「談話室」でその俳句を連続的に紹介している怪人百面相さんですが、彼は大手都市銀行の現職のとき、
社内報に「ジャズ入門の入門」というタイトルの投稿をしていました。
本人の承諾を得ましたのでそれらを「サロン便り」に掲載させてもらいます。
本当はその1から紹介するのが順序でしょうが、私が初めて目にして大変感銘を受けたその3から紹介し、
その後に順次その1から紹介していく予定です。
ジャズ入門の入門・・その3 怪人百面相
アート・ペッパー
今回はアート・ペッパーの感動のお話をしましょう。 アート・ペッパーは1950年代には天才的なアドリブの
アルト・サックス奏者として多くの名 盤を残しました。しかし、当時のジャズマンの常として彼も麻薬の世界
にどっぷりと浸か っていました。そのため、1960年代以降の10数年間は刑務所に出たり入ったりで完全
に演奏活動からは離れてしまっていました。
70 年代の半ばに何とか復帰を果たしたものの、彼は身も心もすっかり憔悴しきっていま した。そのような
中で 1977年に初めて日本へ演奏旅行に来ました。そして、そこで、奇跡が起こるのです。
場所は新宿厚生年金会館です。そのときの模様を彼は友人に宛てた手紙に記述しています。そのことを
彼の自伝「ストレート・ライフ」から少し長いのですが引用します。 ハンカチを準備して読んでください。
日本への旅行はすばらしかった。
ローリー(彼の妻)も僕も、日本で僕のレコードが売れているなんて、いい加減な話ではないかと思っていたんだ。
僕は舞台の袖に立ち、カル・ジェイダー(日本公演のバンド・リーダー)の紹介を待った。
僕はのろのろとマイクへ向かって歩き始めた。 僕の姿が見えるや、観客席から拍手と歓声が湧き上がった。
マイクに行きつくまでの間に、拍手は一段と高まっていった。
僕はマイクの前に立ちつくした。お辞儀をして拍手のおさまるのを待った。
少なくとも5分間はそのまま立っていたと思う。
何ともいえない素晴らしい思いに浸っていた。あんなことは初めてだった。 あとでローリーに聞いたが、彼女は
客席にいて観客の暖かな愛をひしひしと感じ、子供のように泣いてしまったそうだ。
僕の期待は裏切られなかったのだ。日本は僕を裏切らなかった。
本当に僕は受け入れられたのだ。
やっと報われたのだろうか。そうかもしれない。
たとえ何であったにしろ、その瞬間、今までの、過去の苦しみが全て報われた。
生きていてよかった。・・と僕は思った。
アート・ペッパー「ストレート・ライフ」より
これを読むたびに私は感動で涙目になります。
このときのライブ盤が、「ファースト・ライブ・イン・東京」1977です。
さぁ、どうですか。
聴きたくなったでしょう。