[ML:06323] Re:女性の割礼
Date: Fri, 28 Apr 2000 16:32:58 +0900
From: 奥深志

奥深志です。
 インドからのお便り、いつも楽しく拝見しています。
[["エミータ<GAF11621@nifty.ne.jp>"]]さん
> なぜこんなことが行なわれるのか?ごくおおざっぱに言ってしまえば、FGMの目的は
> 女性の性欲を奪い、思い通りの従順な女にするためでしょう。

 説明としては、とてもわかりやすいので、思わず納得してしまいそうですが、わかりやすい
説明は、とてもたくさんの重要なことを切り捨てているというのが、僕の経験則です。
 社会がある慣習を維持するためには、男だけの論理では無理でしょう。なんらかの形で
、その慣習の維持に女が関わっていると見るのが、自然だと思います。エミータさんの報
告でも、施術は女性がやってるわけで、泣き叫んでいやがる被術者を説得するのも、彼女
たちの役割じゃなんでしょうか。
 男と女の対立と、加害被害の関係図のなかにこの問題を位置づけると、人間の厚みが
見えて来なくなるように思うのですが。

> 自分の文化のものさしで他の文化を野蛮だとか残酷だと決めつけるのは傲慢だ、野蛮
> だからやめなさいというのはおせっかいだ、といういおり爺さんや奥深志さんのご意見は
> もっともですが、ことFGMに関しては、男性の割礼とは比べ物にならないほど危険な
> ことが行なわれており、これはとても「文化」というものではないと思います。
> 日本でもFGMに反対して活動しているグループがありますが、私の知っているグルー>

プの人たちは非常に慎重に、FGMに反対して立ち上がったアフリカの女性たちのグル
> ープを支援する、という形で活動していました。

 見るに見かねてと言うのが、異文化への介入の第一歩でしょう。人道主義も帝国主義も
国連PKOもその意味では同じだと思います。こちらは同じではないと言っても、介入される
側は同じです。最近のとても明快な例が、ソマリアでもあったし、コソボでもありましたよね


 逆な立場で言えば、鯨を食う習慣を地球環境保護の立場から糾弾されると、昔からそう
してることにくちばし入れるんじゃねぇ、ってなりますよね。地球がいまにも滅びるんじゃな
いかと恐れおののく人々には、鯨なんか喰う習慣は、それこそ放ってはおけない重大事で
す。
 女性の割礼自体は、たしかに、とても残酷な慣習だと思います。ただ、そのことが存在す
る理由を、単純に男が女を支配するための手段と決めつけ、禁止させることが唯一の解
決だとする考え方は、人間がその歴史を通じて行ってきた一連の似たような慣習の存在
の意義を考慮できていないと思うのです。なぜ、ひとはそんなことをするのか、もちろん僕
にはわかりません。ただ、ずっとひとはやめないし、忘れられていた場所にでも突然浮上
するこれらの行為は、人間の存在の根元に関わっているように思えるのです。
奥深志 

[ML:06324] Re:  女性の割礼
Date: Fri, 28 Apr 2000 20:03:50 +0900
From: エミータ

奥深志様
メールありがとうございました。
(エミータwrote:)
> > なぜこんなことが行なわれるのか?ごくおおざっぱに言ってしまえば、FGMの目的
>>は女性の性欲を奪い、思い通りの従順な女にするためでしょう。

(奥深志さんwrote:)
>  説明としては、とてもわかりやすいので、思わず納得してしまいそう
> ですが、わかりやすい説明は、とてもたくさんの重要なことを切り捨て
> ているというのが、僕の経験則です。

はい。とても多くのことを切り捨てた乱暴な説明だったことは自覚しています。

>  社会がある慣習を維持するためには、男だけの論理では無理でしょう。
> なんらかの形で、その慣習の維持に女が関わっていると見るのが、自然
> だと思います。エミータさんの報告でも、施術は女性がやってるわけで、泣
> き叫んでいやがる被術者を説得するのも、彼女たちの役割じゃなんでし
> ょうか。
>  男と女の対立と、加害被害の関係図のなかにこの問題を位置づけると、
> 人間の厚みが見えて来なくなるように思うのですが。

