1/15 2003掲載

森脇久雄
 
ピアノ調律師協会の新年会

今年のピアノ調律師協会関西支部の新年会は1月11日(土)に淀屋橋の大阪倶楽部で
行われました。
 
 
1925年に建てられた鉄筋コンクリート4階建てはなかなかに風格があり、旧住友銀行本
館と新館の間の路地を南へ下がったところにあり、このあたりのロケーションも都会的な
素敵な感じです。
 
30分ほど遅刻して、到着したら、催しの音楽会が始まっており、声楽の演奏中でした。
内装もクラシックであり、重厚な雰囲気です。
 
出演した4人の演奏家はいずれも調律師協会関西支部が催す「よんよんコンサート」に
出演したことのある人ばかりで、今夜の新年会で演奏してもらい、一緒に懇親会を楽し
んでいただくために招待されたのです。
 
「よんよんコンサート」とは何か?
これは21世紀を迎えるにあたって調律師協会も何か記念すべき行事をやろう、というこ
とになり、それなら協会の主催する音楽会を毎年開こうではないか、ということから音の
日である4月4日(調律の基本音になるa音の440ヘルツにちなんで国際的に決められた
日)にコンサートを開くことにしたのです。
そして一般の音楽会とは一寸違った協会独自のものをと関西支部が色々検討した結果、
その年の春に卒業を迎える卒業生を関西所在の各音楽大学から推薦してもらい、一堂
に集めて演奏をやっていただく、という内容のコンサートをやることにしたのです。
 
そしてこれは2001年(アルカイック小ホール)、2002年(大阪府立ドーンセンター)と二回
やったのですが、予想以上の大好評だったのです。
それはそうでしょう。どの大学も卒業生中、最優秀の学生を選んできますし、自校の名誉
を担って出演する学生たちの気合の入り方も全然違いますからまるで各音楽大学の優秀
さを競うコンクールの様相を呈してき、当然演奏は迫力のあるものとなり、実に聞き応えの
ある演奏会となったのですから。
 
第1回のときにラフマニノフの難曲を素晴らしい演奏をした武庫川女子大音楽科の学生な
んかほとんどの人が気づくはずもない一寸したミスをしただけで、演奏後、ホールの片隅で
仲間たちに囲まれるなか悔し泣きしていたくらいでした。私はその休憩時間中にその囲み
に近づいていき、貴女の演奏はとにかく素晴らしかった!鳥肌が立った、と言ってあげても
彼女の涙でくしゃくしゃになった顔の表情は和らがなかったのです。
そして今年はついにあのイズミホールで開催されることが決まりました。
 
このインタビューを受けている声楽の女性は、よんよんコンサートに出たときの印象のこと
を尋ねられ、「ドーンセンターのホールに着いたとき世話係の人達からカードを渡されたの
ですが、そのカードに○○様、今日は貴女もどうか一緒に楽しんでくださることを願っており
ます、と書かれてあるのを見たとき、いっぺんに緊張感が抜け、嬉しかったことです」と答え
られました。

 
この女性の弾くベートーベンのソナタ「テンペスト」の第一楽章は最高に素晴らしかったです。
早いテンポのところでは極力ペダリングを抑え、研ぎ澄まされたような旋律の浮かび上がり
に成功させ、そしてゆるやかな単旋律のメロディラインのところでは今までに聴いたことも無
いようなペダリングの使用をしてわざと不協和音をにして、何ともいえぬ幻想的な響きをかも
し出すのです。
その緊迫感はスリリングなものがあり、私は身じろぎもせずに聴きつづけました。
撮影は3楽章が終わった直後を写したものです。
大阪倶楽部のスタインウエイは硬質の響きを持つなかなかにいい音のピアノですが、この
女性はその特質を非常によく利用しているように思いました。
後で、私の感想を述べたところ、ペダリングで不協和音を出させたのは意識してそうした、と
言い、そんなところまで気がついて下さって嬉しいです、と言われました。
彼女の演奏後のインタビューに対するコメントは「今年は会場がイズミホールだそうで、とて
も羨ましいなぁ、と思いました」というものでしたが、あの演奏を聴けば、さもありなん、という
気がします。

