”KYOTO PIANO ART”の七夕コンサート 2005.07.03
前回はジャズのライブでしたが、今回は純粋なクラシックのピアノコンサートです。
ピアノ独奏は北場真澄さん。
桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部同研究科を経て2000年10月より
プラハ芸術アカデミー(AMU)留学中。
夏休みを利用して帰国したのを新井さんに勧められて今日のコンサートに出演された
のでした。
北場さんの人となり、音楽観などについては彼女が昨年の秋まで定期的に発信してい
た「ヴルタヴァのほとりから」(下記URL)をご覧になるとよく解ります。是非ご覧くだ
さい。
※vol.2以下の見出しはページの一番下段menu欄に表示されてます
http://www.iga-younet.co.jp/honshi/teiban/world2/vol1/index.html
今日のプログラムは
J.Sバッハ 前奏曲とフーガ ヘ短調BWV857(平均律クラヴィーア曲集より)
ベートーヴェン ピアノソナタ第30番 ホ長調op.109
ヤナーチェック ピアノソナタ変ホ短調 ”1905年10月1日、街頭にて”
スクリャービン ピアノソナタ第9番 ”黒ミサ”op.68
ショパン ピアノソナタ第2番 変ロ短調 op.35
北場さんの演奏は一言で言えば逍遙迫らぬ、といった言葉がぴったりの、神経過敏と
かいった類のものからはおよそ遠い、大らかな演奏です。
それが演奏スタイルにもよく現れており、ご本人は出来具合に不満を抱かれたようです
が、ショパンのソナタ2番3楽章の有名な葬送行進曲は北場さんの目をつぶって瞑想す
るように弾く演奏姿が素晴らしく、徐々に徐々に葬送の音楽のクライマックスに聞き手を
誘っていくという雰囲気でした。
また、初めて聴くヤナーチェックのソナタは曲も素晴らしいのですが、ダイナミックさと繊
細さを併せ持った北場さんの演奏は聴く者に知らないうちに忘我の境地にいざなうもの
でした。
ピアノは1930製スタインウエイ。後方はKYOTO PIANO ARTのオーナー新井さん。
演奏会が終わって挨拶をされる北場さんの気取らない様子は本当に好感のもてるものでした。
お母様と一緒に。
コンサートの後に演奏家と飲み物を飲みながら親しくお話ができるのがサロンコンサ
ートの良いところでして、私は彼女と演奏を聴きに来られていた彼女のお母様から色
々な打ち明け話をお聞きできたのでした。
お母様がバレエが大好きだったことから、3才から小学生の間はバレエを主にやって
いたそうで、ピアノは小学校5年生のころに一応ハイドンとかモーツァルトのソナタが
弾けるという程度の、言わば、ちゃんとした音楽大学のピアノ科に進むにはいささか手
遅れの進度具合でしたが、北場さんはピアニストの道を志すや、名門桐朋高校音楽部
から桐朋学園音楽大学に進んだのでした。
そして驚くのが桐朋学園大学を卒業後、同学園の研究科(※)に在学のままチェコのプ
ラハに留学し、最初外国人枠の中に入ってていたのが、2年にしてチェコ語をマスター
し、本科に編入したことでした。英語ならいざ知らず、チェコ語のように日本ではほとんど
馴染みのない言語を学んでそれで本科編入の試験に通るとは、北場さんは元々才能
に恵まれた女性だったようです。
そのあたりのことを彼女のメールをご本人の了解のもと紹介いたします。
リワ:お母様のお話では最初、聴講生待遇だったがチェコ語をマスターしたことから
本科生になれたこと、北場さんは戦後チェコの初めての本科生留学生となったと
いうことですが・・・・
北場:本科とは別に外国人枠があり、初めはそこにいました。本科に入る為には、実技
などの試験にパスする事はもちろんですが、外国人はチェコ語の試験に受から
なければなりません。本科の大学は5年制で、1年生から3年生までが学部、4年
5年が大学院にあたります。昔は1年生から5年生まではエスカレーター式に上が
れたのですが数年前から4年生(大学院)に上がる時に選抜試験が行われるよう
になりました。
(私の大学はチェコでは一番トップに位置する学校で少数精鋭なので、一年生に
入る時点でもピアノ科は一学年5人〜10人で、大学院に上がるところで半分に減
らされます。)この選抜試験(=大学院入試)は、初めは内部の3年生から上がっ
てきた人だけしか受ける事ができなかったのですが、4年ほど前からは外国人や
別の大学を卒業した人でも受けられるようになりました。それで私は、1年生から
入るのではなく、直接、院を受けて4年生に入ったのです。やはり本科はチェコの
トップクラスの子達が集まっているわけで外国人枠よりもレベルが高いし、外国人
にとってチェコ語は簡単な言語ではないので、なかなか厳しいらしく、ピアノ科の院
に外部から入ったのは私が初めてでした。でも、戦後初めての本科留学生という
わけではありません。例えば、ヴァイオリニストの黒沼ユリ子さんや石川静さんな
どがいらっしゃいます。ちなみに石川静先生には、プラハに留学する時にとてもお
世話になりました。(今もですが。)
リワ:チェコ語を学び始められたのはいつからですか。チェコ語の習得って難しかったので
はないですか。
北場:チェコ語はちゃんと勉強し始めたのは2年目からです。チェコ語はスラブ語なのでロ
シア語やポーランド語と同じグループに属します。ただでさえ複雑なスラブ語の中
でも、チェコ語の文法は一番難しいらしいです。格変化は7格(!)あり(ドイツ語は
4格)、冠詞、形容詞、名詞等全てが変化します。例えば名詞は、男性(生きてい
