博覧強記の著者の論調は説得性がある ピアノ調律師 森脇久雄 (令和4年3月1日発行『史(ふみ)』より)
日本人の間で人気の高い源義経を手厳しく批判した書である。
多くの人の反感を買うだろうなと思って読んでみたが、著者の論理的な筋の運び方は説得性があり、
源平時代の歴史については結構知っていることを自負していた私が知らない事実、誤った認識をも知
らされるところが多々あり、源平時代に興味のある人は必読の書と思った。
特に平治の乱における清盛の戦術や治承・寿永の乱における平知盛の海軍戦略、そして壇ノ浦に
おける戦術の破綻などの分析は見事であり、義経の多くの勝利に後白河法皇の謀略や平家方の中の
裏切り、それに自然も味方したことが説得性ある論調で記されている。
義経を徹底して愚将と決めつけ論じるが、義経が禁じ手であった平家方の漕ぎ手を狙って射殺させ
たと広く流布している説については、それは現代の作家、安田元久氏の『源義経』の中にしか記述が
見られないことを理由に、想像の産物と否定しているところなんかは著者の客観的で公平な態度を感
じる。
他の著作を読んでも博覧強記を推測される著者の力作であり、多くの批判誹謗が寄せられるかも知
れないが、著者の述べるところはそう容易には論破されないのでないかと思う。