パソコンデーターのバックアップに関する私の肝を冷やした経験談
(Capt. Senoh 宛の1996.01.04付け手紙より抜粋)

(前略)
 パソコンといえば貴兄にも電話で相談いたしましたが昨年十一月に、急にパソコンの調
子が悪くなり、一時は膨大なデーターが消失してしまうかと思った程の危機に直面いたし
ました。

 何しろ、一番大量のデーターが入力されているデーターベースソフトがおかしくなり、そ
の中でも最も大切な顧客データーファイルがまともに起動しないのですから、ことは急を
要するために、12月始めにパソコンに詳しい家内の友人に来宅してもらい、土曜日の朝
9時から翌日曜日の明け方4時半までかかって、何とか起動するようにしてもらったので
すが、途中、相談にいった販売元の上新電気のパソコン専門の店員にも「こんな不可解
な症状は初めて」と言わしめるほどの何に起因するのか(ハードディスク、パソコン本体、
アプリケーションソフトのいずれに問題あるのか)わからない状況の中での修覆作業が続
いたのです。

 途中、パソコン本体に問題ありと思って新しいパソコンを購入してきたり(従来のパソコ
ンを修理に出すと1ヶ月はかかるということで、千枚以上の年賀状をプリントアウトしなけ
ればならない状況下ではとても間に合わないためとりあえず従来のパソコンを修理に出
す間使用するため)、予備のハードディスク(500メガ)を購入したりして、色々やったので
すが、一番ショックだったのはバックアップにとっておいたフロッピーディスクからの再入
力に失敗したことで、二重に用意しておいた30数枚のバックアップディスクがいずれもリ
ストア時に、途中で止まってしまうのです(17枚目のフロッピーディスクに問題が起きてい
たようでそれ以降の継続入力が不可能になる)。

 特に重要な顧客データーのバックアップは別個にも取ってあるのに、それも再入力でき
ず、こうなると入力データーは破損しかかっているハードディスクのなかのものが唯一の
ものとなったわけで、こうなったらもういっぺん新しいフロッピーディスクにバックアップを
取ろうということになりました。

 ところが、内蔵ソフトに問題があることも十分に考えられるため、フロッピーディスクドラ
イブからMS−DOSをたち上げ、そこからハードディスクのバックアップを始めたのです
が、何と、ある一定時間すると今度はパソコン本体が止まってしまうのです。これは従来
のパソコンにしょっちゅう起きていた症状なのですが、新しいパソコンでも同様な症状が
起きるということは、パソコンには問題が無く、ハードディスクか内蔵ソフトの問題になって
くるという結論になります。何度やっても同じ様に途中で停止し、このころになると四十数
項目を持つ1千件あまりのデータの喪失という事態が頭にちらつきだしてさすがに青ざめ
る思いでした。

 友人は、パソコンの本体がある一定時間を経過すると止まることに注目し、これはパソ
コンがある温度以上になるとハードディスクとの関連で何か不都合を起こすのではないか
と推理し、随分迷ったあげく、パソコンをうんと冷やして、従来のハードディスクの内容をフ
ロッピーディスクへのバックアップではなく、新しく購入した同容量のハードディスクに直接
バックアップを取ろうということに決めたのです。

 幸いなことにひどく冷え込んでいる屋外にパソコンをしばらく置いて冷やし、十分冷え切
ったところで持ち込んで接続して、まずはフロッピーディスクへのバックアップを試してみ
ると、さっきよりはかなり長時間パソコンは稼働するので、これに勇気づけられ、そこでも
う一度パソコンを屋外で冷やし、いよいよハードディスクからハードディスクへのダイレクト
のバックアップを始めました。もし、バックアップ中にパソコンが止まると、新しいハードデ
ィスクまで破損する恐れがあるため、非常に神経をとがらせる作業でした。

 ハードディスクからハードディスクへのバックアップですからフロッピーディスクに比べて
その速度は段違いに早く、画面上を各ファイルの名前が飛ぶように移動していきますが、
ジャストウインドウ上のワープロ、表計算、データーベースの各ソフトのデーターの他に、
以前使っていたNinja3Proやロータスのデーターも格納していますので、それらもどんどん
バックアップされていき、結構時間はかかるのです。もっとも最悪の事態になったときは、
これらのNinja3Proやロータスのデーターが別個バックアップを取っておりますから、少な
くとも顧客名簿の固定データー(氏名、住所、電話番号、使用機種)や2年前までの情報
は得ることはできるのです。

 それにしても「まあ、よくこれだけのデーターを打ち込んだものですね」と驚かれるぐらい
の膨大な量であるらしく、友人が予想していたよりもバックアップの時間は長引き、今にも
パソコンが止まるのではないか、と2人とも息を詰めて画面を見つめているときの心境は
神にでも祈るような思いでした。いや、実際、一番大事で量の多いデーターベース関係の
ファイル(なぜかこれが最後のほうだったのです)が画面を通過し出すころは、心の中で
般若心経を唱えていました。

 そして全ファイルをバックアップし終わって、A:\> の表示が出たときは思わず「やったー
」と声を上げ友人と握手したものでした。とにかくこれほどスリルに満ちた思いをしたこと
は最近、山でも経験したことはありませんでした。

 おかげで、データーベースソフトは使用できるようになり、年賀状も無事にプリントアウト
することができましたが、なぜ私のパソコンがこんな状況になったのかの原因はいまだに
判明せず、パソコン使用中にも不可解な事がときたま起きるので、今月中にもう一度その
友人がやってきて徹底的に調べてくれることになっております。

 なお、一番疑われていたウイルスについては、ワクチン・ウイルスバスターで調べたところ
全く汚染されていないことが判明しました。一旦修理に出した従来のパソコンも問題が無い
と思い、出荷直前で取り戻し、内蔵メモリーの多い従来の方に新しいハードディスクを取り付
けて現在使用しています。

 今回の騒ぎで私が学んだことは、フロッピーディスクのバックアップは必ずしも安全ではな
く、バックアップを取ったら一度、ハードディスクの別フォルダにリストアして試して見る必要が
あること、バックアップをより安全なものにしようとするなら同容量のハードディスクをバックア
ップ用にもう一台揃えておくこと、パソコンが仕事業務に一日とも不可欠な場合は、万が一の
時の為に常に予備のパソコンを揃えておかなければならないということでした。
(後略)