心臓のカテーテル手術体験記   by リワキーノ

私が受けた手術は、正式には「心房細動に対するカテーテルアブレーション手術」と言うそうです。
7年前に不整脈が発見され、簡単な投薬治療を続けてきたのですが、昨年から心臓の動悸に異常が頻繁に自
覚されるようになり、今年の2月に特に激しい動悸が生じたとき、そのままかかりつけの循環器医院に駆けつけ
て心電図を計ったら心房細動という病名を告げられたのです。

心臓の脈拍をコントロールする洞結節という箇所からの電流信号以外に、別の箇所から電流信号を流す存在
が生じることによって心房細動という乱れた脈拍が起き、この早く不定期な脈拍が心房内で長時間続くと血流は
渦巻き状態となって血栓が生じやすくなり、脳梗塞、肺梗塞の原因となるという放っておけない病名なのです。
プロ野球の長島元巨人軍監督が脳梗塞で一時半身不随となったことは皆さんもご記憶にあると思いますが心
房細動が原因でした。

帰宅してから家内に病名を告げ、私は早速インターネットでこの心房細動のことを調べにかかったのですが、
いつの間にかに書斎に入ってきた家内が「私一人だけで長生きするのは嫌!」と言い、しゃくり上げるように
泣き出したのです。
胸を突かれる思いで、私は何としてでもこの病気を克服してみせるというファイトが湧いてきたものでした。

治療としては、ワーファリンの服薬で血栓になりにくい状態にするという方法が取られ、私もこれを続けてきたの
ですが、心房細動の発作がだんだんとひどくなり、ときには座っているのに地震で椅子が揺れているのかと思
うくらいの身体の揺れを感じたり、発作が長時間に及ぶようになってきてから、このような状態が続くと心不全
の状態が通常よりは早くやってくる可能性のことも知って先月、かかりつけの循環器病医に根治治療が期待
できるカテーテル手術を受けることについて相談したのです。
心房細動カテーテル手術をインターネット検索で調べたら、誰もが気付かれると思いますが、この分野の治療
はまだ確立されていない状況下だそうで、様々な危険性が潜んでおり、ワーファリンの投薬で日常生活が保た
れるのなら敢えて勧めないという医者もかなり多くいる手術です。
私のかかりつけの医者も「そう言われるのなら一度、受けてみますか」と患者の期待に添うという形の了承の
仕方であり、積極的な同意ではありませんでした。

しかし私は家内が見つけた毎日新聞の記事で、心房細動のカテーテル手術に熟練の医師を見つけておりまし
た。
他のカテーテルによる検査とは違って、心房細動の手術は検査器具自体が一億円もする医療器具と、熟練の
医師の技術を必要とするというインターネットの検索結果を知った以上、医療施設は充実していても、どんな医
師が担当するのか判らない大学病院や国立循環器病センターよりも、信頼できる医師を確実に指名できる病
院を選ぶことにしたのです。
毎日新聞の記事で知った黒飛医師は記事当時の医療施設にはおられず、ネット検索で調べた結果、羽曳野
市の城山病院におられることが判りました。

黒飛医師の外来診察の日である8月9日に、紹介状も何も持たずに飛び込みで城山病院に行き、診察を受けま
した。
その日はたまたま外来が少なかったのでしょうか、受付を申し込んでからわずか30分の待ち時間で黒飛医師
の診察を受けることができ、紹介状代わりに家内が持参した私の今までの治療・投薬明細書を見てもらった結
果、カテーテル手術を勧められ、私ら夫婦も黒飛医師の手術に関する説明に深い信頼感を感じ、その場で8月
31日に手術ということに決まったのです。心臓のレントゲン撮影、心電図、エコーの検査を受け、入院予約をし
て病院を後にしたのは訪問後2時間後でした。
こんなにスムースに事が運ぶことは私たち夫婦にとって想像外のことでした。

