安藤さんは私の父が日本郵船に勤めたときからの同僚であり、友人でした。
父が転勤で横浜から門司に移ったとき、安藤さんも一緒に移られたようで以後、亡くなるまで門
司に住み続けられました。
我が家と安藤家は家族ぐるみのつきあいで、安藤さんの奥様は私の二人の姉を大変可愛がってく
ださったこともあって父が海運業界から去って福岡市に移転したあともずっと交流は続き、福岡
の我が家にも家族で訪ねてきてくれ、二人の姉の結婚式には遠洋航海で不在だった安藤さんに代
わって奥様が出席してくれたのです。
画像は昭和２９年に奥様とお子さんたちだけで福岡市鳥飼の我が家に訪れてくれたときのものです。
後列左から次姉、安藤さん長女、安藤夫人、長姉k.mitiko、母。
前列左から安藤さん長男、リワキーノ、安藤さん次女。
安藤夫人の真後ろの屋根が見える家は旧Capt.Senoh宅。
次女とも子さん。私たちは同い年でした。
安藤さんの奥様が最初に亡くなり、我が父、母と亡くなったあと、安藤さんは７年も生きながら
えながら我が父母のお墓参り、郵船時代のかつての同僚を見舞いにまわる旅を続けられるかたわ
ら、父母の死後、急速に親交をあたためることとなった私たち姉弟との交流を続けてくださいました。
９０歳を過ぎてもかくしゃくとしておられ、一人で日本全国に散らばった旧同僚で入院している人の
見舞い、亡くなった人はその墓参りの旅をつづけるかたわら、巨人ファンだったため、東京ドームに
も頻繁に野球観戦に行かれたそうです。
温厚でいながら義理堅く、母が亡くなったときはもう９１歳のお歳を考えて安藤さんにお知らせ
することを私たちはしなかったのですが、通夜のその日の夕方に葬式場に「安藤さんというご老
人が葬式場会館への道順を尋ねられるのですが、ご高齢のようですからどなたか迎えに来られた
ほうが良いのでは」と地下鉄西新駅の駅員さんから電話が入ったのです。
仰天した私たちは早速甥の車で送ってもらって私が迎えに行きましたが地下鉄駅の駅員室の椅子
に端然と座っている安藤さんのお姿を見たときは本当に申し訳ないやら、有り難いやらで胸がい
っぱいになる思いでした。
安藤さんがどうして母の死を知り、葬式場まで知ったのかは忘れてしまいました。
平成７年ころでしたか、奥様の法事に出席のため私も初めて姉たちと一緒に門司の安藤さん宅を
お訪ねしたとき、安藤さんは安藤さんと父が勤務した門司港の日本郵船の建物に案内してくださ
り、我が父母たちが門司で住んでいた住居まで案内してくださったのです。
比較的急な坂の途中に建っている古い家屋を指さし、「あそこがあなたたちのご両親が住んでい
た家なのですよ」と教えられたとき、６０年以上の年月を経ていまだに住居として残っている我
が父母の若いときの住まいを目にした私は言いようのない感慨に襲われたものでした。
このときに昭和２９年に一緒に写真に写った次女のとも子さんと実に４１年ぶりに再会しました。
母が亡くなってから数年後、父母が眠る我が家の墓がある京都東山浄苑に安藤さんを案内し、そ
のあと、和歌山に旧友を弔いに行く安藤さんを難波まで送り、喫茶店で時間待ちをしているとき
にコーヒーを飲みながら「家内が大変体調を悪くしたとき、みこちゃん（k.mitikoさんのこと）
が病院までお見舞いに来てくれましてね。家内が泣いて喜んだのですよ」と言われるなり、安藤
さんはハラハラと涙を流されたのでした。
父は日本郵船時代の話をあまりしてくれなかったので父の郵船時代のエピソードはほとんどが安
藤さんからお聞きしたものです。
私が聞いたのは父や安藤さんたち事務方は入港目前が一番忙しいらしく、仕事が徹夜続きになる
ことが多かったそうですが、しきりに私の父が仕事をてきぱきと片付けていく有能の人だったと
話してくれました。
その有能さゆえ、抜擢されて氷川丸の処女航海に乗船したことも安藤さんから姉たちが聞いて私
も知るところとなったのです。
この難波でお別れしたのが安藤さんとの最後のお別れとなりました。
安藤孖さんは平成１３年７月３日に死去されました。あと１ヶ月ちょっとで満９６歳になるとこ
ろでした。
お葬式には姉弟３人で駆けつけましたが、ご遺族のお話をお聞きすると最後の最後まで立派な紳
士であり続けられたようです。私の父がパーキンソン病になってからもそうだったように。
私たち三姉弟は安藤さんのような立派なかたを父母の誠実な友人として持ち、子どもの私たちま
で懇意にさせてもらったことを誇りに思っています。