ウクライナ情勢 北野幸伯のメールマガジンより

*北野 幸伯(きたの よしのり、1970年 - )は、国際関係の研究者。
モスクワ国際関係大学国際関係学部卒業。メールマガジン『RPE(ロシア政治経済ジャーナル)』を発行。
ロシア連邦・モスクワ在住の日本人として執筆活動を行ってきた。2018年11月時点でネット規制の加速
や将来的な息子の徴兵や出兵などのリスクを感じモスクワを離れ、現在は28年間モスクワ在住だった
日本人として執筆活動を継続している(ウイキペディア)


プーチンは、「ウクライナをNATOに加盟させないことを確約しろ!」とアメリカ、NATOに迫っています。
なんのことでしょうか?

戦後、ドイツは、アメリカ資本主義陣営の西ドイツと、ソ連共産陣営の東ドイツに分断されました。
しかし1980年代末になると、ソ連側があまりにも劣勢になった。
1989年、西ドイツと東ドイツを隔てていたベルリンの壁が崩壊。
つづいて、いわゆる東欧民主化革命が起こりますが、ソ連はこの動きを止めることができませんでした。
1990年、ドイツ再統一の動きが活発になっていきます。

ソ連は「ドイツ再統一」を認める条件を出しました。
「NATOをドイツより東に拡大しない」こと。
アメリカは、約束しました。

NATOは、「反ソ連(現在反ロシア)軍事同盟」です。
当時は、16か国でした。
これでもずいぶん多いです。

しかし、ソ連崩壊後、アメリカは約束を破り、NATOの東方拡大をつづけていったのです。
そして現在、NATO加盟国は30か国まで増えています。

どうでしょう?
「30か国からなる反自国軍事同盟」は、脅威でしょうか?
もちろん脅威です。

しかも、拡大の動きは止まっていないのです。
アメリカやNATOは、ロシアの西隣の旧ソ連国ウクライナ、あるいはコーカサスの旧ソ連国ジョージアを
NATOに引き入れようとしています。
そうなると、NATOとロシアの間の「緩衝地帯」が消滅する。

プーチンは、「これは許しがたい!」と考えているのです。
この「緩衝地帯が不可欠」という考え方、理解不能の人もいるでしょうか?

しかし、昔は日本も、「ロシアの南下政策を止めるために、緩衝地帯として朝鮮半島や満洲が必要だ」
と考えたのです。

▼なぜ今?
プーチン、怒りの根源は理解できました。
彼は、NATOのさらなる拡大、特にウクライナ、ジョージアへの拡大を阻止したい。
これは、わかりました。

しかし、これは、長いことつづいている問題です。
なぜ、「今になって」ウクライナ国境に大軍を集結させ、アメリカやNATOを脅しているのでしょうか?
私は「米中覇権戦争が激化していること」と関係があるのだと思います。

アメリカの主敵は中国です。
それで、たとえば米軍は、アフガニスタン、イラク、シリアなどから引き上げている。
要するに、資源を「対中国」にシフトさせている。

プーチンは、「アメリカは今、中国との戦いで忙しい。
それで、二方面で戦うのを避けたいはずだ。
だから、譲歩を勝ち取れるのではないか」と見ていた。

▼米ロ協議の結果は?
1月10日~13日、アメリカとロシア、NATOとロシアの協議が行われました。
ロシアの要求は、「NATO不拡大の法的保証」です。
特に、「ウクライナをNATOに加盟させないことの保証」。

協議の結果は、どうだったのでしょうか?
結局、アメリカもNATOもロシアも譲歩せず、状況は好転しませんでした。

<ロシアの外務次官らは各協議の終了後、米欧の記者も参加する形での記者会見を開き、
「NATO不拡大の法的保証は絶対に必要」とロシアの主張を声高に展開した。

旧ソ連構成国のウクライナとジョージア(グルジア)を「将来の加盟国」としたNATO首脳による2008年の
宣言を今年6月の首脳会議で撤回するよう求めるなど、要求はエスカレート。
外交交渉がまとまらない場合は「軍事技術的手段を用いてあらゆる措置を講じる」と脅しをかけた。

(時事 1月14日)
現状、プーチンの脅しは「空振り」になっています。

▼ロシア、ウクライナ侵攻に向けた情報工作を開始
ところが大問題があります。

プーチンは、「軍事力行使を躊躇しない男」なのです。
彼が軍事力を使った例を見てみましょう。

・第2次チェチェン戦争
・ロシアーグルジア戦争
・シリア内戦への介入
・クリミア併合(戦闘はありませんでしたが、ロシア軍がバックにいて併合を速やかに行いました。)
・ウクライナ内戦支援(ロシアは、ウクライナからの独立を目指すルガンスク、ドネツクを支援しています。)
・カザフスタンへの介入(最近、カザフスタンの大規模デモを鎮圧しました。)

つまり、アメリカ、NATOがロシアの要求を拒否しつづけると、ロシアがウクライナに侵攻する可能性が
高まってくる。
なんのために?

親ロシアのルガンスク、ドネツク州は現状、「事実上の独立状態」にある。
ここに入ることで、その独立(ウクライナからの独立、ロシア依存)を確固たるものにする。
ロシアは08年のロシアージョージア戦争後、ジョージアからの独立を目指す、アプハジア、南オセチアを
「国家承認」しました。
同じようなパターンになる可能性があります。

そして、実際ロシアは、ウクライナ侵攻に向けた情報工作を開始したようです。

毎日新聞1月15日。
<米ホワイトハウスのサキ報道官は14日の記者会見で、ロシアがウクライナ侵攻の口実をでっち上げ
る目的で、工作員のグループをウクライナ東部に配置しているとの情報があると明らかにした。>

「ウクライナ侵攻の口実をでっちあげる」とはどういうことでしょうか?
戦争で、「どっちが先に攻撃したか」は、とても大切な問題です。
日本も、先にアメリカ(真珠湾)を攻めたので、「狡猾だ!」といまだにいわれます。

だから、ロシアとしても、「ウクライナが先に攻撃したから、仕方なく反撃した」という状況を作り出したい。
そのための工作員なのです。
<工作員らはロシアが後ろ盾となっている武装勢力などに対して「自作自演」の市街戦や爆破工作を
仕掛ける訓練を受けているという。
サキ氏は「『ウクライナによるロシア側への攻撃が差し迫っている』と非難し、侵攻の理由にする環境作
りをしている」と批判。>(同上)

たとえば、ルガンスク、ドネツクで工作員による爆破が起こった。
ロシアは、「ウクライナ軍がミンスク2停戦合意を破り、ロシア系住民を大虐殺している!」と宣言し、ウ
クライナ侵攻を開始する。

ロシアの動向を注視していましょう。