男がいつも悪者、女はいつも被害者、という気は毛頭ありません。
実際この性器切除も、施術で生計をたてているのも女だし、自分が痛い思いをしたにもか
かわらず、幼い娘が将来村八分になったり結婚できなくなることを怖れて施術を受けさせ
るのも母親なのですから。
しかし、FGMが行なわれているアフリカの社会にしろ、日本社会にしろ、「女の性が解放さ
れることを怖れ、それを押さえつけ、管理しようとする圧力」が存在するのは確かだと思い
ます。男の性に対する圧力はずっと低い。
日本で、副作用がほとんど無い低容量ピルの認可に何年もかかる一方で、安全性のはっ
きりしないバイアグラがあっという間に認可されたことなどにも、同じ圧力が働いているの
ではないかと思います。
(もちろん、物事にはいろんな側面があり、これだけが理由だという気はありません。)

>  見るに見かねてと言うのが、異文化への介入の第一歩でしょう。人道
> 主義も帝国主義も国連PKOもその意味では同じだと思います。こちらは
> 同じではないと言っても、介入される側は同じです。最近のとても明快
> な例が、ソマリアでもあったし、コソボでもありましたよね。
>
>  逆な立場で言えば、鯨を食う習慣を地球環境保護の立場から糾弾され
> ると、昔からそうしてることにくちばし入れるんじゃねぇ、ってなりま
> すよね。地球がいまにも滅びるんじゃないかと恐れおののく人々には、
> 鯨なんか喰う習慣は、それこそ放ってはおけない重大事です。

「異文化への“介入”」はすべて悪なのでしょうか...。
「異文化」の中にも老若男女いろいろな人がいて、それぞれの利害は異なると思います。

介入を嫌がっている人は誰なのか、必要としている人は誰なのかによってとるべき行動は
違ってくるのではないでしょうか。

>  女性の割礼自体は、たしかに、とても残酷な慣習だと思います。ただ、
> そのことが存在する理由を、単純に男が女を支配するための手段と決め
> つけ、禁止させることが唯一の解決だとする考え方は、人間がその歴史
> を通じて行ってきた一連の似たような慣習の存在の意義を考慮できてい
> ないと思うのです。なぜ、ひとはそんなことをするのか、もちろん僕に
> はわかりません。ただ、ずっとひとはやめないし、忘れられていた場所
> にでも突然浮上するこれらの行為は、人間の存在の根元に関わっている
> ように思えるのです。

外からの圧力で「禁止させる」ことなどできはしないし、似たようなことはすぐどこかでまた
起こるのでしょう。
でも、実際に今苦しんでいる人たちを目の当たりにしてほうっておくことができず、何かしよ
うとする、というのも人間が歴史を通じてずっと行なってきたことだと思います。
エミータ

[ML:06325] Re: 女性の割礼
Date: Sat, 29 Apr 2000 00:37:50 +0900
From: 奥深志


奥深志です。
[["エミータ<GAF11621@nifty.ne.jp>"]]さん

> 外からの圧力で「禁止させる」ことなどできはしないし、似たようなことは
> すぐどこかでまた起こるのでしょう。
> でも、実際に今苦しんでいる人たちを目の当たりにしてほうっておくことが
> できず、何かしようとする、というのも人間が歴史を通じてずっと行なって
> きたことだと思います。

 それもまさしく、その通りだと思います。内側からわき上がってくるものを誰も、そしてどの
ような権力も抑えることは出来ないと思います。
 助けを求める傷ついた人がいれば、助けるほかないのは僕だって同じです。でも、求め
もないところへ乗り込んで、表からは決して見えない複雑な関係性のうえに成り立つ慣習
を、自分たちの感情や倫理を基準に禁止を迫ることは、今までに何度も繰りかえされた過
ちですよね。
 放っておくって、とても難しい接し方ですね。
奥深志 

