大峯奥駈修行サポートの旅
@宝塚歌劇「プラハの春」観劇記 5/24 2002掲載 by 森脇久雄
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車のトランクにシュラーフを3つ、登山着、登山靴、野営用具一式を放り込み、スーツにネクタイ姿で、
午前9時半に我が家を出発しました。
今日は午後1時からの宝塚歌劇星組の「プラハの春」を観劇し、終演後、明日からの熊野修験団の
大峯奥駈修行のをサポートするため熊野へ走るのです。
午前10時半に宝塚歌劇場に着き、地下駐車場に車を乗り入れると、貸切バスが何台も停まってい
ます。
今日は団体が多いな、と嫌な予感を感じながらチケット売り場に行ったらやっぱり当日券が少なく、
1階のA席は一番後列が10枚ほど残っているだけでした。
S席は、と調べるとこれも両端ばかりで、結局、最後列のA席を2枚求めましたが、やはり早く来て
良かった、下手すると当日券が無いところだった、と冷や汗をかきました。
その後、劇場建物内に入ると、当日券を持った人たちが何人か並んでおります。
宝塚歌劇の素晴らしい特徴の一つはダフ屋が存在しないことで、前売りを買っていながら当日行け
なくなった人はこのようにファンクラブを介して劇場入り口でチケットをさばくのです。値引きもプレミ
アもつけない定価販売というのが暗黙のルールだそうです。
この方が良い所の座席だろうな、と思ったのですが、買ってしまったチケットの払い戻しはきかない
ので何も聞かずにやり過ごしました。
11時40分ころに今日ご一緒するHさんがやってこられました。
歌劇場が建てかえられてから来るのは初めてとのことで、歌劇場の中をご案内します。
宝来橋から見る宝塚大劇場
入り口入ったところから大勢の人たちがそこかしこにたむろしており、いつも感じる宝塚歌劇独特
の雰囲気が漂っています。
ホールに行くまでの右手の外のテラスとを仕切る窓際にずらっと並べられたテーブルで大勢の人
が弁当を食べているのを見てHさんはびっくりされるので、団体が来ているのですよ、と説明しま
す。舞台が観られさえすれば他のことはどうでもよい、というファンも多く、そういったファンたちは
食事なんかも極力安く済まそうとするようで、一路真輝さんの引退公演だった「エリザベート」のと
きなんか、立見席の陣取りのため開演前に大ホールの最後列後ろの通路のところに座り込んで
牛乳とパンを飲食している若い女の子たちが大勢いたことを話します。
歌劇場建物内の雰囲気はゴージャスなのにやってくる客たちがこういった気取りの無いところが
宝塚歌劇の魅力の一つであり、ホール内で飲み食いをしているのを黙認している劇場側の姿勢
も大変好ましく感じるのです。宝塚歌劇は関西の生んだ文化らしく、合理的であり、庶民的なのです。
私たちが昼食を取ったレストランです。
劇場内にはいくつかのレストランがありますが、ここは中クラスと言ったところでしょうか。
Hさんは画像掲載を遠慮されたので後姿のみですが、明るくしっとりとした素敵なご婦人です。
「プラハの春」は約一ヶ月前に観たのですが、あまりにも素晴らしく、どうしてももう一度観たくなって
やってきました。
前回は前から2列目、ど真ん中の席で凄い迫力でしたが、今回は極端に対照的に一番後ろの席で
の観劇、色々な点で前回のような感動は味わえないかも知れない、と予測していたのですが、それ
はまったくの杞憂でありました。
遠い分だけ、全体が視野の中に入り、舞台の端から端まで広がって演ずる踊りや動きは今回の方
がはるかに魅力的に映ったのです。
特に、この4月、5月公演にしか見られない初舞台生の挨拶口上が出色でした。
今春宝塚音楽学校を卒業した48名のニュータカラジェンヌが制服の黒の羽織袴を着て舞台狭しと
並び、演じる様々な動きや踊り、そしてやがて口上を述べる3人だけを前面に置いて他はずらっと
端から端までに広がって全員正座し、「この春、音楽学校を卒業した私たち88期生は小林一三先
生の理念のもとに長い伝統を持つ宝塚歌劇団の一員として誇りを持って精進していきますので、
皆様、末永いご愛顧をお願い申し上げます」と大筋このような口上を3人がリレー式に言い、最後の
「お願い申し上げます」のところで全員が唱和しながら深々とお辞儀するのですが、このとき、膝に
置いていた手を床に着くとき、48名の全員の白い手のひらが同時に翻るときの美しさといったらも
う背筋がゾクッとするような圧巻です。
(88期生)
