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I.Cさんは私の20年来のお客様です。
昨日、調律に伺ったとき、部屋に置いてあった漫画「聖☆お兄さん」に私が言及した ことがきっかけで、I.Cさんがラテン語を勉強していることを知り、一介の主婦が何 故ラテン語を?と私は驚きました。
なぜならラテン語は古代ローマの言語で、現在ではバチカン市国でのみ公用語とし て使われている以外はほとんど死語となった言語だからです。
動機をお尋ねするとヨーロッパには英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、 スペイン語とたくさんの言語があるが、人名のヘンリー、アンリー、ハインリッヒ、 エンリコ、エンリケのように似たようなスペルや音を共有していることに興味をも ち、その元となったのがラテン語だということを知り、勉強したくなったそうです。
ラテン語を教える講座があるそうで、そこに通って文法と発音を学び、テキストを 翻訳する授業に取り組んだときに使われたのがカエサルの「ガリア戦記」だそうで、 勝利の知らせを「来た、見た、勝った」という三つの動詞だけを使ったことで有名 な簡潔な文書を記すカエサルのテキストは初心者向きとしては最適だったことでし ょう。
そして今、取り組んでいるのがカエサルと共にラテン文学の双璧といわれるキケロ の「義務について」だそうで、こちらはカエサルとは対照的に修辞法を駆使した持っ て回った言い回しで、翻訳するのに大変難儀するそうです。
ローマの五賢帝の一人、マルクス・アウレリウスの「自省録」は遠征で戦場を転戦 する間の陣中で記した備忘録で、自分へのメモがわりとして記されているので実に 簡潔な文体なのですが、そこから推し量れるストア派哲学者でもある皇帝の知性、 理性に私は若い頃に読んで大変感銘を受けたのでそのことを話すとI.Cさんは是非、 読んで見ますと言ってくださいました。
しかし現在実用性のない未知の外国語を単なる興味だけで学ぼうとするその女性の 情熱には感銘を受けます。
I.Cさんからはなおも興味深い話を聞いたのですが、それはまた別の機会に紹介します。
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