Subject: [ML:06326] 明日からフィリピン。
Date: Sat, 29 Apr 2000 03:59:09 +0900
From: マホ

久しぶりに自宅のメールを開いたら、何と割礼について、リワさんといおり爺おじさま、そう
こうしてたら今度はエミータさんと奥深志さん!の刺激的かつ緊張感あふれるやりとりが目
に入り、どきどきしてきました。また眠れなくなりそう....
でも、ここまで人生観と世界観を異にする人間が、しかも「割礼」について激論を交わすチ
ャンネルなんてきっと世界中のMLの中でもアルバトロスぐらいでしょう。本当にすごい。
個人的には、エミータさんと奥深志さんが議論されていた、「異文化への介入は悪か?」と
いうのはとても関心のあるテーマです。
奥深志さんが書かれている、「放っておくって難しい」という話、あれこれ考えさせられまし
た。でも、一方で、これだけ国境を超えて情報が飛び交う中、「異文化」の中の誰かが、「
自分はこんな生は嫌だ!」と社会の慣習の外に出て思考と実践を開始する可能性は誰に
も止められないのでしょうか。
などと..ああでもないこうでもないと書いたり消したりしていたら1時間たってしまいました... 
ショック!書きたいことだけ書いて無責任ですが、ええと、実は、メールを書こうと思ったの
は、明日から9日間、フィリピンに行ってきます。
 以前MLでもご案内しましたバナハウ山です!ハナイさん、アケミさん、M.チエさん、
カツラさん、妹のマスミ、妹の友人のコイケさん、の総勢7名で行ってきます。、
私のガイドでは心もとないと、いろいろフィリピン人の友人に相談した結果、フィリピン人の
教師&生徒向けにバナハウ山の文化と歴史を紹介するアウトリーチプログラムを実践して
いるLakbay KalikasanというNGOに巡礼地への案内、現地コミュニティへの訪問アレンジ、
登山のサポートなどなどすべてをお願いすることになりました。し・か・も、ハナイさんは裸足
ではないけど行者の白装束で、青岸渡寺の高木亮英さんから託された碑伝をもって、のバ
ナハウ訪問です。先方にもいろいろこちらの関心を説明したりしてたら「JapaneseMysticism」
についてのディスカッショの時間まで設けられています。
これまで私は友人と、面白いから登ってみようってなノリで、自分たちだけでガイドなしでの
登山でしたが、今回いろいろ調べてみると「裁きの洞窟」とか、「キリストが縛られムチ打た
れた岩」(写真で見る限りホントに縄の跡がついてる)とか、「下りると7年間の罪が償われ
る井戸」とか、カソリックの巡礼地として、それぞれの場所に意味や神話があることがわか
りました。
シルビアさんとも連絡がついて、とりあえずあさっての午前中に会い、その後も、1日お兄
さんのお誕生日パーティだという彼女ですが、できる限り私たちの日程に同行してもらえそ
うです。
面白そうでしょう?3泊4日の山で、しかもマニラへの帰り道には海にも寄ってシュノーケリ
ングする予定です。帰ってきたら、次回もっと沢山の方が行きたくなるよう、皆でご報告さ
せていただきますので、楽しみにしていて下さい。最近生まれた孫がかわいくて仕方がな
い、と子育てに熱心なシルビアさんの近況もご報告します。
太地ツアー、奥駈のほうも、ご盛会と参加される皆様の無事をお祈りしています。
マホ