口上を述べる3人は毎回代わり、公演の期間を通じて48名全員がやります。劇場入り口入ったとこ
ろに初舞台生の名簿が表示してあり、その日に口上を述べる3人の名前のところに花柄の印がつ
けられます。家族や友人たちはその日を狙ってやってくるのでしょうね。
初舞台生の口上は絶対に一度は観るべき価値があります。私はもう病みつきになりましたので、
来年から春の公演は毎年観ることにしました。
初舞台生はこの口上挨拶が唯一の同期生による舞台であり、この後、月、花、雪、星、宙組と別
れていって二度と一緒に舞台にあがることはありません。
Eguchi君に聞いたのですが、同期生たちは仲間内では喧嘩したり、対立することがあっても他の
年度のタカラジェンヌとの対立に対しては鉄のような固い団結をし仲間をかばいあうそうです。
それはそうでしょうね。あの一糸乱れぬ舞台の動きを観ていたら、よくも2年間でこれだけのもの
を身につけるものよと呆れるものがあり、それを実現させるための厳しい訓練に一緒に耐えてき
た仲間たちなんですから、その結びつきは強いものがあるのはうなづけます。
そして始まった「プラハの春」ですが、最初に観たときに勝るとも劣らぬ感動を今回も受けました
舞台からの距離なんか関係無かったです。音楽は一度聴いていて耳が馴染んだのか今回の方
がもっと美しく感じました。
それとドラマの展開を知っているからでしょうね、最初にエピローグのところで主役を演じる香寿た
つきと渚あきがデュエットで踊りだしたとき、何故かもう涙がジーンと滲みでてくるのです。美しい
音楽にあわせて優美に踊る恋人たちのその美しい踊りに後の運命をダブらせてしまうので目頭
が熱くなるのでしょうね。
(ドイツ語教師・渚あき&日本人外交官・香寿たつき)
(素顔の香寿たつきと渚あき)
2年前に新オペラ座のミュージカル「リア・ファイル」を観て激しく感動し、翌日、たった10枚しか無い
と聞いた当日券を狙って1時間前から劇場の前で並び、再び観たときの感動を思い出しました。
良い舞台劇というものは二度観てこそ、その素晴らしさを味わえるものだと私は思ってます。
音楽の素晴らしさに改めて惚れ惚れしましたが、それらを歌う香たつきと渚あきは共に歌も演技も
うまいとEguchi君もヅカファンである私のお客様も言っておりましたが、納得できる二人の歌唱力
でした。
東ドイツの秘密警察に拘束されたヒロインのことを案じる主人公と彼を囲んで今後の方策について
学生たちが語り合う酒場のシーンに突如ヒロインが登場したとき「カテリーナ先生!」と学生たちが
叫ぶと同時に流れ出したモルダウの調べ、鳥肌が立つような感動を覚えました。
ああ、こんなことを文章で書いたってちっともあの凄い感動は皆さんには伝わらないのだ!
私が見た宝塚歌劇の演目の中で最高に素晴らしかった「プラハの春」、みんなに観て欲しかった!
近畿修猷会が団体で観劇するのが何故この「プラハの春」では無かったのだろう、とても残念だ。
しかし今からでも遅くは無いのです。宝塚大劇場公演は終わったけれど、東京公演がある。東京
よいよい会の皆さん、特に男性の諸氏、騙されたと思って観てください。
「プラハの春」東京公演は6/28〜8/11です。
そして歌劇が終わって30分間の休憩時間を置いてグランド・レビューが始まります。
次から次へとコスチュームを変えて数々の群舞が舞われるのです。これは後ろの方で観る方が素
晴らしい。宝塚歌劇の最大の強みは主役から端役の端々まで全員、高水準以上の踊りと動きがで
きることです。よくあれだけの足の上げ下げ、手の上げ下げ、右や左に回転し、素早く跳躍する、な
どの動作をよくも間違えずに全員の呼吸がそろうものでして、彩輝直が中心となり、全員フロックコ
ート(燕尾服だったかな?)を着込んだ男役だけでの早い動きの群舞はこれはもう圧巻でして、か
っこいいったらありゃーしない、という感じです。連れのHさんも「素敵ですねぇ!」と声をあげておら
れました。
(素顔の彩輝直)
(彩輝直)
この彩輝直さんですが、初回に最前列の席で観たとき、メーキャップといい、表情といい、声音とい
い、仕草といい、もう、女性を全然感じさせない完璧な男という感じでして、そのことをEguchi君に
話したところ、「彩輝さんに伝えておくよ」と彼が言うので、そんなことを伝えて気を悪くしないだろう
か、と私が危惧すると、男役に対する最高の誉め言葉だよ、と彼は答えるのでした。
今回の星組の公演は男役の素晴らしさが特に目に付きました。
(素顔の安蘭けい)
(学生運動の熱血漢リーダを演じる安蘭けい)
