6/2 2003掲載

渡辺耕士

この前は、編集長初め皆さん、秋田の温泉で命の洗濯をされたようで、画面から
「楽しいよー」という声が聞こえて来ました。

駄文のアイデアが浮かんできましたので、徒然なるままに書いてみます。

「イチローのこと」

ここ2〜3年、我ら中年男性の酒の肴は、専ら「ホタルイカの酒漬」とイチローに
なってしまった。
イチローの情熱を表には出さないが、決して手を抜かないプレーを見ていると勇
気が湧いてくるという男も多い。かくいう小生もその一人である。
テレビの前で、メガホンを持って「イチロー!ガンバレー!」と叫ぶらしい兄ほど
ではないが、土・日の休みの朝にBS中継があるともうだめだ。
前の晩に、家内と昼ご飯を近くのレストランで食べようと約束していても、放送が
始まったら、「あと10分」の繰り返しである。
 「私とイチローのどっちが大事なの」とまでは流石に家内も難詰しないが、そうい
う目で
試合が終わるまでチラチラと小生を見るのだ。
 今年は春先の調子が悪く、「夕刊フジ」の見出しが気になっていたが、すっかり
復調したようでまずはひと安心というところである。
大阪在住の兄と電話をするときは、出来の悪い自分たちの子供のことはさておい
て、イチローの活躍をお互いに自分の手柄のように自慢しあうのである。
「あの時の好返球は、ワンバウンドでボールを・・・」「オレがいつも言ってるよう
に・・・」気分はもうまさにチチローである。

そういえば、この前友人達と飲んでいるときにプロ野球の話になった。トラキチの友
人に「あれ、まだ日本でもプロ野球やってたのか」とつぶやいたら、えらく怒られてし
まった。
彼の話のよると優勝はもう決定で「2位のチームに何ゲーム差で優勝が決まるか」が
かけの対象になっているのだという。
そういえば去年も春先は同じような話をしていた。人間明日を知らず、夢見る姿は美
しい。

そこで一句

  校庭の 若葉をゆらす 3塁打

<選者の言葉>
中学校の窓ふきの仕事を終え、校庭の夕日を静かに眺める中年の男。
グラウンドでは、野球部員が竹トンボで練習のあとをならしながら、楽しそうに
大きな声で叫んでいる。その声が赤く染まった窓ガラスを震わせるようだ。
 オレにも、身体から命そのものが溢れ出るような中学生の時があったよなア。
あの頃は野球が得意だったから、もしかしたらプロ野球選手も夢ではないと
本気で考えていたんだ。友達からも耕ちゃんだったらきっと大丈夫だよと
励まされたのを覚えている。
先生に相談したときも「しっかりやれ」と言ってくれたけど、なぜか目の奥が
笑っていたのが、中学生の自分にも分かったのがくやしい。
見大会でベストフォーまで行った高校にやっと進学でき、勇んで野球部にはいった
が、結局は準レギュラー。
 あれからもう40年か。  今はホームレスの生活から、兄が保証人になってくれ
たおかげでやっと清掃会社に働き口が見つかって中学校の清掃の仕事をしている。

中学校で窓拭きの仕事をしながら、昔を思い出す元野球部員。
イチローの活躍もあなたのような下積みの部員がいたからこそ輝くのですよ。
世の中全部が「ボタン」や「バラ」では息が苦しくなってしまいます。
野に咲くレンゲ草、庭の隅に咲くスミレ草があって初めてボタン、バラが魅力的
になるのです。
 そういえば、スミレさんも腰が痛いとこぼしながらも元気に「モツ煮込み」を売っ
ていますよ。川崎競輪場にいますから、巡りあえるといいですね。

栄光を求めて挫折し、それでもくじけない男の世界を見事に描き出して、読者に感動
を与える作品ができました。
名句です。

では又・・・

TopPage