何故四季によって調律は変化するのでしょうか
零下に近いときもある真冬の気温と35度前後が珍しくもない真夏の気温とでは当然、鋼鉄や銅線で作られている弦は
同じ状態を保つことはできません。
通常、鋼鉄線は温度が上がると長さが伸び、温度が下がると長さが縮みます。
弦の長さが伸びると音の高さは下がり(低くなり)、縮むと音の高さは上がり(高くなり)ます。
またピアノの弦はグランドピアノの形を思い浮かべられたらお判りのように弦の長さに差があり、低い方から高い方の鍵
盤になるにしたがって弦長は短くなっていきます。ピアノの大きさにもよりますが、最高音の弦と最低音の弦とでは約4倍
〜8倍の長さの違いがあります。
また、ピアノには響板という、弦の振動を増幅させる大きな反りをもたせた板が本体の底(アップライトピアノだったら裏側)
で駒棒という媒体を介して弦の圧力を支えているのですが、これが木ですから湿度の変化で膨張・伸縮を繰り返すので、
この要素も四季を通じて調律が変化するのに微妙かつ複雑な影響を与えているのです。
気温が変化して弦や響板が伸縮したときに低音部、中音部、高音部ではそれぞれ伸縮率が違う(音高の高くなったり低く
なったりする率が違う)ために同じようなズレ方をしないのです。
これはどういうことを意味するかというと、先にも述べた鍵盤中央部のF(ファの音)キーの音を例にとれば、温度がひどく
下がって中央部Fキーの弦が縮んでFの音が+4セント(※)高くなったとき、1オクターブ下のFキーの音は8セントもしくは
それ以上高くなる場合が普通である、つまりこのFとFをオクターブで同時に打鍵すると両方のキーのズレは4セント以上あ
るため、秒間1個のうなりを生じるということです。
秒間1個のうなりとは一秒間にうわ〜ん、といううなりが生じることであり、これが12セントもズレたときは秒間にわんわん
わんと三つのうなりが生じるということなのです。
耳の良い人や音感の優れた方でしたらこの秒間3個のうなりは無視できない汚らしさを感じるはずです。
四季を通じて弦や響板は伸縮を繰り返し、それによって調律も狂っていくのです。
※セント/cent.: 楽器の調律(チューニング)するときなどに使われる音の高さの単位で、1セントは半音の1/100