(素顔の夢輝のあ)
(秘密警察の冷酷なヘス大佐役を演じる夢輝のあ)
後に抗議のために焼身自殺を遂げるという役割の安蘭けいはいかにもそのようなひたむきで妥協
の無い青年役にぴったしのキャラクターであり、夢輝のあの冷酷な表情は強く印象に残るものがあ
りました。
香寿たつき、彩輝直、安蘭けい、夢輝のあこの4人、それぞれまったく違うタイプの男性像を演じき
っており、男である私でさえ、心底惚れ惚れするようなかっこいい男性たちでして、宝塚歌劇の華
が男役であることを痛切に実感した今回の星組公演でした。
そしてこれは大劇場内に入ったときに「宝塚歌劇の客層も随分変わりましたね、若い人が少ないで
すわ」というHさんの言葉で初めて気がついたのですが、今日は年配者が大変多く、そして男性が
今までに無く多いのです。
「いえ、普段は若い人も大勢いますよ。今日は団体が多いからでしょう」と答えたのですが、この団
体さんたち、初めての観劇のようでした。
と言うのも、ほら、宝塚歌劇というと誰もがイメージするあのラインダンスが始まったときの観客の
反応が凄いのです。
今日はラインダンスを演じるのが例の88期生48名でこれは普段の公演よりもはるかに多い人数
であり、全員ピンクのウサギをイメージしたレオタード姿で登場し、ヤッ!ヤッ!と明るい声をあげな
がら舞台狭しとばかり踊りだすと、もう観客席はざわめきだし、顔を横の連れの方にむけてささやく
人、知人が後ろにいるのか振り向く人が続出し、やがて舞台の左右いっぱいに一列になって広が
り、あの足を交互に上げる踊りをし出すと観客の興奮が最後尾の私たちのもとまで伝わってくるの
です。中には興奮のあまり立ち上がった客もいました。
「まあ、なんて可愛いんでしょう!」とお隣のHさんも声をあげられます。
そうです。本当にそれは素晴らしいものでした。今日来た団体の熟年の男性たちは一人として無感
動で見たものはいないことでしょう。
ラインダンスなんてもうとっくの昔に卒業したよ、とエラソーにEguchi君は言うけれど、私は永久に卒
業するつもりはありませんな。
やがてフィナーレの大階段が始まりますが、この大階段を実際に下りたことのあるEguchi君の話に
よるとかなりの急傾斜で身がすくむそうです。よくも足元も見ずに、場合によっては15キロの重さの
ある羽なんかを背負ってスターたちは歌いながら降りてくるものです。今までに転落事故の一つや
二つはあったのではないでしょうか。
全員が舞台に登場し終わった後、主役級スターたちはオーケストラボックスの前面に設置された回
廊の銀橋(ぎんきょう)にやってきます。
演劇中でもしょっちゅうここに彼らは来るのですが、そのときは決して足元の客の方には視線を向
けず、常に遠方に向けているのですが、フィナーレのこのときは足元のお客さんにも視線を送るの
です。
そこに席を占めるのは宝塚歌劇関係者でも重要な人が多いとかで、前回、2列目で観劇したときの
このフィナーレ時に香寿たつきさんも渚あきさんも私を注視しました。
「ああ、Eguchiさんの言っていた高校同窓生のお友達ってこの人か」と彼女らは思うのでしょうね。
これがEguchi君の場合だとウインクをするそうです。
そしてどんな素晴らしい夢のような時もいつか終わりが来ます。諸行無常です。午後4時5分、宝塚
歌劇星組の公演は終わりました。
お手洗いに行って男性トイレにも人が並ぶという光景を宝塚歌劇場内で私は初めて見ました。如何
に今日の男性客が多かったことかを物語っております。
私が用を足していると、後ろに並んだ男性が仲間に対してでしょう、「良かったなぁ!」と感極まった
ような声をあげました。「病み付きになりそう」と続けて言うので、私は振り向き「そんなに良かったで
すか?」と尋ねるとその男性、目の鋭い60代前後の人でしたが、うなづき、「宝塚歌劇がこんなにも
素晴らしいものとは知りませんでした。感動しました」と言うのです。
「ファンの一人として嬉しいです。どうか多くのお知り合いに宣伝してもらえませんか」と何十年来の
ヅカファンの如く、私は用足しをしたままの姿勢でお願いをしたのでした。
この初老の男性、間違いなく、しばらくの間は友人、知人に宝塚歌劇の素晴らしさについて吹聴して
くれることでしょう。
Hさんと歌劇場で別れ、私は車に乗り込むと一路、橿原市を目指しましたが、高速道路をぶっ飛ばす
間もずっと今日の公園の余韻が心の中を占め続け、私はつぶやくのでした。
「嗚呼、我が愛しの宝塚歌劇団よ!」
(舞台稽古風景)