私の好きな漢詩(3)

王維は自然詩を確立した詩人と言われております。彼の有名な五言絶句の「鹿柴(ろくさい)」や
「竹里館」は、深い竹林や樹林の中で自然の情趣を味わう人間の姿を実に淡々と描いております。
その王維が友人の送別のために書いた、「渭城の朝雨、軽塵をうるおし」で始まる七言絶句「送元
二使安西」は古来、もっとも有名な送別の詩ではないでしょうか。
現代の中国でも同僚や友人の送別のときに頻繁に歌われる漢詩だそうで、特に最後の句「西の
かた、陽関を出ず
れば故人なからん」は三度繰り返され、これを「陽関三畳」と言うそうです。
私は、中学生のときにこの詩を知って以来好きになり、後に暗誦した漢詩の第一号でした。
転勤する会社の先輩や同僚の送別の席でこの詩を朗読したら、意外と好評を得るかも知れません。
私は、今までにいくつかの送別会でこの詩を朗読しましたが、談話室仲間の‘よっころりんさん’が
中国で日本語を教える教職に就くため4年前に中国に行くときの送別の席で詠み、彼女に中国音
で詠んでもらったときのことが一番印象深く残っております。

送元二使安西 (王維)

渭城朝雨[ミ邑]軽塵
客舎青青柳色新
勸君更尽一杯酒
西出陽関無故人


※[ミ邑]はさんずい偏と邑の組み合わせの漢字

・詠み
元二が安西に使いするのを送る

渭城(いじょう)の朝雨、軽塵(けいじん)を[ミ邑](うる)おす
客舎青々(きゃくしゃせいせい)柳色(りゅうしょく)新たなり
君に勸(すす)む、更に尽くせ、一杯の酒
西のかた、陽関を出ずれば故人なからん

・注
渭城:長安の西北の咸陽を指す。
客舎:旅館
陽関:関所の名。現在の甘粛省敦煌県の西南。玉門関の陽(みなみ)にあったのでこの名がある。
故人:古くからの友人


玉門関

陽関の狼煙台跡
※写真は’ハナパパ’さんの「中国旅行記」(よいよい会会員便り掲載2003.11.3)より拝借

・訳
渭城のまちに降る朝の雨は、軽やかな黄土の塵をしっとりとぬらす。
旅館のかたわら、青々と茂る柳の木々は雨に洗われて、目にしみるような新鮮さだ。
さあ、さらに飲みほしてくれたまえ、もう一杯の酒を。
西のかた遠く陽関を越えてしまったなら、もう共に酒を酌む親しい友もいないだろうから。

朝の宴とは、と違和感を感じられるかも知れませんが、広大な中国ではいったん別れた後の再会
は難しかったようで、離別の宴は夜を徹して(ときには何日も)飲み、別れを惜しんだそうです。この
詩は宴の後に朝を迎えたときに詠まれたのでしょう。