5/24 2002掲載
by 森脇久雄
大峯奥駈修行サポートの旅
@宝塚歌劇「プラハの春」観劇記
5/17
車のトランクにシュラーフを3つ、登山着、登山靴、野営用具一式を放り込み、スー
ツにネクタイ姿で、午前9時半に我が家を出発しました。
今日は午後1時からの宝塚歌劇星組の「プラハの春」を観劇し、終演後、明日からの
奥駈をサポートするため熊野へ走るのです。
午前10時半に宝塚歌劇場に着き、地下駐車場に車を乗り入れると、貸切バスが何台
も停まっています。
今日は団体が多いな、と嫌な予感を感じながらチケット売り場に行ったらやっぱり当
日券が少なく、1階のA席は一番後列が10枚ほど残っているだけでした。
S席は、と調べるとこれも両端ばかりで、結局、最後列のA席を2枚求めましたが、
やはり早く来て良かった、下手すると当日券が無いところだった、と冷や汗をかきま
した。
その後、劇場建物内に入ると、当日券を持った人たちが何人か並んでおります。
宝塚歌劇の素晴らしい特徴の一つはダフ屋が存在しないことで、前売りを買っていな
がら当日行けなくなった人はこのようにファンクラブを介して劇場入り口でチケット
をさばくのです。値引きもプレミアもつけない定価販売というのが暗黙のルールだそ
うです。
この方が良い所の座席だろうな、と思ったのですが、買ってしまったチケットの払い
戻しはきかないので何も聞かずにやり過ごしました。
11時40分ころに今日ご一緒するHさんがやってこられました。
歌劇場が建てかえられてから来るのは初めてとのことで、歌劇場の中をご案内します。
(六甲縦走の時に撮影したもの) |
入り口入ったところから大勢の人たちがそこかしこにたむろしており、いつも感じる
宝塚歌劇独特の雰囲気が漂っています。
ホールに行くまでの右手の外のテラスとを仕切る窓際にずらっと並べられたテーブル
で大勢の人が弁当を食べているのを見てHさんはびっくりされるので、団体が来てい
るのですよ、と説明します。舞台が観られさえすれば他のことはどうでもよい、とい
うファンも多く、そういったファンたちは食事なんかも極力安く済まそうとするよう
で、一路真輝さんの引退公演だった「エリザベート」のときなんか、立見席の陣取り
のため開演前に大ホールの最後列後ろの通路のところに座り込んで牛乳とパンを飲食
している若い女の子たちが大勢いたことを話します。
歌劇場建物内の雰囲気はゴージャスなのにやってくる客たちがこういった気取りの無
いところが宝塚歌劇の魅力の一つであり、ホール内で飲み食いをしているのを黙認し
ている劇場側の姿勢も大変好ましく感じるのです。宝塚歌劇は関西の生んだ文化らし
く、合理的であり、庶民的なのです。
私たちが昼食を取ったレストランです。
劇場内にはいくつかのレストランがありますが、ここは中クラスと言ったところでし
ょうか。
Hさんは画像掲載を遠慮されたので後姿のみですが、明るくしっとりとした素敵なご
婦人です。
「プラハの春」は約一ヶ月前に観たのですが、あまりにも素晴らしく、どうしてもも
う一度観たくなってやってきました。
前回は前から2列目、ど真ん中の席で凄い迫力でしたが、今回は極端に対照的に一番
後ろの席での観劇、色々な点で前回のような感動は味わえないかも知れない、と予測
していたのですが、それはまったくの杞憂でありました。
遠い分だけ、全体が視野の中に入り、舞台の端から端まで広がって演ずる踊りや動き
は今回の方がはるかに魅力的に映ったのです。
特に、この4月、5月公演にしか見られない初舞台生の挨拶口上が出色でした。
今春宝塚音楽学校を卒業した48名のニュータカラジェンヌが制服の黒の羽織袴を着
て舞台狭しと並び、演じる様々な動きや踊り、そしてやがて口上を述べる3人だけを
前面に置いて他はずらっと端から端までに広がって全員正座し、「この春、音楽学校を
卒業した私たち88期生は小林一三先生の理念のもとに長い伝統を持つ宝塚歌劇団の
一員として誇りを持って精進していきますので、皆様、末永いご愛顧をお願い申し上
げます」
と大筋このような口上を3人がリレー式に言い、最後の「お願い申し上げます」のと
ころで全員が唱和しながら深々とお辞儀するのですが、このとき、膝に置いていた手
を床に着くとき、48名の全員の白い手のひらが同時に翻るときの美しさといったら
もう背筋がゾクッとするような圧巻です。
(88期生) |
口上を述べる3人は毎回代わり、公演の期間を通じて48名全員がやります。劇場入