そして私にとって今日の演奏会の本命はこの人なのです。
第1回のときに、とりをつとめたときのこの京都芸大生の演奏は、名門音楽大学を首席で卒
業した学生の凄さを圧倒的な迫力で実感されるものでして、作曲家の名前も初耳のアメリカ
の現代音楽の曲を弾いたときの迫力、技巧の凄さは衝撃的なものがありました。
一緒に聴いた家内はそれ以来、よんよんコンサートの熱心なファンになり、二回目のときは
同僚の音楽の先生を誘って来たくらいです。
この日彼女が弾いたのはバッハ作曲・ブゾーニ編曲の『シャコンヌ』で、この大曲を堂々と演
奏しておりましたが、私に言わせれば彼女の良さを最も発揮できるのは現代音楽ではない
かと思います。
ただ、「大阪倶楽部でよんよんコンサート出演の人達の演奏を聴くなんていいなぁ」と羨まし
がっていた家内は「テンペスト」といい、この「シャコンヌ」といい、大好きな曲なだけに一緒に
連れてきてやりたかったですね。
会場が狭いので今年の新年会は協会員本人のみしか案内されなかったのです。
 
 
 
演奏会が終わって20分間の休憩の後、懇親会となります。
 
会食の前に、昨年調律師協会に入会して来た新人会員たちの歓迎式が行われます。
いずれも若い人ばかりです。
 
演奏会のピアノの調律を担当したスタインウエイジャパン社の松本氏(左)と関西支部長の曽根
氏です。
松本氏の調律は実に見事なものでした。同じ調律師ですからそれがよく解るのです。
彼は昨年まで調律師協会に入っていなかったのですが、関西支部の行事によく招かれるの
で入会したのです。
支部長は調律師というより自民党の大物政治家ってな雰囲気ですね。
豪放磊落な人です。

 
私の所属する大阪地区の運営委員仲間たちです。左が前大阪地区長の鈴木氏、右側が
現大阪地区長の大森氏です。運営委員は任期が四年で半分が途中で入れ替わりますが、
私はまだ1年残っています。

 
シャコンヌを弾いた嶋田さんと奈良の木村氏
 
テンペストを弾いた木村さんと声楽家の女性(酔っ払って二次会の席でパンフを無くし、お名
前が解らない)

 
座もいくらか落ち着いてきたころ、司会者がコネリーノ君にジャズ演奏を要望します。
スタインウエイのピアノを弾くことはピアノ演奏するものなら誰もが憧れます。コネリーノ君も嬉しか
ったでしょうが、私も嬉しかった。
 
コネリーノ君は独学でジャズをマスターしたことを演奏家の人たちに話すと声楽家の伴奏をした女
性が大変関心を持ち、ピアノそばにやってきました。
真ん中は司会者の柳田氏。
 
音楽に関する感性については私が知っている人間の中で一番鋭いものを持っていると思って
いる吉崎氏も用意してきた楽譜を持ってピアノのところにやってきました。
彼は音楽のため、ピアノのためなら他のことはすべて犠牲にしても悔いるところの無い人生を
送っている調律師です。
彼と酒を飲みながら音楽談義をすると時間の過ぎるのを忘れてしまいます。


みんなピアノの前にやってきました。
 
 
どさくさに紛れて嶋田さんとのツーショットを撮ってもらいました。
こんな小柄なお嬢さんなのにピアノ演奏のパワーはもの凄いのです。

そしたら、あらあら!ナンタルチア!
司会者が調子に乗って来賓としてお招きしている大阪音大の田淵教授に一曲の演奏を所望
するのです。
本当に前もってなんの依頼もしてなかったらしく、教授は相当まごついておられましたが観念
されてショパンのノクターンを弾きだされたのです。
何番の曲かは知りませんが、哀愁を漂わせた美しい曲でして田淵教授の演奏も完璧なもので
した。さすがはプロだな、と思いました。
音大の教授だから当然、と人は思うかも知れませんが、そんな単純なものではありません。
教授という肩書きゆえに準備の無いときにピアノを弾くのは大変嫌なものであり、緊張するも
のなのです。
 
いよいよ懇親会も終わりとなりました。三々五々と会場を去っていく中、端っこの方でベテラン
の花井氏を中心に集まっていた若手グループを写しました。
 
今日の新年会を企画し、世話役に徹した矢土、坂本、柳田の3氏です。
いつも協会のためには駆け回ってくれる頼もしい人達です。
ふと気がつくと懇親会には出席せずに帰ったものと思っていた大阪地区唯一の女性運営委員
の大橋さんがいるではないですか。彼女と色々話したいことがあったのに知らずに過ごしたと
は残念でした。






大阪倶楽部の玄関前ロビーです。
 
まだ飲み足らない、と珍しくコネリーノ君が言うので安居酒屋で二次会をやりました。
3人とも音楽大好き人間ですから、音楽の話を相当やったはずですが、私は酔っ払ってしまって
何を喋ったのか全然覚えていません。
 
御堂筋の夜景です。
素敵な一日でした。