小説『ニジンスキーは銀橋で踊らない』 かげはら史帆(著) 河出書房新社
20世紀初頭に鬼才プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフによって結成されたバレエ・リュス(ロシアバレエ)に彗星のごとく現れてヨーロッパのバレエ界に革新的影響を与えた天才バレエダンサーであり、振付師ニジンスキーの妻の物語です。
ロンドの会というグループLINEにフランスのバレエ振付師、モーリス・ベジャールに関する投稿があったのに刺激され、昔、強い関心を抱いていたニジンスキーについてもう一度ネットでしらべたところ、彼の妻に関する小説が出版されていることを知り、すぐに図書館から借りて読んだのです。
ニジンスキー ディアギレフ

小説ですからフィクションの部分も多いのですが、もうとにかく面白く、一気に読みました。
ニジンスキーはディアギレフとの同性愛関係で有名なのですが、ハンガリー貴族の深窓の令嬢であり、熱烈なニジンスキーファンであるロモラ・デ・プルスキーと結婚するのです。

二人は娘二人をもうけるのですから、ニジンスキーはバイセクシュアルだったようです。
この結婚はディアギレフの激怒を買い、バレエ・リュスをくびになるのですが、その後、ニジンスキーは新しいバレエ団を立ち上げようとして失敗し、いろいろ苦労を重ねるうちに精神に異常を来たし、やがて精神病院やサナトリウムを転々とするのです。

その中でロモラは同じハンガリー出身の貴族出の女優リア・デ・プッティの援助をもらおうとするのですが、リアに見初められて夫への治療への多額の費用を持つという条件でリアと同棲し、ロモラはレズビアンに目覚めるのです。

ホモセクシュアル、バイセクシュアル、レズビアンという性の様々な人間関係の葛藤は、澁澤龍彦や三島由紀夫、マルキ・ド・サド、ジョルジュ・バタイユ等の描く世界を髣髴とさせるところで、そこにバレエ・リュスとニジンスキーに魅了された同時代の芸術家たち、作曲家のイーゴリ・ストラヴィンスキーやクロード・ドビュッシー、モーリス・ラヴェル、画家のパブロ・ピカソに藤田嗣治、文学者のジャン・コクトーにマルセル・プルースト、伝説的なバレエリナのアンナ・パヴロワなど随所に出てくるのですから、つい惹きつけられて読んでいってしまうのです。
バレエダンサーとしての人生を終えたニジンスキーをロモラは献身的な愛情をもって支え、看取ります。
晩年のニジンスキー夫妻

ニジンスキー亡きあとの晩年にロモラは日本に旅行したときに宝塚歌劇を見て魅了され、当時の男役スターの明石照子に夫、ニジンスキーの姿をダブらせ、明石照子に深い思い入れをするようになり、ロモラは日本語を習うようになって当時、スイスに留学していた精神分析学の河合隼雄の指導を受けるようになったのですが、明石が結婚して退団したことを知ったところで小説は終わります。
『ニジンスキーは銀橋では踊らない』というタイトルはこの終章を暗示していたのだと思いました。

読後、重要な登場人物についてはAIで調べたところ、フィクションがかなりあることを見つけましたが、それについては触れません。