り口入ったところに初舞台生の名簿が表示してあり、その日に口上を述べる3人の名
前のところに花柄の印がつけられます。家族や友人たちはその日を狙ってやってくる
のでしょうね。
初舞台生の口上は絶対に一度は観るべき価値があります。私はもう病みつきになりま
したので、来年から春の公演は毎年観ることにしました。
初舞台生はこの口上挨拶が唯一の同期生による舞台であり、この後、月、花、雪、星、
宙組と別れていって二度と一緒に舞台にあがることはありません。
Eguchi君に聞いたのですが、同期生たちは仲間内では喧嘩したり、対立することがあ
っても他の年度のタカラジェンヌとの対立に対しては鉄のような固い団結をし仲間を
かばいあうそうです。
それはそうでしょうね。あの一糸乱れぬ舞台の動きを観ていたら、よくも2年間でこ
れだけのものを身につけるものよと呆れるものがあり、それを実現させるための厳し
い訓練に一緒に耐えてきた仲間たちなんですから、その結びつきは強いものがあるの
はうなづけます。
そして始まった「プラハの春」ですが、最初に観たときに勝るとも劣らぬ感動を今回
も受けました
舞台からの距離なんか関係無かったです。音楽は一度聴いていて耳が馴染んだのか今
回の方がもっと美しく感じました。
それとドラマの展開を知っているからでしょうね、最初にエピローグのところで主役
を演じる香寿たつきと渚あきがデュエットで踊りだしたとき、何故かもう涙がジーン
と滲みでてくるのです。美しい音楽にあわせて優美に踊る恋人たちのその美しい踊り
に後の運命をダブらせてしまうので目頭が熱くなるのでしょうね。
(ドイツ語教師・渚あき&日本人外交官・香寿たつき) |
(素顔の香寿たつきと渚あき) |
2年前に新オペラ座のミュージカル「リア・ファイル」を観て激しく感動し、翌日、た
った10枚しか無いと聞いた当日券を狙って1時間前から劇場の前で並び、再び観た
ときの感動を思い出しました。良い舞台劇というものは二度観てこそ、その素晴らし
さを味わえるものだと私は思ってます。
音楽の素晴らしさに改めて惚れ惚れしましたが、それらを歌う香たつきと渚あきは共
に歌も演技もうまいとEguchi君もヅカファンである私のお客様も言っておりました
が、納得できる二人の歌唱力でした。
東ドイツの秘密警察に拘束されたヒロインのことを案じる主人公と彼を囲んで今後の
方策について学生たちが語り合う酒場のシーンに突如ヒロインが登場したとき「カテ
リーナ先生!」と学生たちが叫ぶと同時に流れ出したモルダウの調べ、鳥肌が立つよ
うな感動を覚えました。
ああ、こんなことを文章で書いたってちっともあの凄い感動は皆さんには伝わらない
のだ!
私が見た宝塚歌劇の演目の中で最高に素晴らしかった「プラハの春」、みんなに観て欲
しかった!
近畿修猷会が団体で観劇するのが何故この「プラハの春」では無かったのだろう、と
ても残念だ。
しかし今からでも遅くは無いのです。宝塚大劇場公演は終わったけれど、東京公演が
ある。
東京よいよい会の皆さん、特に男性の諸氏、騙されたと思って観てください。
「プラハの春」東京公演は6/28〜8/11です。
そして歌劇が終わって30分間の休憩時間を置いてグランド・レビューが始まります。
次から次へとコスチュームを変えて数々の群舞が舞われるのです。これは後ろの方で
観る方が素晴らしい。宝塚歌劇の最大の強みは主役から端役の端々まで全員、高水準
以上の踊りと動きができることです。よくあれだけの足の上げ下げ、手の上げ下げ、
右や左に回転し、素早く跳躍する、などの動作をよくも間違えずに全員の呼吸がそろ
うものでして、彩輝直が中心となり、全員フロックコート(燕尾服だったかな?)を
着込んだ男役だけでの早い動きの群舞はこれはもう圧巻でして、かっこいいったらあ
りゃーしない、という感じです。連れのHさんも「素敵ですねぇ!」と声をあげてお
られました。
(彩輝直) | |
(素顔の彩輝直) |
この彩輝直さんですが、初回に最前列の席で観たとき、メーキャップといい、表情と
いい、声音といい、仕草といい、もう、女性を全然感じさせない完璧な男という感じ
でして、そのことをEguchi君に話したところ、「彩輝さんに伝えておくよ」と彼が言
うので、そんな気を悪くしないだろうか、と私が危惧すると、男役に対する最高の誉
め言葉だよ、と彼は答えるのでした。
今回の星組の公演は男役の素晴らしさが特に目に付きました。
(学生運動の熱血漢リーダを演じる安蘭けい) | |
(素顔の安蘭けい) | |
