プラハからの便り 2005.12.30  by 北場 真澄(頂戴したメールからの抜粋)

私はコンクールでナポリに行っていて、先週プラハに帰ってきました。
コンクールはファイナルの4人には残ったのですが、ファイナルの日に貧血で上手く集中で
きず、なんだか普通な演奏になってしまって入賞する事はできませんでした・・・。審査員
の間では3位を同位で二人にしたかったらしいのですが、賞金の関係でできなかったそうで
す。残念!でも、何が悔しいって、自分で満足のいくように弾けなかったのが一番悔しいで
す。一次はまあまあ、二次はなぜかすごい集中力を発揮し(笑)いわゆる”霊感が降りてく
る”状態で弾けたのですが・・・。
でも、今回はファイナリストになると飛行機代&ホテル代を出してもらえるコンクールだっ
たので、タダでイタリアに行っておいしいものを食べてこられたんだからまあ良いか、と思
う事にし、また次がんばることにしました。

沢山上手な子と知り合えたし、審査の先生方から色々と意見を頂いたりして、とても勉強に
なりました。
どの先生も共通しておっしゃって下さったことは、非常に音楽的だという事、とてもよい響
き(音)を持っていて沢山の音色を作るテクニックを持っていること、非常に知的な演奏だと
いうこと(本当?!)などでした。ハンガリー人の先生は、音楽がとても自然で演技(表面
的に作ったもの)がなく、音楽的には一番好きだった、と言ってくださって嬉しかったです。
もちろん、まだまだ勉強するべき事は多くて、ペダルの技術をもっと磨く事とか、個々の曲
の細かい部分についてもいくつかアドヴァイスを頂いたりしました。あるイタリア人の先生
は、”非常によく考えられていてインテリジェントな演奏なんだけども、もっとその場で感
じたことが音に出てくるような即興性があっても良いのでは?”とおっしゃっていて、確か
にそうかもしれないなあ、と思いました。特に本選の演奏は、自分でもそういうふうに感じ
るところがあったし・・・。

あと、ある先生が”とても個性がある”とおっしゃて下さって、ちょっと意外な気がしたの
ですが、すごく嬉しかったです。というのは、前にもメールでちょっと書いたことですが、
私にとっては自分の演奏が一番自然なので(当たり前の事ですが)、それが人からどう見え
るのかということは自分ではあまり良く分からないのです。でも、人の演奏を聴く時は、そ
れがどんなものであれ、その人の持っているもの、その人の内面や人間性の見える演奏が好
きだし、だから”あなた自身がすごく出ている演奏だ”という言葉は私にとって嬉しいもの
でした。

ただ、私自身は決して”自分を見せよう”と思って弾いているわけではなくて、中心にある
のは”音楽そのもの”もしくは”音楽と自分との関係”です。

プラハの音楽学校で

実は、コンクールに行く前に先生ともこういう話になった事がありました。
コンクールの2週間前ぐらいだった思うのですが、先生に”コンクールで沢山の人が弾く中
で、審査員の目を覚まさせるには何が必要だと思う?”と言われて、色々話していたのです
が、先生いわく”その人自身、その人の内面が感じられて、豊かなファンタジーのある演奏
をすることが大事”とのことでした。それは私もその通りだと思ったし、実際、自分が人の
演奏を聴く時ことを考えれば、すぐに納得がいきます。
でも、これは聴く立場から見たことであって、結果でしかない、ということにしばらくして
から気が付きました。
先生とその話をした頃は、”技術的に完璧にしなくちゃ”ということを練習ですごく考えて
いた時期で、ちょっとでもミスする事に異常にイライラしたりしていました。(本番で思っ
たとおりの音(色)が出なかっただけでもすごく嫌なのに、音を外したり引っ掛けたりして汚
い音がするのは、ものすごく嫌なんです。だから練習では完璧に弾けるようにさらっている
のだけど、これが本番になると結構外す人なのです・・・。
だから、よっぽど練習で完璧にしておかなければ!という強迫観念があるんですね。(笑)
もちろん技術的に完璧にさらっておくのは絶対に必要な事ですが。)そういうちょっと音楽
に対して視野が狭くなっている状態の時に先生とそういう話をしたので、”もっと自分を出
さなきゃ”という方向に考えがいってしまって、それでしばらくそうやってさらっていたの
だけど、なんか上手くいっていないなあ、と感じていました。
それが、もう一人の先生のレッスンに行った時に(私には先生が二人いるのです)、先生と
話をしていて自分が演奏の本質を見失いかけていたことに気が付きました。”コンクールは
確かにストレスのかかる状況ではあるけど、一方で、音楽はとても素晴らしいもので、それ
を演奏できるのはすごく素敵なことなのだし、もう十分準備できているんだから音楽に対し
て喜びを持って弾いておいで。”と言われ、それがなんだかすごく説得力があり、ほっとし
て肩の力が抜けました。結局自分がやるべき事はいつも同じで、音楽の語っていることや自
分の知っていること、感じていることを、演奏を通して語りたい、という気持ちを思い出す
ことができました。”自分”というものを音楽に押し付けるのではなく、音楽の言おうとし
ていることをもっと知りたいと思って自分の方から音楽の中に入っていくと、楽譜は本当に
たくさんのこと語ってくれます。そうすると、もっとああ弾きたい、こう弾きたい、という
のがいくらでも出てくるし、そうやって自分自身が深く音楽の中に入っていくことが、結果
的に聴いている人に演奏者の人間味を感じさせることになるのですね。

コンクールを受けだしたのはわりと最近で、ここ一年半ぐらいなのですが、どんな状況の中
でも常に音楽だけに集中し、自分の演奏をするという意味でかなり精神的に鍛えられてきた
気がします。
もっともっと音楽の中で自由になれるように、そのためにももっと深く勉強し、自分自身も
深めていかなくてはなあ、と思います。
思いつくままに書いていたらすごく長くなってしまいましたが、とりあえず近況でした。

P.S.ナポリはピザ発祥の地らしくて、本当においしかったです!
   他にもパスタとかシーフードとか一杯食べて、スフォリアテッラ(?)
   というパイのお菓子もすごくおいしかったし、かなり満足です。