11/21 2002掲載

v.K.

ドレスデン2002 Part1

 南ドイツからドレスデンに行くには、バイエルン州北端のホーフからチェコ国境沿いに

走るアウトバーンを使うのが最短である。しかしこのルートは旧東ドイツ時代は国境まで

の行き止まり路線であったため、統一後の1993年に於いてもその整備状況は劣悪そのも

ので、到底アウトバーンと呼べる代物ではなかった。途中ケムニッツを通る。この町は東

ドイツ時代カール・マルクス・シュタットと呼ばれていたが、統一と同時に待ってました

とばかり昔の名前に戻してしまった。この付近は延々数十キロにわたってアウトバーン改

修工事が行われている。ベルリンからライプチヒへ行くアウトバーンも後日通った時、突

貫工事の真っ最中であった。まるで一から新たに建設しているような大工事であった。で

は、西ドイツ政府が東ドイツ政府に、西ドイツと西ベルリンの往来のために毎年渡してい

たアウトバーン整備費は、いったいどこに消えたのであろう?幸いドレスデンに近付くと

改修工事は終わっていて、往復六車線の立派なアウトバーンが東に向かって延びていた。

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 ドレスデンが近付いてきた。右側車線に寄り、速度無制限のアウトバーンだが、時速100

kmに落とす。もう間もなくだと思ったところで、三半規管で捉える位置覚の微妙な推移

に甦るものがあった。前2回の来訪時も車で来たがいずれも夜で、前を行く車の赤い尾灯

以外は青地に白く文字の浮き出た、巨大なアウトバーン進路標示板しか目に入らなかった

はずだ。

 

しかし甦る記憶が何であるかはすぐ分かった。この右にゆっくりと弧を描いた緩やかな下

り坂。そうだ、このカーヴの先に出口があるんだ。記憶と今日始めて目に入る景色が無理

なく一致した。明るい日射しの午後、なだらかに坂を下りてゆく車の行く手にドレスデン

の街が見えてきた。赤い粘板岩の瓦で葺かれた家々が折り重なるように並んでいる。あの

一番低くなったところを、アウトバーンを横切るようにエルベが流れているのだろう。そ

の向こうには再び緑の森に覆われた丘が見える。絵に描きたくなるような美しい景色だ。

一瞬着陸間近の飛行機から地上を見ているような錯覚に捕らわれた。統一前より家々が美

しくなったようだなと思う間もなく「ドレスデン旧市街」と書かれた出口が見えてきて、

吸い込まれるようにここでアウトバーンを降りた。私たちの今夜のホテルはエルベの向こ

う、「新市街」にある。もう一つ先の出口「ドレスデン新市街」で降りてもよいのだけど、

やはりまず旧市街をグルッと回ってホテルに着きたい。

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ツヴィンガー宮殿 オペラ劇場

 やがて私たちの車はポスト広場にさしかかる。ここから先が旧市街だ。車は広場を左に

曲がってゾフィー通りにはいり、エルベ川の方へ進む。通りの左手には北ドイツバロック

の華ツヴィンガー宮殿があり、その先は広場になっていて奥に州立オペラ劇場がイタリア

・ルネサンス風の、優雅な中にも端正さのある姿を現す。広場のツヴィンガー宮殿と向か

い合う側にはイタリア村と呼ばれる一群の建物がある。イタリアから連れてきた建築職人

達がここに住んだことに由来する。その裏側はエルベ川である。

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王宮上空に気球 王宮教会と背後に王宮

通りの右手には王宮が見える。王宮は正式には屋形(レジデンツ)王宮という。ザクセン

王家ヴェッティン一族の生活の場であった。その先にはイタリア・バロックを模した王宮

教会が豪壮な姿を見せている。18世紀初め大王フリートリッヒ・アウグスト1世(大王)

の命令によって建設が始まったこれらの歴史的建築群は、100年余りの歳月をかけて少し

ずつ建てられ、19世紀中頃現在の景観が整った。その当時から劇場前広場は夕べになる

と華やかに着飾った貴族、紳士、淑女、将校らに溢れたことであろう。ドレスデンを訪れ

た諸侯はこのゾフィー通りを通ってザクセン王宮に招かれたことであろう。第2次世界大

戦末期の空襲でこれらの建物の多くは瓦礫と化し、あるいは壁だけ残した廃墟の姿を亡霊

のようにさらしていた。それらは東ドイツ政府の手で少しずつ往事の姿に復元され、その

作業は統一ドイツに受け継がれている。

 

DD06.jpg右に進むとエルベ川

 やがて車は王宮教会の前を大きく右に曲がり、突然目の前に現れたブリュールのテラス

に突き当たりそうになる。これはエルベ川沿いの要するに堤防だが、道路から30段ほど

の広い階段を上がると、堤防の上は広々としたプロムナード(散策路)になっており、「ヨ

ーロッパのテラス」と称号を授けられている。ブリュールのテラスに上る階段の真ん前で

車は左に曲がり、大王の名を冠したアウグスト橋を通ってエルベ川を渡る。

DD07.jpg今年八月の冠水

 渡り終えたところが新市街である。と言っても15世紀には既にここも十分開けていた

し、以前来た時のR氏の説明では古代からここに人が住んでいた跡が発見されており、厳

密な意味ではエルベの此方が旧市街であるという。橋を渡り終えてすぐ左折したところに

15年前泊まったホテル・ベルヴューがあった。高級ホテルにふさわしく今回もロビーに

人が溢れることはなく、清潔で静粛で上品な空気がホテルを支配していた。ホテルの部屋

はエルベ川に面した側を指定しておいた。部屋からはエルベ川の向こうに今しがた通って

きた旧市街が見える。1988年にこの景色を見た時は感動した。今回は新たに復元された

王宮の塔なども見える。あとは釣り鐘を想わせる聖母教会のドームが再建されるのを待つ

ばかりである。

(続く)

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