医療の歴史〜感染症・14

■新大陸から梅毒がもたらされた後。
ヨーロッパは大航海時代を迎えます。
そして一攫千金を夢見た、
コンキスタドールたちが活躍する時代を迎えました。
(活躍と評していいのかは疑問ですが)
コンキスタドールとは15世紀から17世紀にかけての、
スペインのアメリカ大陸征服者、探検家。
代表的なコンキスタドールは、
1521年にアステカ王国を侵略したエルナン・コルテス、


1533年にインカ帝国を侵略したフランシスコ・ピサロら。


さらにその後、スペイン衰退の後、
イギリス・フランスによる北米の征服事業が行われました。

南北アメリカ大陸の住民達は、
ヨーロッパやその他の地域で、
パンデミック(世界的流行)を起こした、
様々な感染症に対し全く抵抗力を持たず無防備でした。
そしてコンキスタドールや、
イギリス・フランスの征服者は、
南北アメリカの住民達を、
征服事業のたんなる障害としかみなさず、
恐るべき大虐殺を行うんです。

無論銃器を使用した殺戮も行いましたが、
全人口に占める征服者の比率は、
例えばインカ帝国の場合、
当時の人口は約1600万人前後と見積もられています。
対してフランシスコ・ピサロは、
兵180人と馬が37頭だけ。
実に1万分の1の勢力でした。
インカ帝国が総力を挙げれば、
訳なくコンキスタドールを排除できたはず。

ところがピサロ達はインカ帝国の住民が、
感染症に抵抗力を持っていない事に目を付け、
天然痘を患った兵隊の毛布を、
インカ帝国の住民に贈ったのでした。
先日も書いたとおり天然痘ウィルスは、
極めて強力でしぶとい感染力を持っています。
天然痘に全く免疫を持たない、
インカ帝国の人々に対し天然痘ウィルスは、
あっと言う間に蔓延し激烈な効果を及ぼします。
ピサロ達は天然痘ウィルスを、
生物兵器・戦略兵器・大量破壊兵器として使ったわけで。

正確な統計は出ていませんが、
インカ帝国では600万人が、
天然痘によって死亡したという説もあります。
アステカ帝国でも350万人が、
この感染症の犠牲になったと推計されています。
そして何より効果があったのは、
インカ帝国等の住民が全く抵抗できない病気に、
征服者達は平気でいる、全能の神のように。
疫病を神の怒りと信じていた、
インカ帝国の人々は征服者に恐れおののき、
抵抗する気力を失ってしまったことでした。

それは北米でも同じで、
インディアンたちはなす術もなく、
征服者と天然痘のために倒されていきました。
圧倒的に絶対少数である征服者達が、
膨大な人口を抱える国々を征服できた背景には、
天然痘を生物兵器として使った、
そして宗教観をとことん利用した、
とんでもなく残忍で狡猾な戦術があったんですね。
これまでの研究の結果、
南北アメリカ大陸で天然痘によって、
確実に1000万人以上が殺されたと推測されます。

第二次世界大戦でドイツが行った、
ユダヤ人に対する民族浄化・大虐殺(ホロコースト)が、
推計で900〜1100万人と言われていますから、
それに匹敵するほどの殺戮が行われたわけです。
こんな事は歴史の授業では教えてくれません。
私はこの事実を知った時、人間の罪深さと、
感染症の恐ろしさを改めて実感しましたよ、ええ。
現代の西欧文明はこうした、
大虐殺の上に成り立っている。
医療とはあまり関係ありませんが、
記憶にとどめておきたいですね。