『老老介護の幸せ・母と娘の最後の旅路(松島トモ子著 飛鳥新社 1400円+税)
  

表題の本を読みました。
松島トモ子さんは私が小学校低学年のころのアイドルだった存在で、私より二歳年上でした。

その後、長い年月消息を聞かなかったのですが、ひょんなことから現在も女優として活躍されていること
を知り、表題の本のことも知ったために大変興味を持ち、図書館から借りたのです。
そして読んでみて面白いのなんの、認知症になったお母さんの介護の悲惨な内容なのに、彼女の語り
口に笑ってしまうことばかり。
松島トモ子さんってこんなにユーモア精神の持ち主なのかと驚きました。

なにしろ、お母様が95歳の誕生日パーティの席でお漏らしをしたことから認知症が判り、そのあとの、浴
槽で排便する(うんちがぷかぷか浮いているそうです)、夜中に家を飛び出して「トモ子に殺される!」
と叫ぶ、「一緒に死のう!」と包丁を持って追いかけ回されるという状況下で四苦八苦する著者の苦労
談は、その独白の可笑しさも手伝って一気に読んでしまいました。
いくつか抜粋を紹介します。

狂乱状態が現れるのは、突然だ。
ある日、母は突然包丁を持ちだして迫った。
「トモ子ちゃん、一緒に死にましょう」
本当に殺される!私は二階から一階へ駆け下りたが,母は本気で追いかけてくる。逃げながら頭の中
に、明日の新聞の見出しがチラチラよぎる。

<ライオンとヒョウに襲われても生き延びたあの松島トモ子、今度は実の母に襲われる>

コメンテーターが「だから私は施設を勧めたのに」なんて・・・。

(アフリカでライオンに襲われたとき)

次はトモ子さんの恋の話。

話は脱線するが、母と包丁といえば、こんなことを思い出す。
私は一度、駆け落ちしようとして家を飛び出したことがある。その時も母は包丁を持って追いかけてきた
のだ。母は包丁が好きなのかしらん。もちろん、当時の母は正気だ。
私は振り返り,包丁をもぎ取った。絶対に母を承知させようと必死だった。そして私も若く、勝ち目があっ
たのだけれども・・・・・・・。母を殺すなどと考えてもいなかったので、包丁を収めてしまった。その程度の
駆け落ちだったのでしょう。その時私は二十五歳。


恋は何度もしたけれど、私が相手の男性に夢中になると、母はいつも嫉妬に狂って大騒ぎだ。週刊誌
よりワイドショーより手強かった。逆に相手が私に夢中になって、私が冷静でいるなら、母は機嫌がいい。
デートに行くのに車で送ってくれたりしたくらいだもの。これも親バカで、娘が惚れられるのはまんざらで
もない、私の娘が惚れられぬわけがない、ということらしい。
遠い昔の、私の恋のお話である。

叶うことならお酒を一緒したいなと思わせるご婦人です。