「あっぱれ!! 神尾真由子」   by Norio Moriwaki

息子が7月16日のNHK教育テレビ「芸術劇場」で放映された神尾真由子の演奏を観てその感想を送ってきた
メールです。ホームページへの掲載の承諾を尋ねたところ、下記のコメントを記して承知してくれました。

ただ、基本、ギターのテクニックはわかりますが、クラシックやバイオリンに関しては無知の人間が書いているの
で、これを読んで気を悪くする人がいるかもしれませんが・・・。完全に独善的な文章であると開き直っているほ
うがいいかもしれませんね。


息子は自分でも記しているようにクラシックについては無知に近く、幼い頃からつい最近(2年ほど前から)まで
ロックとジャズに熱中しておりました。何しろ、クラシックに目覚める一つのきっかけとなった月光の曲を聴いたと
き、それまで曲名をまったく知らなかったのですから私もそこまで無知なのかと驚いたくらいです。
ただ、息子はロックに関しては小学生のころから大学卒業後も熱中し、その造詣が深いものであることを私はよく
知っております。
それらのことを念頭に置かれてこの息子の感想文を読んでいただけたら有り難いです。
リワキーノ

Norio Moriwakiのメール

さっきは書いている途中で誤送信してしまいました。
神尾真由子のシベリウスを先ほど観終えました。
実はシベリウスのバイオリンコンチェルトを知ったきっかけはカラヤン指揮のクリスチャンフェラスの演奏でした。
これが正に白眉というか傑作で、私の好みのツボのど真ん中に来る作品でした。たとえとしてはなんですが、
アェイクの頃のドリームシアターぽいというか、ゲイリーピーコックのヴィネットの緊張感を彷彿させるというか・・・。
更にネットで調べるとどうやらシベリウスのバイオリンコンチェルトは数あるバイオリンコンチェルトの中でも「very
difficult」と形容されるだけのかなりテクニカルなナンバーのようで(チャイコフスキー、ベートーベン、ブラームス
のいずれよりも遙かに難しい、と。)ますますドリームシアターフリークの私にとっては非常に魅惑的なナンバー
となったわけです。
要はリリシズム&テクニカルの極地なわけですね。このフェラスの演奏で一目惚れ(一聴き惚れ?)したシベリ
ウスのバイオリンコンチェルトを次に体験したのがアシュケナージ指揮の諏訪内晶子の演奏です。これは以前
NHKの音楽祭か何かの映像で観たのですが、まさに圧巻でした。チャイコフスキーコンクールで優勝する人間
というのはこういう演奏ができるのかというのをまざまざとみせつけられた思いでした。別段テクニック的には何
ら難しくないであろうと思われる冒頭出だしの演奏の音だけで聴く者を一気に引き寄せる諏訪内の実力はまさ
に鳥肌ものでした。
それぐらい私にとって思い入れのあるシベリウスのバイオリンコンチェルトを、件の神尾真由子が演奏するとい
うじゃないですか。期待は否が応でも高まります。純粋に神尾真由子の演奏に対する高まる期待を味いながら
もその一方で、やはり私を今まで魅了してきたクリスチャンフェラスと諏訪内晶子との比較を無意識のうちにし
てしまうのですね・・・。
クリスチャンフェラスは外人なので(あと男なので)とりあえずおいておいて・・・。やはり同じ日本人でしかも神
尾と同じくチャイコンで優勝経験を持つ諏訪内晶子との比較は、これはもう何があっても避けようがありません。
聴く前にやはり諏訪内の演奏時の年齢のことを考えます。40前後という年齢、いろいろなことを経験し、まさに
円熟した演奏が諏訪内のシベリウスからはあふれ流れていました。もてる力を出し切るというのではなく、あく
までも抑えに抑えた超ストイックな演奏(そう、エバンスのナルディスみたいな)、それが北欧の終わりのない
ように思える重い冬を体現しているシベリウスの作品とこの上なくマッチするのですね。チャイコン優勝という
基準はどちらもクリアしているわけですから、結局は人生経験の違いがそのまま二人の演奏の違いに出るだ
ろうというのが、私の聴く前のおおよその評価でした。つまるところ、「神尾真由子、どこまで諏訪内に迫れる
か?」みたいな表題がぴったりと来そうな。そういう思いでようやく待ちに待った開演です。
やはり、予想通りでした。音圧というか、音量的には何も問題がないのですが、諏訪内やクリスチャフェラスが
醸し出した、ストイックさと耽美さを兼ね備えた音づくりを要求するのは二十歳かそこらの娘にはやはり酷です
ね・・・。ただ、フォローするわけではないですが、決して悪いわけではありませんでした。というかおそらく普通
には申し分のない演奏なのだと思います・・・。ただ途中で私的にはややだれ気味(というと言いすぎかもしれ
ませんが)になってきた私は録画もストップしようかと思ったのですが、実はシベリウスのバイオリンコンチェル
トの一番の山場(と私が思っている部分)は第一楽章の最後のエンディングなのです。いろいろなコメントを見
ている限り、このバイオリンコンチェルトを「very difficult」たらしめているのはおそらこの最後のエンディングな
のではないかとさえ思われます。そのエンディングを一応聞いてから終わりにしようと思っていました。というの
もこのエンディングを実に劇的に演出したのが例のクリスチャンフェラスでした。残念ながら諏訪内は唯一その
ストイックさを最後まで持って行ってしまい、この超絶技巧を披露するエンディングがやや不完全燃焼気味(と
私には思われる)になっていたのが唯一玉にキズといったところだったのです。
そして!!この時の私の判断がまさに吉と出たわけですね。やはり腐っても(?)チャイコン優勝者!やってく
れました!
神尾真由子はその序盤の凡庸さを補って余りある迫力ある演奏を最後の最後でやりとげました。もう最後のと
ころで聴衆をぐいっと一気にひきつける加速度というか吸引力は圧倒的でした。まさに圧巻!たとえとしては
何ですが、スラムダンクの流川のことを彦一の姉が「セルイフィッシュ(自己中)」と批判した直後に流川が超
絶プレイで一気に大量得点をなしとげた、みたいな・・・・。
恐るべし神尾真由子・・・。やはり、チャイコンで優勝する人間というのは只者ではないといういことを再認識さ
せられたしだいです。

これだけ書けば少しは見てみようかなと思われましたか、シベリウス?

Norio Moriwaki