8/10 2001掲載
森脇久雄

8月8日、東宝ミュージカル『エリザベート』を観てきました。
観劇の感想を一言で言えば、一路真輝さんと井上芳雄さんに魅了されました、です。
 
写真@AB
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少女時代のエリザベート
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若き皇妃エリザベート
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晩年のエリザベート
一路真輝さんは宝塚歌劇での男役トートのイメージが強かったのですが、エリザベート皇
后役の何と気品高く、美しかったことでしょう。歌も素晴らしかった。少女時代から娘時代、

そして中年になった皇后役をそれぞれ声音やメイキャップ、所作もすべて変えていき、
同じ役者が演じているとは思えないほどの名演でした。
晩年、ルドルフ皇太子を失った後に暗い湖畔でフランツ・ヨーゼフ皇帝と唄うデュエット
は本当に素晴らしかったです。
 
写真CDE
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ルドルフ皇太子
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絶望のルドルフ
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ルドルフとトート
そしてルドルフ皇太子役の我らが井上芳雄君の何と凛々しく、爽やかで格好良かったこと
でしょうか。スラリとして背が高く、足が長く、制服がこんなに似合う日本人男性はちょ
っといないのでは、と一緒に観劇した家内を含む女性達の一致した意見でした。
トートと2人で踊り、唄うシーンの素晴らしさに友人の息子がこんなに際だつほど華やか
になって、と観ている最中に涙が滲み出てきそうになり、必死に我慢するので鼻水となっ
て出てきたくらいです。
一緒した宝塚オタクの上島さんの妹さんは、宝塚歌劇男役の理想の姿、それを男性が演じ
ている、と感想を述べていました。彼女は昨年夏の帝劇公演も観ているのですが、演技も
唄も俄然上手くなっている、とのこと。上島さん姉妹はヴィーンでも『エリザベート』を
観てきております。
フィナーレ時、出演者が手拍子のもとに次々と舞台に現れてくるとき、芳雄さんのときに
起きた拍手の大きさは一路真輝さんに勝るとも劣らないものがあったのです。
 
写真FG
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フランツ・ヨーゼフ・鈴木綜馬
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皇后暗殺者ルキーニ・高嶋政宏
息子に連絡しておくから、とお父さんの哲雄さんに言われていたので、公演後すぐさま、
楽屋裏に訪ねていったのですが、芳雄さんは全然すれたところのない謙虚で素直なそこら
のおにいちゃんという雰囲気の本当に感じの良い青年でした。
10数年前、ご両親、長君と一緒に会食したとき、幼い彼がついてきていたのですが、そ
れ以来の再会。
「幼かったので森脇さんのこと全然覚えていないんですが、母からハプスブルク家やエリ
ザベートに大変お詳しい方とお聞きしております。ミュージカルは如何でしたでしょう
か?かなり史実とは違う造りっぽいものだったのではないですか?」と言うので、「エリ
ザベートの生涯をかなり忠実に描いていると思いますよ。あなたの演じるルドルフが自殺
するにいたるあのときの状況も限られた場面の中でとてもうまく描かれていると思いま
した。それよりもあなたのルドルフ皇太子は素晴らしかったです。私は宝塚歌劇で二度観
ているのですが、それらのルドルフよりもはるかに印象深く、いかにも悲劇の皇太子らし
い役を演じていると思いました」と答えると、嬉しそうな笑顔を浮かべ、それがまた何と
も言えぬ魅了されるものがありました。
 
写真
takarazuka.jpg
記念写真を撮るとき、こんな輝くような美形の前に女性達はかなり緊張しておりまして、
家内なんか、私みたいなお婆さんがとんでもない、と気後れするのを無理矢理一緒に並ば
せて撮りました。
楽屋には芳雄さんお目当ての面会者達が10人ほど控えており、これ以上、芳雄さんを我
らだけで引き留めては、と私は遠慮するつもりだったのですが、「父母に森脇さんとの写
真を見てもらいたいですから」と芳雄さんに言われ、私もツーショットを撮ってもらいま
した。
 
芳雄さんと別れて、天にも昇ったような興奮状態のまま、楽屋入口から外に出てみると、
何と、大勢の女性達が列をなしてミュージカル出演者たちが出てくるのを待っているので
す。
何か申し訳ないような気持ちになり、こそこそと私たちは足早に梅田コマ劇場を後にした
のでした。
 
阪急梅田駅で上島さん姉妹と別れた後、それまで押さえていたのでしょう、それまで寡黙
だった家内が内面から溢れてくるような思いを噴出するかのように、芳雄さんの素晴らし
さを讃えます。
東京公演が大ヒットしたのは、芳雄さんの魅力に寄るところも相当にあったに違いない、
と。
お父さんの哲雄さんに聞いたのですが、東京での公演中、芳雄さんは宿舎から地下鉄を利
用して帝劇に通ったそうですが、茶髪に180センチの身長、そして甘いマスクという目
立つ容姿なのですぐさまルドルフ皇太子役をやった男の子と気付かれ、女性達がサインを
求めてやって来、気軽に対応するのでそれが口コミで広がり、公演後の最寄りの地下鉄近
辺にはファン達が大勢待機するようになって、それが息子には大変な精神的負担になった
とのこと。
彼の輝くような風貌の素晴らしさと人なつっこさを間近で見たとき、無理からぬ現象だと
思いました。
ルドルフ皇太子役は2000人の中からオーディションで選ばれたのですから、天性のス
ターの資質を持っている人の宿命でしょうね。
「裕美子を連れてこられなかったことが本当に残念!」と言う家内の言葉に今日、どんな
に家内が胸がときめいたかが推察され、私も嬉しかったです。
 
一路真輝さん、井上芳雄さんの素晴らしさを見るだけでもこのミュージカルを鑑賞する価
値はあります。
ミュージカルを観たことが無い方、是非、一度いらっしてください。
 
最後に、昨年夏、東京公演を観た舩津君が、東宝ミュージカルと比較して、宝塚歌劇の方
は物足らなかった、と感想を述べておられましたが、これはもう趣味の問題だと思います。
男役は男性が、女役は女性が、という方が一般の人には受け入れやすいだろうとは思いま
すが、宝塚歌劇の『エリザベート』はまた違った魅力を持ち、それは宝塚歌劇でしか味わ
えない独特のものがあるのです。宝塚オタクの上島さん姉妹は別としても、それほど宝塚
に惹かれない家内も私と同じ考えでした。
私は逆に、この東宝ミュージカルを観て、もう一度、来年公演があるという宝塚歌劇の『エ
リザベート』を観たいという気持ちになりました。