関西ぐらし つれづれなるままに Vol.31 by ルーメイ 2014.04.27
先日、消費税が上がる前にと、思い切ってミシンを注文しました。わたしは不器用で、家庭科の
課題は母に助けてもらっていました。結婚するときにミシンも揃えましたが、ほとんど使わないまま
故障し、処分してしまいました。そんなわたしがなぜミシンを買ったのかというと、昨年秋にベンガ
ラ染めという染色と出逢い、体調に不安を覚えながら、必死にスクールに通ったことが発端です。
ベンガラというのは酸化鉄であり、土から採れる赤い顔料です。日本では古来、陶器(伊万里焼
や九谷焼)や漆器、のぼり、家屋の防虫防腐などに使われてきました。ラスコーやアルタミラの洞
窟、高松塚古墳の壁画にも使われた最古の顔料であり、古代色なのです。
そんなベンガラで布を染めやすくした染料を開発した大阪のメーカーで、素晴らしい師匠に染め
を学ぶことができました。焼く温度を変えることで、様々な色のベンガラ染料が製品化されていま
す。日光による色落ちが少なく、人体や環境に無害。何より大地の色を感じさせる、自然でやさし
い色合いに魅了されてしまいました!
以前テレビで、お坊さんが袈裟について話していました。袈裟というと派手なイメージがあります
が、インドの修行僧の衣は壊色(えじき)なのだそう。壊色というのは人工的な原色を破壊した濁
った色ということで、自然な色ということらしいです。草木染めなのかな? 壊色の袈裟は自然界
の色。これを着れば森にいるのと同じ、と語っていました。ベンガラ染めにはカラフルな染料もあ
りますが、ベンガラ染めの服を着れば土の上にいるのと同じだ、と思いました。
ベンガラの名は、インドのベンガル地方に由来しているという説があります。わたしはインドが訳
もなく好きだし、おじいちゃんが仕事でのぼりに字を書いたりしていたので、運命を感じてしまいま
した(笑)。そんなわけで、染めるものをミシンで縫おうと思い立ったわけです。いつの日か、一回
目に自分でタンクトップやTシャツを染め、二回目にそれを着て自由に踊リましょう、というワーク
ショップを開けたらいいなぁと思っています。
ベンガラ染めスクール修了と入れ替わるように、神戸の造形教室へ、月一くらいのペースで通う
ことになりました。作品に吸い寄せられるように足を止めた展覧会で、作家さんが造形教室を開い
ていると知りました。養護学校などで教えながら、作品を発表してきた女性で、染色の技法も取り
入れています。その先生から、「様々な発想や手法で作品を創っていくなかで、ひとつのやり方に
こだわらない。何か完成させたら、そのやり方を全部誰かに伝授してしまう」という話をうかがい、
わたしは驚嘆しました。そうすると、新たな発想が湧いてくるよと。自分のオリジナリティ、手法を固
守する人が多いなかで、このようなアーティストに教えていただけるなんて、なんという喜びでしょう。
そしてその話はわたしを励ましてもくれました。去年まで続けてきたダンス&体操教室のプログ
ラムや使った曲を、若い友人に伝えさせてもらったからです。わたしは先生と違って大した才能も
実績もありません。固守したいとも、誰かに伝えたいとも思いませんでした。でもダンスのワークシ
ョップをやってみたいという友人が、わたしがやってきたことのエッセンスを受け継いでくれました。
それによって、新たな何かがわたしのなかに生まれるかは、まだわかりません。でもこれで良かっ
たのだと、励まされたのです。
2月末には、岡山県高梁市に旅してきました。ここの吹屋地区は、ベンガラの里と呼ばれていま
す。江戸時代中期、全国で初めてこの地区でベンガラが生産されて以来、江戸末期、明治、大正
と大いに繁盛を続けたそう。古い家屋の壁や格子にベンガラが使われ、町全体が赤色の町並み
なのです。
その町並みもさることながら、心に残る3人の女性との出会いがありました。まずは資料館の受
付をしていた81歳の方。車を運転して通勤しているそう。わたしたちが訪れると、立て板に水のご
とく説明してくれました。そして帰り際3時くらいだったので、コーヒーとおまんじゅうを出してくれまし
た。この受付の仕事以外に、野菜作りも。そして「一人暮らしなので、いつ誰の世話になるかわか
らないからねー、今はお年寄りにお弁当を届けたりと、できることをしてるのよ」と明るく語る、スー
パーおばあちゃんでした。インスタントコーヒーでしたが、こんなにおいしくいただいたのは初めて
でした。
2人目は、公開している歴史あるお屋敷のおかみさん。民間のお屋敷なのに、村の人々が学ん
だ寺子屋みたいな座敷もあり、日本の素晴らしさを語ってくれました。同時代のヨーロッパに比べ
て、日本人の識字率のほうが高かったのだそう。日本人にもっと誇りを持ってほしいと。住んでい
る地域・文化への誇りと愛着も感じられ、わたしは自分はどうだろう? と振り返りました。
そして3人目は、岡山市内で立ち寄った、アンティークなカフェで出会いました。息子さんがおい
しいコーヒーを淹れ、お母さんがウェイトレスさん。60代くらいの方でしょうか? 編み物が得意で、
編んだバッグや帽子がカフェの一画に展示してありました。大正時代に建てられたこげ茶色の空
間に、灯りをともすような作品たち。ご自身も手編みの帽子をかぶり、ちょっと破れたジーンズを
はきこなしていました。わたしもいくつか帽子をかぶってみましたが、なんか違う? 雰囲気が出
ない。そしたらそのお母さんが「こういう味が出るのは、わたしくらいのトシになってからよ」と。あ〜
わたしも、めざそう!と思いました。それらのなかでは一番よく似合うと思われる、白系の毛糸の
帽子を買いました。あのステキなお母さんのこと、かぶる度に思い出すことでしょう。そしてもしも
汚れたら、ベンガラで染めましょう。
ベンガラの里は車でなくては行けないような山奥なので、車で連れて行ってくれた息子にも感謝
です。息子は、アポなしでハプニング多き旅をするテレビ番組、「鶴瓶の家族にカンパイ」みたいな
旅だったね!と言っていました。今年で、関東→関西に引っ越して来て10年目。感動が多い日々
ですが、まだ体調は万全ではなく、がんばり過ぎると疲れるので、ボチボチと。できることを、ムリ
なくやっていきたいです。