8月30日昼過ぎ、家内に伴われ入院しました。
病室は8階の4人部屋。
城山病院は改築されて新しいので病室も実に綺麗で、看護婦さんをはじめ職員の対応も丁寧で快適この上も
無しという感じです。
しかも私のベッドは窓際。
窓からはこのような二上山を背景にした古墳群の景色が見えるのです。
左端が日本武尊陵、真ん中が清寧天皇陵。
この左方向には応神天皇陵や仲哀天皇陵、仁賢天皇陵、仲津姫皇后陵などがあるのです。
「リワキーノ、頑張るんだぞ」と皇室崇拝者の私にいにしえのやんごとなきお方達が見守っていてくれる感じで
す。


夕食を終えるのを見守った家内が帰ったあと、主治医の嶋田医師が明日の手術の説明に来られ、手術は朝
一番の9時から始まり、だいたい3時間〜4時間ほどかかることなどを話されます。
手術担当医は黒飛医師なのに主治医は別の医師という仕組みに意外感を感じましたが、丁寧な説明で元々
担当医を信頼しきっての入院ですから私の安心度は100パーセントとなりました。
酒を呑めずに眠れるだろうか、と思いましたが睡眠不足が手術に支障を来すこともあるまいと気楽にかまえて
いたらその夜は熟睡しました。

翌朝、入院したときからずっと担当してくれた看護婦さん(今は看護師と呼ぶのが正しいようですが私は私の手
記では看護婦を使用させてもらいます。看護師じゃ性別も判らない)が下肢の付け根からカテーテルを挿入す
るので陰部の毛を剃ることと、手術中の排尿にそなえて尿道にカテーテルを挿入することを朝食前に告げに来
ました。
今回の手術で私は不安感とか恐怖感はまったく抱かなかったのですが、この尿道にカテーテルを挿入するとい
うことについては想定外であり、かなりびびりました。
考えてもみてください、神経が過敏な男の急所に管を突っ込むのですよ。
「ええっ!」という思いでしたがうわべは「はい、判りました」と答えるのみ。
「明日は手術したらその日の中に退院できるのでしょうか」と尋ねると、「手術その日のうちの退院は無理だと
思います。術後の経過によっては4、5日入院する場合もあります。カテーテル手術と言っても心臓をさわる手
術なのですからあまり安易には考えないでください」と言われました。

朝食後、その看護婦さんが毛を剃りに来ました。40代半ばの品のよい綺麗な女性にバリカンらしきものを片手
にしながら「下げてください」と言われて私は羞恥のあまり、トランクスを下げると同時に局所を左手で覆いまし
た。
「それでいいですよ」と看護婦さんは言われ、下肢の付け根付近を両足ともゾリゾリと剃っていきます。
尿道へのカテーテル挿入もこの看護婦さんがやるのだろうかと思うと私は「嫌だなぁ〜」と心底思いました。
ところが尿道カテーテルの挿入をしに来たのは若いまだ20代の看護婦さんでした。
夜勤と昼勤の交代だったようです。
40代の女性に局所を見られるのは嫌なのに、20代の女性だったら少しは羞恥心が減ずるとは不思議な心理で
すね。思うに男女の関係が成り立ちやすい年齢とそうでない年齢の間柄に関係するのでしょうか。
「痛いでしょうか?」と恐る恐る尋ねる私に、「痛いです。挿入時、腹式呼吸で深呼吸をしてくださいね。痛みが軽
減されますから」と元気溌剌とした若い看護婦さんは言います。
おしっこの出口に管を入れるのですから羞恥心の有無なんてはなから無視され、完全にむき出し状態で私は
尿道カテーテルを受け入れさせられました。
確かに痛い!挿入時にはズキーンとする痛さです。しかも長さ15センチくらいの管を徐々に入れていくのです
から時間がかかります。
「腹式で深呼吸してください。緊張すると管が入りにくいのですよ!」と看護婦さんは私の固まったお腹を触りな
がら命令します。
こむら返りなどの激痛に襲われたとき息を深く吐くと痛みがわずか緩和されることを知っている私は一生懸命
看護婦さんの指示に従います。
結論として言わせてもらえればこの尿道カテーテルの挿入は我慢できる程度の痛さです。これだったら私は次
ぎに受けるときにもそれほどプレッシャーを感じないだろうという程度の苦痛でした。
ただし、男女の関係になりやすい世代の看護婦さんは避けて欲しいという条件がつきますが。

