2/14 2003掲載

v.K.

<「プラハの春」を読んで_(1)>

 正月休みに春江一也作「プラハの春」を読みました。このHPでも何度か取り上げられ、eguchi
君が切符が要るならいい席が世話できると連絡してくれましたが、その頃は時間の都合がつか
ず、そのままになっていました。先に読み上げたマリアから「絶対引き込まれるから、早く読みなさ
い」と強く奨められていたので、文庫本上下計900ページ余かなりの大作ですが、一気に読み上
げました。「プラハの春」動乱は1968年のことですが、大学生だった私はよく覚えています。ドプ
チェクやスボボダという名も覚えています。朝日新聞夕刊「フジ三太郎」で取り上げられたことも覚
えています。私の内面でソ連に対する嫌悪感を燃え上がらせた事件でしたが、チェコスロヴァキア
は遠い国で、将来自分がその国を訪れるなど、考えもしませんでした。それが35年ぶりに、たとえ
小説であろうが動乱の「プラハの春」の真相を知ることになりました。実際には社会主義政権末
期、縁あってプラハを訪れましたが、その美しいたたずまいに一目で虜になってしまいました。



(PRH101 プラハ観光定番 カレル橋からプラハ城を見上げる)

 麗しのプラハ。モラヴィアの穀倉が、ボヘミアの森が、豊饒の実りを捧げる百塔の都。ヴィーンほ
ど厚化粧でもなく、ドレスデンほど多くを失うこともなく、ミュンヘンのように田舎者でもなく、ベルリ
ンのように成り上がりでもない。カレル橋に立つ聖フランシスコ・ザビエル像を川面に映し、ヴルタ
ヴァ川は滔々と流れます。見上げるプラハ城はハプスブルク以来の歴史を今に継ぎ、壮麗なるス
ペインの間は、ビロード革命によるチェコスロヴァキア連邦共和国の新生を見守りました。開祖ヴァ
ーツラフの栄光を今に伝えるヴァーツラフ広場は甦った平和と繁栄をいつくしむ人で賑わい、旧
市庁舎の天文時計は、泰西最古プラハ大学以来の叡智を凝集するかの如く時を刻みます。
 そしてチェコスロヴァキアの工業技術には非常に高いものがありました。第一次世界大戦で連
合軍をさんざん悩ませた大砲と機関銃、揺籃期以来のシュコダを中心とする自動車産業など、こ
の地方はハプスブルク帝国以来の重要な工業地帯でした。


(PRH102 マーラ・ストラナ(小地区)をプラハ城へ上る イタリア大使館があった)

 しかしあの美しい街にかつてソ連軍の戦車が、女の寝室に泥だらけの軍靴で上がり込むように
侵入し、健気に反撃する女を殴って犯すように蹂躙していったのかと思うと、そして騒乱の中で日
本人の男と東ドイツ女性の、禁じられた激しい愛が燃え上がるといえば、いやでもぐんぐん引きず
り込まれました。



(PRH103 プラハ城から南方を見る)


(PRH104 地下鉄で市の南端に来た。前写真と逆にプラハ城を遠望する)


 物語は在プラハ日本大使館付外交官である主人公がヴィーンでのイースター休暇を終えてプ
ラハに帰るところから始まります。季節は天候の不安定な4月。天気は下り坂、激しい雨になる。国
境を越えるところで小説最初の緊張が始まります。雨の中閑散としたオーストリア側国境で、顔見
知りとなった国境警備官にコーヒーを勧められ、数百メートル進んだチェコ側では防御壁、監視
塔、遮るものが取り払われた草原、犬を連れ自動小銃を抱えた警備兵、高いフェンスと鉄条網、
地雷原に守られた物々しい国境が待っている・・・(ああ、これは東ドイツに行ったあの時と全く同じ
だ。)



(PRH105 ヴルタヴァ川と国民劇場)

 そして雨の中、主人公は故障して動けなくなった東ドイツ製中型車ワルトブルクを見つけ、そこ
に運命の出会いが待っていました。車の中で途方に暮れていたのは美しい女性とその娘。実は
女性は夫が東ドイツ政府高官でありながら反体制活動を続けるドイツ人女性でした。当時は日本
国旅券に北朝鮮と東ドイツへの入国は出来ないと、わざわざ明記してあった時代です。話は一気
に面倒なことになりそうです。ためらいつつ警戒しつつも放ってはおけない主人公と、ためらいつ
つ遠慮しつつも、熱を出した娘のことを思えば好意に甘えざるを得ない女性は、一台の車でプラ
ハに向かいます。


 

(PRH106 旧市街広場 ティーンの聖母教会 手前にフスの像)

 小説の中、主人公はたびたび愛車フォルクスワーゲンであちこちに出向きますが、そのたびに
美しい風景が紹介されます。例えば上の場面、
”フォルクスワーゲンは雨上がりの国道をモラビア丘陵地帯からボヘミア平原にさしかかっていた。
雨雲が切れ、雲間から漏れる幾筋もの太陽の光の中に、平原の村や丘陵の暗い森が、そこだけ
スポットを当てたように浮かび上がる光景は、聖書をモチーフにした中世の宗教画を見るようであ
った。・・・”
と描かれています。平易な表現ですが、チェコ国土の美しさがおおいに想像できます。


 

(PRH107 旧市庁舎前 スラヴ系顔立ちの男達 一人は軍服だった)

 ところで私は宝塚の舞台は見ていませんが、いったいなぜ数多い恋愛小説の中から、この小説
を舞台劇にしたら当たると判断したのか、そしてどうやって短時間の舞台にまとめたのか、専門家
の解説を伺いたいです。eguchi君よかったら教えてください。

(PRH108 旧市庁舎の天文時計)

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oo  von Koenigswert
oo  TEL 0942-43-5452
oo  apfel = apple
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