医療の歴史〜感染症・11

■感染症はウィルスや細菌によって引き起こされます。
したがって我々は細菌やウィルスを、
汚いもの・敵のように認識しがち。
しかしウィルスや細菌も、
自然界に生まれた生命体。
(ウィルスは厳密にはちょっと違いますが)
人間にとって害になるというだけで、
自然界ではそれなりの存在意義があるわけです。

ところがこの数十年、抗生物質の登場によって、
ウィルスや細菌との縁が少なくなってしまいました。
抗生物質が私達の周囲から、
ウィルスや細菌を駆逐してしまった。
医療の発達や衛生環境の充実も拍車をかけ、
日常生活の中でウィルスや細菌に出会う事が、
滅多になくなり健康的な生活が送れるようになった。
これは人間にとっては非常に喜ばしい。

ところがです。
ウィルスや細菌は前述のごとく、
元々この世に確固たるポジションがある。
そこから強制的に排除・駆除される、
等というのは異常な事態です。
こんな事をやってのけるのは人間くらいのもの。
そしてウィルスや細菌は、
黙って唯々諾々と人間の身勝手に従うと思ったら、
大きな間違いなんですよ、これが。

現在、MRSAという、抗生物質に対し、
耐性を持つ細菌が登場しています。
つまりMRSAには大半の抗生物質が、
効果をもたらせないんです。
細菌は抗生物質にも耐え抜くよう、 
進化をしていると。
これが何を意味するか?
まかり間違えば人類の終わりになるかも。
そのくらいのリスクをはらんでいるといっていいでしょう。

例えば6世紀の「ユスティニアヌスの斑点」や、
14世紀の黒死病パンデミックの原因となったペスト。
あるいはシューベルトやシューマン、
スメタナやモーパッサンといった才能が失われた、
新世界からもたらされた梅毒。
こういった病気は接触感染(触れることで伝染する)ですから、
患者を完全隔離してしまえば、
感染が起こることは有り得ません。
また万一罹患しても抗生物質を投与すれば、
たちどころに快癒できるでしょう。

ところがこれらの病気が、
抗生物質への耐性を身に付けてしまったら?
医療機関は打つ手が無くなり完全にお手上げ。
しかも6世紀や14世紀の比では無いほど、
これだけ物流・交通が発達した時代です。
瞬間的と言ってもいい位の時間で、
パンデミックが発生し人類文明は大打撃を受ける。
これだけ考えても背筋が凍りそうですが、
さらに恐ろしい事態も考えられるのです。

ペストや梅毒は細菌が起こす病気。
しかし病気の元になるのは細菌だけではなく、
ウィルスも関わる事は常識ですよね。
ウィルスが起こす疾病には、
インフルエンザや肝炎・ガンなど、
身近なものもあります。
これらの病気は現在、ドクター達が知恵を絞って、
考えうる限りの対策が講じられており
有る程度対抗策を準備できるんです。
が、問題なのはウィルスは突然変異を起こしやすく、
直ぐにモデルチェンジが可能な事。
なので今現在は大丈夫だから、
未来永劫大丈夫という保障は、できません、
どんな優秀な医学者でも。

そして万一上記のような病原性ウィルスなどが、
最も危険なタイプへのモデルチェンジが実現したとすると。
とんでもない危機的状況の発生が考えられる。
そしてウィルスの問題は、それだけではありません。
医療の進歩によって絶滅してしまった病気だと、
診察しても現在の先生達がわからないケースもありうる。
さらにその病気が抗生物質に耐性があり、
治療方針の手段が無いとしたら?
おまけに接触感染ではなく、
飛まつ感染・空気感染といった、
強い伝染性を持つタイプにモデルチェンジしたら。
こりゃあ、人類が絶滅しかねません。
そういった疾病の代表格が天然痘と言う病気です。