『大英博物館の至宝』展    by リワキーノ

くららさんの便りを読んで上記展が開催されていることを知りました。
土日は大変混雑するとのことですので、2月20日(金)に家内と二人で観に行ってきました。
以下、独断と偏見で選んだ展示作品の紹介です。福岡で4月に開催されるときの参考にし
ていただけたら有難いです。

「ロゼッタ・ストーン」
クララさんの記述でレプリカということは知っていたのですが、ガラスケース越しに見るか
らでしょうか、プリント紙に印刷されたみたいな感じで、彫字の凹凸さも感じられず、迫力
に欠けました。
「アッシュールナシルパル2世像」と「瀕死のライオン」
旧約聖書で馴染み深いアッシリアの時代の彫刻です。
特に「瀕死のライオン」を間近に見たのは感激でした。

「イリイの墓の彩色浮彫」
エジプト古代王朝時代のものですが、紀元前2575〜2450年という年代に圧倒されます。
レリーフの表面もきれいですし、彩色はそんな4500年も前の大昔のものという感じがしな
いくらい鮮明なのです。

「テーベの女性神官のミイラボード」
このミイラボードの発掘に関係した人が次々に横死したという呪いの伝説で有名なミイラ
ボードだそうで、別名「不幸なミイラ」と呼ばれているそうです。
解説書には、このミイラボードの超自然的な力については根拠なし、と記されてます。

「女性のミイラ」
発掘以来、このミイラの包みが取り外されたことは一度も無いそうですが、X線調査で成
人女性のものであることが確認されているとのこと。それによると、口は大きく開かれ、眼
窩には義眼が入っているとか。
今は自動警備だからいいようなもの、夜中にこんなミイラが置いてあるところを巡回しなけ
ればならなかったら、警備員もたまったものじゃないですね。
映画「おしゃれ泥棒」で博物館内を警備員が巡回するシーンを連想してしまいました。くわ
ばら、くわばら

「コリント式ヘルメット」
紀元前460年頃のものだそうで、ペルシャ戦争とペルポネソス戦争とのちょうど間の時代
になります。
テルモピュレイの戦いやサラミスの海戦が480年ですから、ほぼ同時代のもの。
レオニダス王やテミストクレスと同じころに生きた人のかぶったもの、と思いながら見られ
ると感慨深いものがあるのではないでしょうか。

「ホメロスの胸像」
叙事詩「イーリアス」と「オデュッセイア」の作者としてあまりにも有名な人ですが、詳しい伝
記というのはほとんど判っていないようです。この胸像はローマ時代のもの。

「ハドリアヌス帝の胸像」と「アンティノウスの胸像」
今回の展示物の中に入っていることを私が一番ラッキーに思ったのが、この二つの胸像
でした。
ハドリアヌス帝はいわゆるローマ五賢帝の一人ですが、思索家で統治者としても際立って
優れた人でありながら夢想家で耽美主義者でもあるという複雑な性格を持った謎の多い
皇帝です。
フランスの女流作家マルグリット・ユルスナールの伝記小説「ハドリアヌス帝の回想」を若
き日に読んで深い感銘を受けて以来、私はこのハドリアヌス帝に深く興味を持つようにな
りました。
同性愛者としても有名であり、右側のアンティノウスはハドリアヌスが最も愛した寵童で、
エジプトでアンティノウスが事故で溺死したとき、ハドリアヌスはひどく落胆して、その気持
を癒すかのようにアンティノウスの神格化を宣言したりします。
同じく五賢帝の一人で、「自省録」の著書で有名なマルクス・アウレリウス帝は、プラトンが
理想とする哲人皇帝が実現した唯一の例と言われるストア派の哲学者ですが、このハド
リアヌスの指名によって皇帝になった人です。
アウレリウス帝は「自省録」の中で養父アントニヌス・ピウス帝をはじめ、色々な人への感
謝の思いを記しているのですが、何故か、養祖父のハドリアヌス帝のことは一言も触れて
おりません。

「モルヴァの埋納品」
イギリスのコンウォールで発掘されたようですが、その年代が紀元前1000〜750というの
ですから驚きです。
芸術性が高いと言われるケルト民族がブリテンにやってきたのは紀元前6〜7世紀だそう
ですが、それより前の先住民族が既にこのような優美で垢抜けした金の腕輪なんかを作
っていたのです。
ストーンヘンジを作った人たちなのでしょうかね。
「バグソープの剣の鞘」
紀元前100年前のもの。抽象的な渦巻文様はケルト美術独特のものだそうです。

「コルドバの遺宝」
同じく紀元前100年前にスペインのコルドバ郊外で発掘された銀細工の品です。
ティファニーの店に展示されている商品と言っても不思議ではないほどのモダンさを持っ
ているとは思われませんでしょうか。

「メランコリア」
絵画も色々展示されておりましたが、私の心を掴んだのはこのアルブレヒト・デューラーの
作品。
亡父所蔵の美術全集に載っていたこの絵に幼少の私は不可思議さに意味も判らないま
ま、魅了されていたのですが、現物を目の前にしたとき、心が震えたものでした。
落ちゆく遠くの星の輝きにアンニュイな色を潜ませる天使のまなざし。李商隠の漢詩「碧
城三首・其の一」を初めて知ったとき、ある一節にこのデューラーの画像を連想させられ
ました。

「馬上のムハンマド・シャー帝」
18世紀のムガール帝国時代のインドの絵画ですが、このネット上に掲載した画像からは
絶対に窺い知ることのできない細密なきめ細かさと美しさを持った絵画です。是非、至近
距離からご覧になることをお薦めいたします。

大英博物館所蔵の美術品。
その大部分が、大英帝国が世界中から略奪に近い状況下で集めてきたコレクションと言
っても言い過ぎではないような履歴を持つのですが、それが無かったなら散逸、損傷に遭
ったことも大いに有り得た、つまり、人類の至宝の保存には貢献した面がある、というのも
事実のように思います。
これはルーブル美術館についても言えることではないでしょうか。
くららさんの書き込みのおかげでこの貴重な展覧会のことを知り、見ることができたこと、
くららさんに深く感謝いたします。