怪人百面相の「ジャズ入門の入門」 その6
セロニアス・モンク

いよいよ、このシリーズも最終コーナーになってきました。
ここまで ついてきた方は「聴きやすいもの中心」とはい担当ジャズの感覚をつかんだのではないかと
思います。

そこで、大事なことを申し上げなくていけません。

それは、「ジャズとはなんぞや」、ということにもなるのですが、「楽しむための音楽」という方、むしろジャ
ズは「時代を切り拓く音楽に よる表現行為」という面を施く持っているということです。

もう少し詳しく言うと、「音楽という行為の中で、いかに自分の個性、オリジナリティを発揮して人とは違っ
たことができるか」ということへの挑戦の歴史ということです。

それゆえ名作、問題作といわれるもの中には最初聴いたときには相当聞きづらく、うるさ く感じるものが
たくさんあります。私たちが聴きなじんでいるメロディラインをいかに壊して即興演奏で自己主張できるか・・・
という挑戦ですから、少なくとも1940年代に起こった 「ビ・バップ革命」以降はそうです。
ということが、「ジャズは曲ではなく演奏である」といわれる所以でもあります。

これまで紹介した作品は人気投票ですから、その中でも、どうしても「聞きやすい」という 作品に偏ります。
そこで、次にはジャズの歴史に沿って、「時代を切り拓く」という面から忘れてならない作品をいくつか
紹介しておきます
是非、食わず嫌いにならずに一度は聴いておいた方がいいでしょう。そういうものの中に自分の好み、
相性の合致するもの、感動を与えてくれるものがあるかもしれません。
また、たとえ自分の好みに合わなくても、そういう作品を知った上で、自分は「癒し系の音楽としての
ジャズを好みます。」とか「好きな曲のジャズ風演奏が好きですねえ。」とか「おしゃれな趣味としての
ジャズが好きなんです。」・・語ってください。
人の意見、人の評価のみで納得、了解してしまうのでな く、自分の耳で確認していくという態度が一番
大切だと 思います。

世界で一番短いジャズの歴史

「ジャズの歴史」のお話をする前提として、1940年代に起こったビ・バップ革命以降にします。というのは、
それまで のジャズはデキシーランド・ジャズやビッグ・バンドのスイ ング・ジャズのようにポピュラー音楽
でありダンス音楽でした。 音楽による自己表現行為ではなかったのです。そういう意味でビ・バップ以
降を「モダ ン・ジャズ」といいます。

1、ビ・バップ革命
1940年代に入ると、ポピュラー音楽やダンス音楽にあきたりないジャズ・プレーヤーたちや他の誰もやっ
たことのない演奏を誇示し、互いに自己主張しあうということを仕事の終わったオフタイムにやり始めま
した。そこで生まれてきたのが、コード進行は保ったまま、 いかに異なったメロディーを即興で演奏して
いくかという方法です。 ビ・バップはこうして生まれました。ジャズは聴いてもらう音楽から自己主張する
音楽に変わったのです。これがビ・バップを革命という由縁です。
そういうことで、まずモダン・ジャズの創生ビ・バップを代表する作品を聴いて下さい。

●「チャーリー・パーカー・オン・ダイアル」 1946,7
●「チャーリー・パーカー・オン・サボイ」 1944~48
これぞモダン・ジャズの幕開け。ビ・バップの頂点。パーカー最盛期の作品です。 彼の超人的なアドリブ・
プレイは四ツ谷の先生のように我慢して何度も聴いていると、 あるとき「悟り」が啓けるように分かるか
もしれません。

●「バド・パウエル/ジャズ・ジャイアンツ」 1949,50
ビ・バップ革命のもう一方の主役。
それまで管楽器の伴奏でしかなかったピアノがパウエルによって主役となりました。
バップ・ジャズのはじまりです。以降、パウエルの奏法を踏襲するパウエル派という多くのピアニスト達を
輩出することになります。

●「セロニアス・モンク/セロニアス・ヒムセルフ」1957
ビ・バップからハード・バップを通じての孤高のピアニスト・セロニアス・モンクを紹介しておきます。
不況和音の天才ピアニストとも言われ、この演奏をこの時代にジャズ・クラブでやると ブーイングが出た
んだろうなあ、と思ってしまいますね。
このノリはほとんど、現代音楽を聴いているようですよね。 バド・パウエルの音楽理論の先生でもあり、
その後パウエルはビ・バップの大スターに なります。

2、クール・ジャズの発生とウェスト・コースト・ジャズへの流れ

チャーリー・パーカーのグループにいたマイルス・デイビスは、ビ・バップのあまりに超人的なアドリブ・
プレイに限界を感じていました。パーカーの元を独立したマイルスは、ソロ のアドリブ・プレイを中心に
した熱狂的なビ・バップの演奏方式から、よりクールなサウン ドでグループとしてアンサンブルを重視
する表現を目指しました。 「個人プレイから組織プレイに」ですね。
そこで発表したのが、このアルバムです。

●「マイルス・デイビス・クールの誕生」 1949 そのほか、クール・ジャズの重要な演奏者に、レニー・
トリスターノ(p)、リー・コニッツ(as)、 スタン・ゲッツ (ts)などがあります。

一方、当時の米国西海岸ではハリウッドを中心とした映画産業が隆盛を極めていました。当然、サウ
ンドトラックの演奏者の需要が高まり、ジャズ・プレーヤーが西海岸に集ま っていました。
その中で白人プレーヤーを中心としてクール・ジャズの流れを受けて、アドリブよりもアレンジ中心の
聴きやすいジャ ズが演奏されました。
これをウェスト・コースト・ジャズといいます。

●「チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイ」 1955
チェット・ベイカーのトランペットは哀愁があって大好きです。また、彼はボーカルも歌い ます。彼の
ボーカルには熱狂的なファンがたくさんいますが、私には少々つらい。最近 人気のある小林桂に
少し似ています。
チェット・ベイカーのバラード・プレイが素晴らしい「チェット・ベイカー/Chet」もおすす めです。
次回はいよいよ、ジャズの黄金期ハード・バップの隆盛に入っていきます。