よみがえるトラキア黄金文明 (その2
                    川島道子


26 トラキア黄金文化の最高峰を示す作品

 

27
 浅型フィアラ杯 前4世紀末 金
中央に装飾突起のついた饗宴用の皿。黒人の頭部像が三重に
ならんでいます。 

 

28
 アンフォラ型リュトン 前4世紀末  金
この容器は二人の人間が同時にワインを飲むことを
目的にしています。高さ29cmの大型リュトン。 
※リュトン:儀式用として酒などを入れ、他の容器に注ぎ分けるもの。

 
29 鹿型リュトン 前4世紀末 金
リュトンの上部にはアテナ、パリス、ヘラ、アフロディティが
描かれていて、題材はトロイ戦争の発端となる「パリスの審判」が
取り上げられています。 


 
30 山羊型リュトン 前4世紀末 金
 
リュトン上部には、ヘラ、アポロン、アルテミス、ニケの
古代ギリシャの神像4体が浮き彫り装飾されています。
 
2004年、ブルガリア共和国中央部”バラの谷”と呼ばれる
カザンルクの谷で世界を驚かせる歴史的な発掘がありました。
「トラキア王の黄金のマスク」で、重さ672gにもおよぶ
金を用いた豪華なマスクは世界でも類を見ないもので、21世紀の
大発見として世界中で注目を集めました。

 

31
 トラキア王の黄金のマスク 前5世紀後半 金
 
高さ20cm 幅23cm 奥行き4・1cm 重さ672g
ギリシャやマケドニヤでこれまで発見された同様なマスクが、
金箔を使って作られた100gにもみたない軽量、薄手で
あったのにたいして、このマスクは厚い金板を打ちのばして
厚さ最大3mmのフィアラ杯にしたものです。このマスクが
王権の象徴として重要な役割を果たした可能性が高いと
言われています。 

1876年   ギリシャ「アガメムノンの黄金のマスク」発見
1922年   エジプト「ツタンカーメン王の黄金のマスク」発見
2004年   ブルガリア「トラキア王の黄金のマスク」発見
21世紀の大発見として世界の注目を集めました。

 

32 指輪 前5世紀後半 金
同じ墳丘墓から出土したこの指輪には写実的な描写が見られます。 

 

33
 キュリクス杯 前4世紀後半 金

 

34
 キュリクス杯とは二つの把手と高い脚のついた浅い杯。
優美な姿に高度な職人の技がみられます。 

 

35 黄金の花冠 前4世紀中ごろ 金
2005年未発掘の墳丘墓から出土した花冠。花冠はこれまで
見つかった最も豪奢な作品のひとつで、不死化と英雄化の儀式に
おいて重要な役割をになっていたと言われ、被葬者はオドリュサイ
王国の最後の王の息子と言われています。 

 

36 花冠の中央部には片手に花冠を、もう片方の手にフィアラ杯を
持つ勝利の女神、有翼のニケがあらはされています。

 

37
 鹿型リュトン 前4世紀中頃 銀、鍍金
花冠と同じ墳丘墓から出土し、卓越した技術に驚かされます。 

 

38 勇敢な騎馬戦士としてトロイ伝説にも登場するするトラキア人は
紀元前3000年頃から部族国家として栄えましたが、統一国家を
なすにはいたらず、やがて古代ローマの一部となり歴史から姿を
消していきました。文字を持たず、地上に痕跡を残さないまま、
歴史の表舞台から消え去ったトラキア民族には、ケルト民族と
共通するものを感じました。 

 
39 ブルガリヤの墳丘墓全景
 
エジプトやメソポタミアより古い時代に、ブルガリアにこれだけ
古い黄金の文明があったという驚きに加えて、出土品のシンプルで
ありながら、その技巧の精妙さと美しさに驚きました。博物館の
暗がりの中で光を放つ黄金の輝きは、たとえようもない美しさでした。
人類の歴史に黄金が彩りを添え、そのあゆみを複雑にした意味を、
このトラキア黄金展は目の当たりに見せてくれました。
 
 
参考資料  
 
  よみがえる黄金文明展図録より