01111 ”killing me softly with his song ” 投稿者:快盗ルパンX・P 投稿日: 8月11日(水)23時20分55秒
通信手段は無線通信による交話やFax、手旗信号、旗流信号あるいは光や音によるモールス信号で行われ
ます。情報戦争の今日、電子戦による傍受を避けるため、原始的と思われがちな手旗信号、旗流信号や光
モールス信号がタスク・グループ内では多用されます。
港内でマストのてっぺんからツリー状に色々の旗が連なって飾ってあるのを見かけます。満艦飾です。それに
使われるのが旗流信号の旗です。ABCの英字旗、1、2、3の数字旗等から構成され、その組み合わせによ
り情報を表します。“U・W”は『安全なる航海を祈ります。』と言った具合に。これは国際信号で船舶万国共通
です。“O(オスカー)”は、ちなみに「船から人が落ちた」を現します。
航海中に“溺者救助訓練”なるモノが行われます。落ちるところを目撃され“すわっ”と、いう状況で訓練が行
われるのです。大海に落ちたら大概は見つけることはできません。数年前の遠洋航海でも、フレッシュエンス
ンがインド洋で海に落ち、数日捜索されましたが発見できませんでした。遭難信号を発し、かつ救命ボートで
漂流している状態でさえ、発見されれば幸運なのです。
艦中央部の見張りが、木製人形ウッディ君が上甲板から海に落ちるのを見ました。
“艦橋・・中部見張り 人が落ちた右”
艦橋に報告されると、ブリッジ当直士官がすぐさま号令を発します。
「面舵いっぱぁ〜い!・両舷前進きょおーそーく!」
羅針盤やらレーダー海図台をうろちょろ動き回っていた副直士官が
「マイク入れます。“訓練 人が落ちた右。溺者救助配置につけ”」
の進言に当直士官は艦橋右張り出しの羅針盤に向かいながら
「マイク入れい!」
と指示します。マイクで溺者救助が発動されるや否や旗流信号
“Oオスカー”がマストに勢いよく揚げられます。
と、同時に右舷の内火艇に乗員が乗り込み海面上にスウーッと降ろされます。
甲板にはライフ銃を持った警戒員が鮫の来襲に備えます。
艦は右に怪盗否、回頭し始め艫(とも:艦尾)を左に振ります。
これで溺者をスクリューやウエーキに巻き込むのを防ぎます。
ウッディ君波間に見え隠れしてます。
当直士官は元の針路からの回転角度に注意し、風向きを見、溺者の位置を確認しながら艦の速度を
“両舷前進半速、微速、停止”
と落としていき溺者を艦の舳先にかかった所で
“両舷後進はんそーく“
と、後進の号令をかけ、惰性による艦の行き脚を止めにかかります。
ウッディ君は艦から10m余りも風下側にぷかぷか助けを待っていますが、艦の中央部くらいに差し掛かると
風下に艦がおとされ5mぐらいに接近してくるのです。
このエンスンX・Pが当直士官役をやるときにはね。
“溺者が救助された 訓練溺者救助用具納め”
講釈が長くなりましたが、2番目の寄港地“サンディエゴ”外港に錨を降ろした“かとり”と“きくづき”は翌日の
入港に備え艦の化粧直しを始めます。
「最初はプラチナブロンド・・・。」なぞと、訳のわからないことをつぶやきルンルン気分でカンカン虫と称するペ
イント剥がしのエンスンX・Pと其の同期が作業してるデッキに練艦隊司令部から艦内放送が響き渡るのであ
ります。
“指定作業 実習幹部 訓練、派遣防火隊用〜意 想定僚艦火災、炎上中”
“かとり”でも同じような指令が下っています。
どちらのエンスンが先に放水を始めるか競争です。
可搬ポンプ、防火服、防煙マスク等の装備品を抱え、おまけに新撰組のような『派遣防火隊』と、時代がかった
旗を掲げ、舷梯(ラッタル)を駆けおり、内火艇に乗り組みます。
2艦並んだら競争です。旧海軍からそう決まっているのです。
我が艇は既に、ピピピの前進全速。火の玉エンジン全開です
内火艇の乗員は、もやい作業する見張り、エンジン掛の機関員それに舵を握って操船する艇長の3人です。
艇長は号笛を口にくわえ、前進微速は1回ピッと吹き、半速は2回ピッピッそして全速は3回ピッピッピッと景気
良く吹くのです。
きくづきの艫をかわそうとした其のときです。
足元に置かれた可搬ポンプを挟んで私の反対側で異変が起ころうとしておりました。
舵を右に取ったため、艇は最初右に傾きそれから左に遠心力で傾きます。
其の瞬間乱雑に置いていた海水を可搬ポンプで汲み上げる際ごみなどを吸い込まないように取水ホースの先
につける“網かご”が艇からこぼれ落ちそうになったのでした。
対面に席していた”濱ちゃん”咄嗟に網かごの縁を掴んだのですが、網かごが海面に漬かってしまったらしく、
視界からあっという間に消えてしまいました。
艇長のアサノ君目指すは”敵艦かとり丸” ようそろ(目標) かとり で気づきません。
“ アサノ 濱が落ちたぞ ! 溺者救助 溺者救助 ! “
アサノ艇長 ピピヒ゜前進全速で 取り舵一杯の Uターン
網かご掴んだ濱ちゃん “ようそろ” でまっしぐらに突き進むのでありました。
艇が濱ちゃんに向首すると 何を思ったのか濱ちゃん反対向いて逃げ始めるのです。
艇長のアサノ君逃がしてはなるものかと全速力で追い掛け回そうとするのです。
気がつくとすぐそばに、ほんまもんの本艦の内火艇が近づき
「溺者はこちらで救助します。派遣防火頑張って下さい。」
と、アシストしてくれました。
濱ちゃんが落ちた瞬間”きくづき”で艦内放送が流てるのが聞こえ、目の端には、内火艇揚収用のラビットのロ
ープを伝って乗員が内火艇に乗り込もうとしているのが映ってました。我が艇が回頭し、濱ちゃんに向首した時
は、既に溺者の近くに進出しておりました。
アサノ艇長 ピピヒ゜前進全速のまま減速を一度もしないまま”かとり”に到達したのですが、
練艦隊司令部から艦内放送が響き渡ったのであります。
“状況中止! 訓練派遣防火隊用具収め”
が下令されてしまったのです。
きくづきに戻り用具を片付け濱ちゃんを探すと 医務室に居ました。
照れくさそうにしながら 「わしな かごが落ちそうになったから 海に落としちゃいけんと思って掴んだんよ。そし
たらわしごと一緒にぽちゃんしてしもた。」岡山弁丸出しでお話するのです。
“アサノが助けに行ったのに何で逃げた。”
「あほ言え、わしに向かって突っ込んでくるんじゃ。わしゃあ殺されるかとおもーたで」
”何で医務室にいるんだよ”と、言うと
「一応受診しろっていわれ、シャワー浴びて、冷えんようにって言われてウィスキー飲んだとこや。」
” そんで ? ”
「そんでて いま事故報告書かされトンじゃ」
医務室のラヂオからは
”kill me softly 〜 kill me softly〜 with his song ” ♪
と意味不明の歌声が聞こえてくるのでありました。