小式部内侍  十訓抄 十ノ十四

同じ和泉式部の話だが、彼女の娘、小式部内侍が大変に思い病気にかかって、もう終わりかというまで
になり、人の顔なども見分けがつかないほどになってしまった。病床に横たわり、母の和泉式部はその
側に付き添い、娘の額に手をやりながら泣いていた。娘はわずかに目を開いて、そんな母の顔をじっと
見ていた。そして、苦しい息の下で、
「いかにせむ いくべき方もおもほえず 親に先立つ道を知らねば」
(いったいどうすればいいの。生きて行く道も、死んで行く道も、私は知らないわ。親に先立って死出の道
なんか、私は行けないわ。
とふるえる声で詠みましたところ、天井の上で、あくびをかみ殺したかと思われるような声で「おお、いい
歌だ」とう声がしたのだった。
そして、体の熱も引いていき、病気が治ったということである。