私の好きな二行         茨木のり子

年をとる それは青春を
歳月のなかで組織することだ    ポール・エリュアール
                  大岡信訳
長詩の一部らしいのだが、そしてポール・エリュアールというフランスの
詩人のこともよく知らないのだが、若い時に読んで、いまだに記憶に
焼きついているのだから、とても好きな二行といっていいだろう。
短いのに、なんという深さを湛えていることか、(組織する)という
硬い言葉がここではひどく艶のある使われ方で、たぶん翻訳もいいのだろう。

組織するー組み立て直すという言葉からは、織物のイメージが浮かんで
きてしまう。青春とは、だいたいが恥多き季節で、はちゃめちゃな萌芽が
わけもわからず炸裂する。

それを縦糸として結び直し、あれはいったい何だったのだろう?
何だったのだろう?と思いつつ、横糸を一日一日織りなして、一枚の
タペストリーを仕上げてゆくのが人間の生涯なのかもしれない。

ただ青春の糸がこんがらがったまま、なしくずしの人生を送る人も多い。
最近おもうのは、八十年ばかり生きるのに、きれいなタペストリーを
織った人と、なしくずしの人生を送った人と、大差はないのでは?と
いうことである。

とは言うもののどんな仕事であれ、若き日の憶いが高齢になるまでひとすじ、
つながっている人の方が、どちらかといえば好ましい。