次ぎに左手への点滴装置を取り付けが終わり、これで手術の準備は終わりです。
午前9時にベッドごと手術室へ運ばれていきます。
手術室はこんな雰囲気で、スタッフが多いのにびっくりしました。正確には数えられませんでしたが8人前後は
いたと思います。(ネットから借用)


ベッドから手術台には自力で移動。
好奇心旺盛な私はレポートのこともあるので周囲を観察しまくります。
しかしやがて身体が動かないように固定され、頭部もコルセットのようなもので固定されると首を動かすことが
できず、目だけをきょろきょろさせるだけです。
私の身体が固定されると、スタッフたちはてきぱきとそれぞれの持ち場でいろんな準備に取りかかっているよう
です。心電図や血圧を見る装置への配線などをしますが、胸の上に平べったいヒンヤリとする白い物体を載せ
たときに私の胸がひどくくぼんでいるため、それが胸に密着しないらしく、担当のスタッフがそれを口にすると別
の声が「え?それは問題だぞ」と言います。
「え?最初から既にハンディを抱え込むのかしら」と一瞬不安感を感じましたが、スタッフたちはしばらくごそご
そしていたと思ったら「これで良し。密着した」と言う声が聞こえ私も安心しました。何か重しのようなものを載せ
た感じでした。
私の頭部左手にいる看護婦さんが風防ヘルメットのようなお椀状のものを頭に被せ、その隙間から酸素吸入
器のようなものを私の鼻に取り付けます。
「手術中に痛みや気分の悪さを感じたら遠慮せずに仰ってくださいね」とその看護婦さんは優しい声で言います。
やがて3カ所のカテーテル挿入口に消毒薬をべたべた塗る作業が始まります。手の手術を受けたときにそれを
目撃しているので知っているのですが、消毒薬は焼き肉のタレにそっくりな色です。
それが終わると麻酔注射を打っていきます。最初は首の横のところ。鋭くはないのですがずーんと重みのある
痛みが続きます。何本も打っていきます。
そして右足付け根のところ。ここはカテーテル手術のメインとなるカテーテルを入れるところなので他よりも大き
な穴を開けるらしく、何本も何本も数え切れないくらい麻酔注射を打ちます。随分長い時間かかったような気が
しました。術後、傷が回復した後に見たら傷跡が3カ所あるので、3本カテーテルを入れたのかも知れません。
それに比べて左足付け根部は少ない麻酔注射の本数でした。
いろんな確認をスタッフたちはかけ声をあげてやっていますが、どれが黒飛先生のものかは判りません。
一人の声は明らかに別室から届いていると思えるマイクを通しての声でした。

長い準備が終わっていよいよカテーテルの挿入です。
心臓部を照射するのでしょう、ディスプレイ状のものを先端に取り付けた器具が胸に近づいて行きます。
「リワキーノさん、これからカテーテルを挿入しますが、ごりごりとした感じがします」と黒飛先生らしき人の声がし
、やがてまさしくごりごりという感触で何かが右足付け根部から入っていく感触を感じます。しかし痛みはまった
くありません。
血管の中をカテーテルが胸部に向かって移動していく様子が感覚として判りますが、これも痛みはまったく無し。
驚いたのは左足付け根部と首のところからのカテーテル挿入はまったく何の感触もなく、いつ挿入されたのか
、いつ心臓に届いたのかが全然判りませんでした。
「造影剤を注入します」という声を聞いたあと、胸部にジワーと暖かい感触を感じます。何か温泉に浸かったよう
な心地よい感触でした。
それからは異常信号を発信する箇所を探す作業が始まっているのでしょう、身体は何の感触の変化もなく時
間が経っていきます。
洞結節以外で電流信号を発信する場所は肺静脈が心房に到達する部位に多く集中するそうですが、それらを
一つ一つ確認し、高周波電流でその箇所を焼灼し(ヤケドを作る)、電流の流れを阻止するのがカテーテルアブ
レーション手術なのです。
いよいよアブレーションが始まるに際して、黒飛医師が「これから患部を一つ一つ高周波電流で焼き付けていき
ますので痛みが強く感じだしたら遠慮無く言ってください。その都度痛み止めを注入しますので」言われます。
アブレーションが始まると確かに胸部に圧迫感を感じるようになり、熱さというより鈍痛のようなものを感じます
が、十分に辛抱できる程度と思ったら急にグーッと強い痛みがやってき、あわてて「痛いです!」と叫ぶとすぐさ
ま左隣に控えている看護婦さんが「痛み止めを注入しますね」と行って処置をしてくれ、すぐさま痛みは和らぎま
した。

