永野伶実さんへのメールから抜粋

バッハのフルートソナタは4曲とも初めて聞きましたが、バロックフルートはキイが付いていないのになぜ
あんなに超絶技巧みたいな演奏、運指ができるのだという驚きでした。
そしてもう一つは澤さんのチェンバロ演奏の素晴らしいこと。若き日からヘルムート・ヴァルヒャやカール・
リヒターのレコードを繰り返し聞いてきており、日本人のチェンバリストの生演奏も聞いたことがあるので
すが、澤さんの演奏の躍動的なことと強弱の表現ができないチェンバロに得も言われぬ表情をつけてい
るように思われる演奏は即興的なものさえ感じられ、目を閉じるとセバスチャン・バッハが演奏しているの
ではと思わせるようなものを感じました。

そしてお二人の呼吸がまさにピッタリと一致するさまの共演の凄さ。
一曲目の中でバッハの曲では私に取ってはめずらしく思われた演奏がピタッと止まり、次に一緒に始まる
ときのまったくズレの無い出だしには本当に驚嘆する思いでした。
そして私がもっとも引き込まれたのが2番のソナタでして、フルートとチェンバロが対話を重ね、ときには丁
々発止とやり取りする演奏はもうジャズの即興演奏のようであり、フルートとチェンバロが対等に演奏する
様はベートーヴェンのクロイツェルソナタを連想しました。
最後の方には息も止めて聴き入った演奏が終わったとき、私は思わずブラボー!と声を発してしまいました
が、お二人の素晴らしいインタープレイを目の当たりに見聞きしただけでも今日、来た甲斐があったと思い
ました。

伶実さんが現代曲も得意なのはずっと以前に京都での演奏会で知ってましたが、この日の水谷さんと曾田
さんの曲はさらに前衛さが色濃く漂う曲ですね。
私はジャズの世界では前衛っぽいジャズマンたちも好んでいて、特にポール・ブレイというピアニストのファ
ンでしたから、水谷さんも曾田さんもすんなりと受け入れられました。
水谷さんの作品は何か羅生門や雨月物語の映画の世界を連想しましたね。

曾田さんの作品は、二人の人間、もしくは人間ではない魔界の存在がやり取りをしていてやがてそれが徐
々に途絶えていく様を連想しました。
「D,E」音が「レミ」、すなわち伶実さんを現しているということは後で知りました。
伶実さんは演奏家としてだけでなく、感受性においても素晴らしい感性を持っておられる方だと思いました。
もしポール・ブレイについて興味を持たれましたら下記のYou Tubeをご覧になってください。
https://youtu.be/VvfF4nqH8dc?t=351