堂田さんのこと 2003.03.17 by リワキーノ
これは、アルバトロスクラブML上で『国連に訴えた高校生』についてメンバーとの論争
の中で私が記した堂田さんにふれたくだりです。堂田さんの人となりを知っていただきた
く、抜粋いたしました。(この手記は4年前のものです)
『国連に訴えた高校生』論争の抜粋
また逆に私は、風太さんのようには恵まれてはいなかったけれど、少なくとも母親の配
慮によって本来の個性を大事に保ちつつ、優秀な大人となっていった(少なくとも彼と深
くつき合った私や息子の教雄、U.英治さん、N.良子さんはそう思っているのですが)ア
ルバトロスクラブのメンバー堂田弘文さんのことをお話ししたいと思います。
嶋田さんと同じように自称「落ちこぼれ人間」の堂田弘文さんも、高校時代、番長を張っ
ていたというくらいのワルだったそうで、結局、そのようなすさんだ高校生活に嫌気がさし、
中退しました。しかし、10年前に大峯山中で初めて堂田さんと出会ったとき、彼は26才
の若さでしたが、言葉遣いの丁寧な礼儀正しい応対と、あの独特の人なつっこい笑顔に
私は魅了され、それ以来、彼との友情は今にいたるまで続いているのです。
彼とつき合っていて一番驚かされたのは、番を張るほどの悪ガキであったという経歴か
らは想像もつかないほどの読書をしていること、そしてその読書の内容をキッチリと把握
して自分の精神的糧としており、会話していても教養を感じさせることでした。例えばこう
いことがありました。
平田保さんという保険新聞の編集をやっている山仲間がおり、彼と堂田さんと私はよく登
山を共にし、往復のドライブの中でよく語り合うのですが、一度吉村昭の小説の話題にな
ったことがありました。そのとき、堂田さんは同氏の小説『高熱隧道』の話をいたしました。
黒部ダム建設の苦難を扱ったドキュメンタリー風内容ですが、堂田さんがその小説の解
説をする話は非常に興味深く、私と平田さんはその後、直ぐさまその『高熱隧道』を読んだ
のです。そしてその小説は大変面白かったのですが、私は自分が読んでみて、改めて堂
田さんの解説が実に簡潔にこの小説のあらましと魅力を表していることに深い感銘を受
けました。私には自分が読んで感動した本を他人にこれほど的確に解説する自信はなく、
堂田さんの読解力と表現力が尋常でないことを感じたのです。これは知能の高さと感受性
の敏感さを物語るものではないでしょうか。他にも読書に関するこういったエピソードはた
くさんあり、彼が勧めてくれて期待はずれだった本は一冊もなかったのです。
そして、もう一つ私が感心するのが、彼はこういった読書歴を決して自分からひけらかす
ことが無く、何かの話題でそれに関連したとき、自分の読んだ本を例に挙げるのです。例
えばこういったこともありました。ある時、山中のテント泊のときでしたが、いつもこんなとき
は他愛のない酔っぱらい話の中に文学論とか人生論みたいな高尚な話題も差し挟まれる
中で、私が毛沢東の意外な面を紹介する例としてシュトルムの『湖』をこの怪物のような大
政治家が愛読していたことを話したとき、堂田さんはその作品の印象を語りだしたのです。
このときには失礼ながら本当に驚きましたね。シュトルムは世界文学の中では決してメジ
ャーな存在ではなく、ドイツ文学にこだわる人達しか読まないような作家の作品が高校中
退の男の口からヒョイと出てくるという成り行きに、私は彼の読書量の幅広さとまた、その
ようなことを普段気付かせるような言動をしない奥ゆかしさに圧倒される思いでした。同時
に私は、彼のこの読書への強い傾向はどんなきっかけから生じたものか大変興味を抱き、
彼に尋ねてみたのです。私は、高校中退後に彼が読書の世界にのめり込んでいったもの
と最初思いました。ところが彼の答では、きっかけは幼少時のものだったのです。それは、
堂田さんが物心ついた頃から絵本とか童話とかを読むのが好きで、その傾向に気付いた
お母さんが童話や少年少女向き小説類などをせっせと買ってきては彼に与えていたそうな
のです。それで買ってもらった絵本や本などを片っ端から繰り返し読んできたため、自然と
本を読むのが好きになり、長じて高校時代、ぐれることがあっても読書だけは欠かさなかっ
たということだそうで、私はこの話に心底納得する思いでした。同じ絵本や小説を繰り返し
熱中して読むことで想像力とイマジネーションへの強い感受性を磨かれ、また読書に熱中
することで集中力を養われる、こういったことが現在の堂田さんの非常に記憶力に優れ、
新しい概念を簡単に理解し(彼はパソコンを購入したとき、誰のアドバイスをも受けずに独
自にウインドウズやワープロ、インターネットの操作をものにしました)、人間や事物への鋭
い洞察力を持つ能力を身につけさせたたのだろうと私は推察するのです。
また、彼は、山行を共にしていながらいつも感じるのですが、私や平田さんに比べ、圧倒
的に登山歴が少ないのに、山の地形を読みとることは熟練の域に達しており、特に山にお
ける危険予知能力と安全性への配慮は我々をも凌駕するような鋭さを持っております。こ
のような男だからこそ、大峯奥駈で女性陣が下山していく大普賢岳からの急峻なコースを
彼がサポートしてくれることに私は絶大なる信頼感を寄せているのです。
このような堂田さんだからこそ、英治さんのような人が一晩、テントで一緒になったとき、
睡眠時間2時間という夜更かしをしながら話に熱中し、それ以降、海上さんをしてブラザー
堂田とメールに宛名書きするような友情を抱かせたのだろうと思うのです。
堂田さんは天性優れた資質を持った人間なのでしょうが、現在の堂田さんの教養能力を形
成する基礎はお母様の配慮によってなされたものであり、堂田さんの話によれば4人の子
供を抱えて家計が決して楽ではなかったのにもかかわらずこのようなことを大事にされたお
母様の賢母ぶりが私には大変尊いもののように思われ、風太さんと同じほどではないけれ
ども、堂田さんは育った環境で幸運であったと思うのです。