集、助演男優
(フランク・シナトラ)助演女優(ドナ・リード)の各部門に輝きました。
 
 
1954年の「情事の終わり」は第二次大戦のさなか空襲を受けている
ロンドンを舞台に、政府高官の妻と作家の不倫を描きながら、そこに
信仰がからみ、作品としてテーマが消化不良ぎみでしたが、デボラ・カーの
存在感が、この映画を支えていたようでした。
 
 
1956年の「誇りと冒涜」は戦死した夫を慕って看護士として夫と
同じ戦場に赴いた妻が、そこで出あった人物から、思いもかけない
事実を知り、その男性と恋に陥る映画です。最愛の夫が自分を悪妻と
して戦友に語っていたことや、愛した男性には妻が居たことなどで
誇りを傷つけられた女性をデボラ・カーが熱演していましたが、
作品としての完成度に不満が残りました。デボラ・カーの美しさが
際立っていました。

 
 
1956年の「お茶と同情」は当時アメリカの映画、演劇界でタブーと
された同性愛を正面から取り上げたもので、エリア・カザン演出、
デボラ・カー、ジョン・カー出演の舞台はブロードウエイで大ヒット
しました。そのドラマを舞台劇のオリジナルキャストで映画化しましたが、
ハリウッドの倫理コード(日本の映倫)との関係から、舞台劇を大幅に
変更した上で製作されました。
 
 
問題の同性愛は巧みな脚色により背景に退き、シスターボーイと噂された
高校生と寮の舎監の妻との恋は、思春期の繊細な感性を持つ若者が必要とする、
強い愛情と深い理解をもつことの重要性が、デボラ・カーとジョン・カーの
好演により浮き彫りにされました。特にデボラ・カーの微妙な心理表現が
素晴らしく、この映画の大きな魅力となりました。
 
 

ブロードウエイの大ヒットミュージカルを映画化した1956年の
「王様と私」は、ユルブリンナーの王様と、デボラ・カーの家庭教師の
心温まる交流が「シャルウイダンス」をはじめ、数々のヒットメドレーで
描かれた優れたミュージカル映画でした。
 
 
この映画は、批評家と観客の両方から支持を受けて大ヒットしました。
デボラ・カーの歌は、「マイフエアレディ」でオードリー・ヘップバーンの
歌を吹き替えた、マーニ・ニクソンによって吹き替えられました。

 
1957年の「めぐり逢い」は一言でいえば恋に落ちた男女のすれ違いを、
題材としたメロドラマの古典的名作と言えます。同じテーマで3回映画化
されていますが、イギリス出身のケイリー・グラントとデボラ・カーの
くみあわせによるこの「めぐり逢い」が評価が高いようです。

 
 
デボラ・カーの典雅な美しさ、洒脱なケイリー・グラントの持ち味が、
生かされて、今も愛されている主題歌とともに人々の心をとらえた、
古きよき時代のハリウッドの、すぐれたラブロマンスです。デボラ・カーの
芯の強さや気高さが、他のメロドラマと一線を画していたといえます。
ファッションも50年前とは思えない優雅なものでした。
 
 
美しい音楽を背景に、豪華客船上の夢のような物語、感動的なラスト、
すべてがおとぎ話のように思えますが、私はこういう映画を見て、夢を
膨らませ心を育ててきたのだなと今思います。デボラ・カーの代表作と
いえば「地上より永遠に」「王様と私」「めぐり逢い」があげられますが、
私はそれに「お茶と同情」を加えたいと思います。6回も候補にあげれた
アカデミー賞の主演女優賞は受賞できませんでしたが、映画と舞台の
両方で数々の賞を受賞し、1995年アカデミー名誉賞を受けました。
 

TopPage