<<<< 句/日月 10/09/2003. >>>>
かかとから水漬く白寿のエステティーク
レニ・リーフェンシュタールが逝った。享年101歳。彼女がまだ生
きていると知って驚いたのは、1973年、71歳のときに出した写真
集「ヌバ」の日本語版を、1980年に手にしたときだった。映画「民
族の祭典」の監督が存命で、しかも、ナイルの上流で暮らしてヌバ族を
撮ったのだ。虫除けのための灰を頭からかぶった長身の若者の褐色の肌
へのまなざしと、アーリア民族の優性を謳うナチズムの美学とが、同根
でありえることに、強い衝撃を覚えた。同じ頃、ナチの将校と、収容所
のユダヤの娘との、異様な愛を描いた、「愛の嵐」を見た。一筋縄では
いかぬ、ナチズムの、魅惑と危険に、足がすくむ思いだった。そののち、
彼女は、海に潜って、海棲生物の形態と色彩に、アーリア人やヌバ族に
向けた同じまなざしをそそぐ。対象を、あるがままより、ずっと、崇高
なものとして取り出してみせる映像は、丁寧で、辛抱強く、なにより、
徹底的に技術的だ。あまりの美しさに、生命の意味が、消し去られてし
まうようにさえ感じる。躍動と、形態と、色彩の、閉じた自律的な映像
空間に、惹かれつつも、のめり込むことを拒むのは、そのせいだろう。
20世紀を全面的に生きた偉大な美学に、深く黙祷する。