Subject: [ML:06332] 女性の割礼
Date: Sun, 30 Apr 2000 20:23:49 +0900
From: Naoko

菜穂子です。
この1週間ほど仕事が超忙しく、メールのチェックを怠っていたら、その間に女性の割礼に
関する議論が活発に行われていたんですね。
この話をする前に、全然関係ないですけど。なんと先の水曜日、家の鍵を同僚に預けたカ
バンの中に忘れ、取りに帰るにももう電車もなく、自宅のすぐそばのホテルに泊まるはめに。
もうひとつ。遅くなりましたけど、「ミュージック&トークフェア」 IN 三裕の館、とても楽しかっ
たです。ありがとうございました。
さて、女性の割礼について、話をぶり返すことになるとは思いつつ、皆さんの意見を聞いて
いて思ったことを書きます。
リワキーノさん、私がいっていた話題になった本とは『ファウジアの叫び』です。藤本さんが
おっしゃっていたように。それから、アリス・ウォーカーの『戦士の刻印?女性性器切除の
真実』は数年前に大阪の天満橋にあるドーン・センターで見たものです。
女性の割礼が切腹、小指詰め、入れ墨、ピアスが同位とは思えません。切腹、小指詰め、
入れ墨、ピアスは性的ではないから。性に関わる問題が、切腹ほど単純だとは思わないで
す。リワキーノさんが「私が女性の割礼に感じる嫌悪感は切腹や指つめなどに感じるもの
とは違います」というのも、そうじゃないですか?
 「習慣と因習は、人間の根元にかかわる事で、知識教育では改善されません」といおり爺
さんがおっしゃるのはそうかもしれません。ならば、間違った習慣や因習は知識教育を超
えたところで改善していけばいいと思います。
私が働くNGOでは、ベトナムで、3歳児以下の子どもの栄養改善事業を実施しています。
3歳までに子どもは充分に成長していないと、その後の成長に大きな影響を与えることは
日本でもよく言われますが(といっても、途上国とは違った側面からですが)、事業では、ま
ず地域の子どもたちの体重測定を実施し、体重の軽重によって、栄養状態を調べます。
中度・重度の栄養不良と診断された子どもたちには、2週間、集中的に給食センターに来
てもらい、栄養価の高い食事を与えます。
その食材ですが、こちら側が準備したものだけではありません。必ず家族の者(たいてい
母親)が連れてくるわけですが、必ず食材も持参させます。
ある地域で事業を実施する前に、私たちは(とっても、日本人ではなく、現地の職員やパー
トナーですが)、各世帯をまわりインタビューをします。そこで明らかにするのは、同程度の
経済状態の中でも、比較的子どもを健康に育てている家庭を探しだし、何を食べさせてい
るかを探し出すことです。
この結果、たとえば、大半の家庭では幼い子どもに食べさせていない、沢や田んぼで獲れ
るタニシや小魚を食べさせていたりすることがわかってきます。これはお金がなくても、入
手できる食材です。
2週間の集中的な給食では、単に幼児に食事を与えるだけではなく、身近に手に入る食材
を教え、それを毎回持参するよう指導し、NGO側が準備した食材とともに調理をします。2
週間の給食が過ぎても、家庭でそれらの食材を利用して料理するよう指導もします。
2週間の給食は、また2週間後に再開され、同じことを繰り返します。そして3カ月後、幼児
の体重を再度量り、基準値まで回復した子どもは、この事業から卒業します。
いまデータは出せませんが、事業地での3歳以下の子どもの栄養不良児は格段に減りま
すし、それは新しく生まれてくる子どもたちも含みますので、すなわち、2子、3子は栄養不
良にはなっていないということを示しています。新しく生まれてきた赤ちゃんには、以前は与
えていなかった食材を与え、栄養状態を良で育てているということになります。
この事業に意義はいろいろありますが、今回のテーマとの関連でいえば、家族の行動変
化を起こすことを目的としています。習慣(子どもには沢で獲れた魚を食べさせない、とい
った)を変えさせることを目的にしています。初乳ってご存じですか?
赤ちゃんが生まれたばっかりのときの最初のお母さんのお乳で、その後のお乳とは色が
全然違うんだそうです。でも、栄養価が高く、また細菌からの感染などを防ぐ力を持ってお
り、生まれたばっかりの赤ちゃんには不可欠です。でも、地域によっては、色が違うために
「汚い」といって飲ませない地域があります。
私たちがアジアで実施する事業の中で、ベトナムの栄養改善事業も含め、初乳に関する
指導も行っています。「汚い」から飲ませないという正しくない慣習を改善するためです。
女性の割礼に戻りますが、これで得をする人はいるんですか? 傷つく人がいるのみです
。文化の壁はありますが、たとえば捕鯨の問題より、その問題のアクターの関係性がとっ
ても単純のように思います。やはり明らかに直接傷つけられる人がいる慣習は改善される
べきだと思います。誰がどのように、という段階に進むときに、文化の壁が出てくるわけで
すが、でも、これって文化の問題かな? という気がする。やはり男と女の壁でしょうか?

菜穂子