(秘密警察の冷酷なヘス大佐役を演じる夢輝のあ) | |
(素顔の夢輝のあ) |
後に抗議のために焼身自殺を遂げるという役割の安蘭けいはいかにもそのようなひた
むきで妥協の無い青年役にぴったしのキャラクターであり、夢輝のあの冷酷な表情は
強く印象に残るものがありました。
香寿たつき、彩輝直、安蘭けい、夢輝のあ
この4人、それぞれまったく違うタイプの男性像を演じきっており、男である私でさ
え、心底惚れ惚れするようなかっこいい男性たちでして、宝塚歌劇の華が男役である
ことを痛切に実感した今回の星組公演でした。
そしてこれは大劇場内に入ったときに「宝塚歌劇の客層も随分変わりましたね、若い
人が少ないですわ」というHさんの言葉で初めて気がついたのですが、今日は年配者
が大変多く、そして男性が今までに無く多いのです。
「いえ、普段は若い人も大勢いますよ。今日は団体が多いからでしょう」と答えたの
ですが、この団体さんたち、初めての観劇のようでした。
と言うのも、ほら、宝塚歌劇というと誰もがイメージするあのラインダンスが始まっ
たときの観客の反応が凄いのです。
今日はラインダンスを演じるのが例の88期生48名でこれは普段の公演よりもはる
かに多い人数であり、全員ピンクのウサギをイメージしたレオタード姿で登場し、ヤ
ッ!ヤッ!と明るい声をあげながら舞台狭しとばかり踊りだすと、もう観客席はざわ
めきだし、顔を横の連れの方にむけてささやく人、知人が後ろにいるのか振り向く人
が続出し、やがて舞台の左右いっぱいに一列になって広がり、あの足を交互に上げる
踊りをし出すと観客の興奮が最後尾の私たちのもとまで伝わってくるのです。
中には興奮のあまり立ち上がった客もいました。
「まあ、なんて可愛いんでしょう!」とお隣のHさんも声をあげられます。
そうです。本当にそれは素晴らしいものでした。今日来た団体の熟年の男性たちは一
人として無感動で見たものはいないことでしょう。
ラインダンスなんてもうとっくの昔に卒業したよ、とエラソーにEguchi君は言うけれ
ど、私は永久に卒業するつもりはありませんな。
やがてフィナーレの大階段が始まりますが、この大階段を実際に下りたことのある
Eguchi君の話によるとかなりの急傾斜で身がすくむそうです。よくも足元も見ずに、
場合によっては15キロの重さのある羽なんかを背負ってスターたちは歌いながら降
りてくるものです。今までに転落事故の一つや二つはあったのではないでしょうか。
全員が舞台に登場し終わった後、主役級スターたちはオーケストラボックスの前面に
設置された回廊の銀橋(ぎんきょう)にやってきます。
演劇中でもしょっちゅうここに彼らは来るのですが、そのときは決して足元の客の方
には視線を向けず、常に遠方に向けているのですが、フィナーレのこのときは足元の
お客さんにも視線を送るのです。
そこに席を占めるのは宝塚歌劇関係者でも重要な人が多いとかで、前回、2列目で観
劇したときのこのフィナーレ時に香寿たつきさんも渚あきさんも私を注視しました。
「ああ、Eguchiさんの言っていた高校同窓生のお友達ってこの人か」と彼女らは思う
のでしょうね。これがEguchi君の場合だとウインクをするそうです。
そしてどんな素晴らしい夢のような時もいつか終わりが来ます。諸行無常です。
午後4時5分、宝塚歌劇星組の公演は終わりました。
お手洗いに行って男性トイレにも人が並ぶという光景を宝塚歌劇場内で私は初めて見
ました。如何に今日の男性客が多かったことかを物語っております。
私が用を足していると、後ろに並んだ男性が仲間に対してでしょう、「良かったなぁ!」
と感極まったような声をあげました。「病み付きになりそう」と続けて言うので、私は
振り向き「そんなに良かったですか?」と尋ねるとその男性、目の鋭い60代前後の
人でしたが、うなづき、「宝塚歌劇がこんなにも素晴らしいものとは知りませんでした。
感動しました」と言うのです。
「ファンの一人として嬉しいです。どうか多くのお知り合いに宣伝してもらえません
か」と何十年来のヅカファンの如く、私は用足しをしたままの姿勢でお願いをしたの
でした。
この初老の男性、間違いなく、しばらくの間は友人、知人に宝塚歌劇の素晴らしさに
ついて吹聴してくれることでしょう。
Hさんと歌劇場で別れ、私は車に乗り込むと一路、橿原市を目指しましたが、高速道
路をぶっ飛ばす間もずっと今日の公園の余韻が心の中を占め続け、私はつぶやくので
した。
嗚呼、愛しの宝塚歌劇団よ!
(舞台稽古風景)