「○○○、30秒!」「△△△、40秒!」「3.5ワット」など、意味不明の略語などを交えて一カ所、一カ所焼き付け
ていくのに黒飛先生らスタッフたちは声を掛け合っています。
かなりの長い時間、そう私のタイム感覚では30分も続いたような感じでしたが実際はもっと短かったのだろうと
思います。
そして突如として終了を告げられました。
「はい、終了です。リワキーノさん、お疲れ様でした」
「え?もう終わったの?3時間か4時間ぐらいかかると思っていたのに」と私は意外な感じでした。
後で時計を見たら手術室に入って出てくるまで2時間半。
かなり能率良く、手術は終わったようで、とりあえず成功というところなのでしょう。
カテーテル挿入口がふさぐまで絶対安静を言われ、手術台からベッドにはスタッフが大勢で私を抱えて移してく
れます。

病室に戻ると看護婦さんが「今日は終日、ベッドで寝ていただきます。昼食は抜きですが夕食は食べられます。
ただし、横になったままで召し上がっていただききます。奥様は付き添いに来られないのですか?」と言われます。
心臓の手術なのに付き添いにも来ない家内のことを不審に思ったようです。
実は家内は所属している宗教団体へ行って手術中、私の無事を祈り、それから病院に駆けつける心づもりだっ
たのですがそんなことは看護婦さんには話せず、どうしても避けられない用事があって家内は午後にやってく
るはずです、と答えます。
翌朝、傷口の出血も止まり、歩けるようになりましたが、予後観察のために退院は二日後となりました。
合計3泊4日の入院となりましたが、施設は綺麗ですし、病室も快適、看護婦さんをはじめ職員の人たちは皆
親切ですから居心地のよいことこの上なしという感じで、この記録的な猛暑の夏に避暑にきたような気分で、も
う少し滞在してもいいなと思ったくらいでした。
手術経過の説明に来られた嶋田医師に「手術後10日に山登りに行き、テントで寝たりする予定があるのですが
大丈夫でしょうか」と尋ねると、「大丈夫です。でも激しい息づかいをする登り方は避けてください」と言われました。
これで9月10日からの大峯奥駈サポートに参加できると思って私は心の内で万歳!をしました。

心房細動のカテーテルアブレーション手術は一回だけだと4割から5割の完治率で、二回目を受ければ9割以
上という確率だそうですが、こんな楽な手術だったら私は何度受けても良いと思いました。
もっとも、黒飛医師は一回だけの手術で済ませたいと言っておられ、先生の一回目の確率は7割だそうです。

「黒飛医師のカテーテルによる頻拍性不整脈治療(カテーテルアブレーション)は、平成22年3月現在までに約
2000例におよび頻脈性不整脈の患者に対してメインの術者としての治療を担当し、特にその中でも心房細動
に対する実績は1200例を超え、その治療実績は日本でもトップレベルにある」(城山病院ホームページからの引用)
そうです。

城山病院のレストルームの壁に掲示された黒飛医師のことを紹介した読売新聞記事。

その記事の内容。

医療法人春秋会 城山病院
大阪府羽曳野市はびきの2丁目8−1
TEL:072-958-1000
HP:
http://www.shiroyama-hsp.or.jp/