北欧の兄弟国王と正義の人たち    2024.07.11

7月6日の讀賣新聞の編集手帳にノルウェー国王ホーコン7世に関することが記されていました。



私の父は「リーダースダイジェスト」という雑誌を購読していたのですが、中学生のときにその中にホー
コン7世に関するエピソードが載っており、それを見て以来、この北欧の国王に親近感を感じたのです。

ノルウェーは20世紀初頭にスウェーデンから独立したとき、立憲君主制を撰び、デンマーク王家の王子
を国王に迎えたのですが、これがホーコン7世でした。

庶民的な人柄だったらしく、護衛もつけずに王都を自由行動していて市内電車に乗ったとき、正面に座
った女性から、「あなた、どこかでお会いしたことがある」と言われ、「国王のハーコンです。きっと新聞で
私の写真をご覧になったのでしょう」と答え、多くの国民と親しみたいと数多くの国民との謁見を重ねた
ときに「私、王様に接するのに慣れていませんので」ともじもじする国民に対して「私も国王になったばか
りでまだ慣れていないのです」と答えた記事を読み、とても親近感を感じたのです。

ホーコン7世は第二次大戦でナチス・ドイツがノルウェーに侵攻してきたとき、恭順の勧告を拒否し、国王
の所在地を探して空爆するドイツ軍の攻撃を逃れながら、ノルウェー国内を点々と逃避するのですが、
ついに追い詰められて自国の軍に対して降伏を命じ、ホーコン7世は閣僚と共に英国に脱出し、英国から
ナチス・ドイツへの非協力をノルウェー国民に訴え続けるのです。

戦後、連合軍によってノルウェーが解放されてホーコン7世が帰国したとき、ノルウェー国民は熱狂的に
国王を迎えたそうです。


ホーコン7世の兄のデンマーク国王クリスチャン10世はナチス・ドイツに占領されてユダヤ人迫害が始
まったとき、毎日の乗馬による散歩のときにダビデの星(ユダヤ人に強制的につけさせられたバッチ)を
胸につけてコペンハーゲンの町中を闊歩したそうで、それを知ったアンネ・フランクが暗闇の日常の中
で唯一、希望がもてるニュースと日記に記していることを私は記憶しているのですが、ネットでこのエピ
ソードを探してもまったくヒットしないので私の勘違いかも知れません。
このことを確かめるためにもう一度『アンネの日記』に目を通してみようかなと思ってます。


ナチスのユダヤ人強制収容が始まったとき、デンマーク国民はユダヤ人たちを逃すために決死の行動
を起こし、何とデンマークに居たユダヤ人たちの92パーセント(7200人)がスウェーデンに逃れることが
できたのです。
欧州各国でナチスのユダヤ人迫害に対して積極的に救いの手を差し伸べたのはデンマークとスウェー
デン、フィンランドだけです。

スウェーデンのラウル・ワレンバーグはハンガリーにおいてユダヤ人撲滅の動きを知ると、外交官の身
分を国から与えられてハンガリーにおもむき、外交官特権をフルに使って10万人のユダヤ人を救いました。
彼はドイツ軍を追い払ってハンガリーに来たソ連軍に交渉に出かけたまま、消息を絶ち、今に至るも行
方不明のままで、詳しいことは解明されていません。


スウェーデンと同じ永世中立国スイスはユダヤ人の入国を拒否し、ユダヤ人たちの預金についても沈黙
を守ってきたのですが、第二次大戦後、国内においてそれを摘発する動きが出て、やがて国家としてユ
ダヤ人への謝罪を表明し、生き残ったユダヤ人預金者の捜索に着手するようになりました。
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB/%E6%88%A6%E4%BA%89_%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%8C%E3%83%A6%E3%83%80%E3%83%A4%E4%BA%BA%E9%9B%A3%E6%B0%91%E3%81%AB%E5%8F%96%E3%81%A3%E3%81%9F%E9%BB%92%E3%81%84%E6%94%BF%E7%AD%96/43855606

その戦時下においてのスイスにもユダヤ人救出のために動いた人がいます。
上記の動画にも出てくるパウル・グリュニンガーです。
警察の幹部だった人物ですが、偽造文書を発行して3600人のユダヤ人をスイス国内に受け入れたのです。
そのことが発覚すると彼は罷免され有罪となり、罰金刑を受けました。
戦後、汚名は回復されたのですが、貧しさの中で1972年に死去したそうです。


臆病でとてもそんな勇気と気概を持ち合わせていない私は、ワレンバーグやグリュニンガーのような人を
同じ人間かと思うほど畏敬の念で見てしまいます。
崇高で不屈の魂の持ち主たちであり、このような人たちこそ英雄の名にふさわしいと思います。

ホーコン7世のことから話が発展してしまいました。