るもの)、男性(生きていないもの)、女性、中性の4種類があり、それぞれ、固い
子音で終わる場合と軟らかい子音で終わる場合とは別の変化をするので、単純に
計算しても、名詞だけで8パターン×7格の変化=56通りの変化をすることになり
ます。それに加えて例外が多く、数も単数、複数の区別以外に2、3、4、はそれぞ
れ別の変化をするし、動詞にも完了体、不完了体といって一つの動詞に二つの形
が存在するなど、チェコ語は覚えなくちゃいけないことが多すぎです。チェコ語の後
にドイツ語をやると、かなり単純に感じます。
最後の方で述べておられるように北場さんはドイツ語も勉強されています。
この秋からドレスデンにも留学されるからです。
その経緯は下記のメールをご覧ください。
北場:ドイツというのは、この秋からドレスデン国立音楽大学の大学院でペーター.レ
ーゼル先生と勉強できることになったからです。プラハの院も後一年残っている
ので、来年度は2つの学校を掛け持ちします。レーゼル先生のことはピアニスト
としてもちろん知っていたし、演奏もすごく好きだったのですが、教えていらっし
ゃる事は知りませんでした。でも、去年”プラハの春国際コンクール”を受けた時
に先生が審査員で来ていらして、お話できる機会があったので”すごくあなたの
ところで勉強したい”と言ってみたのです。もちろんダメもとで聞いてみたのです
が、先生は私の演奏をとても気に入ってくださっていて、あっさり話が決まり、先
月ドイツの入試を受けて無事に受かりました。そういうわけで、念願だったレー
ゼル先生のもとで勉強できる事になり、ものすごく楽しみにしています。
北場さんはプラハ芸術アカデミー大学院の先生たちにも演奏を褒められたそうで、北場
さんの演奏のどういうところがヨーロッパの音楽家に気に入られたのかは私には不明
ですが、恐らく、日本のピアニストを目指す子供たちのようにマシンのような技術偏重の
練習にあけくれることなく、小学校5年生までおおらかなレッスンをしてきたことも関係し
ているのではないかと推察するのです。
北場さんは今月23日にはプラハに戻られます。
彼女は最初頂戴した下記のメールで今後の予定を語っておられました。
このあと7月23日にプラハに戻って、8月初めにユーディン・インディーチのレッスンを受
ける予定です。ショパンのソナタかバラードを持っていこうと思っているのですが、すご
く楽しみです。他には、この夏の間に来年4月のプラハの大学院の卒業演奏会で弾く
予定のプログラムの譜読み&暗譜を終わらせて準備に掛らなくてはいけないし、Sme
tanaのピアノトリオにShumannのコンチェルト、9月の実技試験用のプログラムもさらって
おかなくてはいけないし、なかなか盛りだくさんです・・・。秋からドイツに住むとしたら部
屋探しもしなくてはならないし・・・。
ちなみに、卒業演奏会で弾くプログラムというのは、
Mozart:Sonata K.331 ”トルコ行進曲付”
Prokofiev:Sonata No.6
Schumann:交響的練習曲(遺作付)
です。
リワ:シューマンの交響的練習曲の(遺作付)ってどういう意味ですか?
北場:交響的練習曲はご存知ですよね?テーマと12のエチュード(またはバリエーショ
ン)からなっているのですが、その他に遺作として5つのバリエーションがあるの
です。
遺作なしで純粋にテーマと12のエチュードだけ弾く場合と、その間に遺作も混ぜ
て弾く場合とがあります。遺作付で弾く場合は、遺作を本編のどこにどういう順番
で入れるか、というのがまた難しいのですが・・・。遺作なしの方が構成が明確だ
し、全体が最後のバリエーション(Finale)に向かって求心的に作られているので
初めは遺作なしで弾くつもりでした。ただ、遺作の5曲もすごくきれいで捨てがた
くかなり悩んでいたところ、先生にぜひ遺作も勉強するようにと言われ、しかも遺
作付だと35分くらいになるので(遺作なしだと23分ぐらい)リサイタル後半のプロ
グラムとしてとても良い、ということで遺作も含めて弾く事にしました。
北場さんとお知り合いになれたのは本当にラッキーでした。
将来、彼女がどんな演奏家に育っていくか楽しみです。
コンサートの後、近くの焼き肉屋(!)で打ち上げ会です。
左隣は北場さんと桐朋学園音楽大学で同級生だったヤスイさんです。彼女はアメリカの
ボストンに留学したそうですが、そのボストンの音楽学生事情というのも興味深い話し
でしたが、それはここでは割愛いたします。
一緒に行ったマリさんは新井さんと再会するのは3年ぶりとか。
北場さんのお父様の写真もあるのですが、ハンサムなのにとてもシャイな方で写真を撮られ
るのでさえひどく恥ずかしがられますので掲載は控えさせてもらいます。
北場さんのご両親の話しをお聞きすると如何にお二人がおしどり夫婦であり、一人娘の北場
さんが掌中の玉のように育てられてこられたかがよく判ります。
北場さんはピアニストとしてだけでなく、人間としても大変魅力的な女性です。
(※)桐朋には院と研究科の二つのコースがあって、それぞれは別ものであり、研究科は
実技だけのコースなので修士号などのディプロムをもらうことはできないが、ピアノ科に
限って言えばレベルは院より高く、大学の卒業試験の点数で上位10名までが進む事が
でき、外部からの受験は受け付けていない。
弦楽器や管楽器、声楽などの他の科は研究科に行くのに特に制限はなく、希望すれば
ほとんど行く事ができる。
(リワキーノ注)
”KYOTO PIANO ART”
TEL&FAX:075-711-3923
〒606-0004 京都府京都市左京区岩倉北池田町65