11/13 2005掲載
by 渡辺耕士
「おいしいご飯の炊き方」
「お国自慢以外の自慢話はあんまりするものではない。特にお前の場合は
人様に自慢できるようなものはほとんどないから」と中学生の頃、亡くなった父から
クラブ活動か何かのことを少し得意になって話していた時、注意を受けた記憶
があります。
今日はその禁にそむいて、ひとつ小生の自慢話をご披露させてください。
「おいしいご飯」ができあがるためには「米・水(研ぎ)・道具(土鍋)」が3要素のようです。
お米はもちろんブランド米がベターですが、5キロ 2、000円くらいの「準ブランド米」
でもOKです。(スーパーに行くといろいろと知識が豊富になります)
お米を研ぐときは「すばやく、ていねいに」がポイントです。「だんだん白くなって綺麗に
なってきたよ」とお米に話かけながらギュっギュっと軽く握る感じです。お米にも純情な娘が
いるようで綺麗になってきたよと言われて、ポッと赤くなったりして可愛いもんです?
それから土鍋、自動炊飯器を製造しているメーカーに勤めている諸兄には大変申し訳
ありませんが、土鍋で炊いたご飯のおいしさと電気釜のそれとを比べたらまさに月とスッポン、
タイガーウッズのドライバーショットと小生のショットほどの違いがあります(特に最近はドライバー
で打つとこすれるような当たりばかりで悩んでいます)。
さきほど研いだお米を30分くらい浄水器を通した水に漬けておいて、いよいよマッチで「点火式」、
ガスコンロは小生愛用の簡易コンロです。もうずいぶん長いこと使っていますから自動着火の
パーツ
は壊れていますが使い易くてなかなか捨てられません。「離婚して家を出て行くときには
持って行っていいよ、ガスボンベも2本サービスにつけてあげるからね」と家内からお墨付きを
もらっている代物です。
「初めちょろちょろ、中パッパ・・・」のことわざ通り最初は中火で3〜4分、曲で言えばテレサテン
の「つぐない」を掛けながらが雰囲気に合うようです。続いて強火、ここは一気に炊き上げるのが
コツで、3分くらい経つと中蓋がガタガタと音を立て始めます。「熱い、熱いよ、早く止めてよ」
と騒ぎますが「じっと我慢の子であった」とかなんとか訳の分からない事を言って見守るのですが、
「本当に熱いのよ、いい加減にしないと承知しないわよ」と今度は脅しにかかる中蓋です。
そういえばこの中蓋、若い頃は新宿歌舞伎町の鉄火場で「緋牡丹お中」と言ってかなり名を
売ったお姐さんだったという噂話を聞いたことがあります。
しばらくするとお米が炊けたいい匂いがしてきますが、ここでもまだ我慢です。手で蒸気を嗅ぎ
ながら焦げた匂いがする瞬間が勝負の時で、中火そして弱火に徐々に火加減を調節していく
わけで自分で言うのもなんですがほとんど職人芸の域です。
その炊き上がったご飯に新鮮な卵をかけ、その上に鰹節をぱらぱらとふりかけて頂くおいしさ、
まさに小泉武夫センセイ言うところの「至福のとき」です。
そこで一句、
飯炊けて おかずはらっきょ はっぱふみふみ
(選者の言葉)
「熟年離婚」、この重いテーマに真正面から向き合った俳句です。作者は自分の居場所
をなんとか確保するためにせめてご飯炊きで認められようと懸命に努力していますが、
空回りの毎日です。しかし努力はいつかは報われるものです、そのうち奥様もきっと
許してくれる時がきますよ。その日を信じて明日もおいしいご飯が炊けるよう精進してくださいね。
初老の男の悄然とした後姿がくっきりと浮かび上がり、まさに「ああ人生涙あり」を感じさせる
作品ができました。
名句です。
では又・・・
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