「尻馬に乗るな」 山田孝男

 仮に私がJR西日本の社員だったとして、事故を知りつつボウリング大会に行くことは
なかったと思う。その程度の分別はある。しかし、事故列車の後部に乗り合わせていた
として、最前線へ突進し、的確な救助活動ができたかといえば自信がない。JR西日本
のたるみを疑う余地はないが、津波のようなJRたたきをいぶかり、「汝(なんじ)らのうち
罪なき者、石を擲(なげう)て」という新約聖書の一節を思う人もいるだろう。

 たまたま見たテレビのニュースショーで、キャスターが「JR西がお見舞いに紅白の祝儀
袋を使ったそうです」と声を潜め、居並ぶコメンテーターが口々に非常識をとがめたところ、
視聴者から「お見舞いに紅白の結び切りはおかしくない」という電話が入り、キャスター
がフォローに苦労していたのは何とも気の毒だった。

 報道陣の監視の下でJR社長が土下座し、不祥事が暴かれ、幹部が謝罪を繰り返す。
遺族の悲嘆を軽く見るつもりはないが、「劇場化」する事故報道の中で感情を押し殺し、
サンドバッグ状態に耐えるJR幹部の映像を見て「これがウチの会社だったら……」と身
震いした管理職も多いのではないか。

 国鉄改革とは一体何だったのかと思わせるJR西日本の退廃を厳しく問うのは当然だ。
しかし、糾弾調も過ぎればJRを萎縮(いしゅく)させ、例の「日勤教育」同様、効果が疑わ
しい、とならないか。全国でレールの置き石が相次いでいるという無責任で浮ついた世相
だ。JR西日本の運転士をけったり、駅員をなぐった者もいるという。尻馬に乗るなと言いた
い。(編集局)

毎日新聞 2005年5月9日 0時04分