毎日新聞「恋の相談室」 207.01.13
 ◇8歳下の彼には妻が。きっぱり断れない自分に後悔の毎日です。

  今週の回答者 本岡典子さん(ルポルタージュ作家

 ■相談 66歳女性
 職場の上司だった8歳年上の夫と結婚し、10年間は幸せに暮らしていました。ただその
後、夫は結核、糖尿病、うつ病といろいろな病気にかかり、68歳で他界するまで、看病に
大変な日々をおくってきました。2人の子供も独立し、現在は1人で暮らしております。6月
ごろ、8歳年下の彼と知り合い、一線を越えてしまいました。彼には奥様がおられます。彼
にとって私は、都合のいい女なのかもしれませんが、毎日寂しく暮らしている私にとって、
彼を思わぬ日はない状態です。どういう形で捨てられるか不安です。きっぱりと断れない
自分があわれにも思えます。後悔の毎日です。進むべき道を教えてください。
=匿住所、66歳女性

 ■回答者 本岡典子(ルポルタジュー作家)
 人を思う気持ち、求める心に年齢はありません。つらいとき、寂しいとき、うれしいとき、
人はだれかと心を通い合わせたいと願います。その手に触れたい、相手の存在をもっと近
くで感じたい。それは自然な感情です。たとえ、それが世に言う不倫の関係でも、それは
一つの人間の関係としてそこに存在します。
 そして、その恋がたとえどのような結果を招いたとしても、その責任は自分自身で負わ
なければなりません。ただ、年を経て1人になった女性の恋愛が若いころと違うのは、恋を
失ったときの孤独の深さです。それでなくても、閉経、子供の独立、老親の介護や死、夫の
定年、夫婦の不和など中年後期の女性にはさまざまな喪失が訪れます。
一線を越えたことに、深い罪悪感と後悔の念をお持ちですが、人生の針は進み続けます。
これまでの人生を受け入れ、今を肯定しましょう。すべては、そこからしか始まりません。
 彼はあなたとの関係が終わっても帰る場所がありますが、あなたは孤独の闇に耐えなけ
ればなりません。そのことを恐れ、彼に執着して心を乱すより、積極的にその恋を味わい尽
くしましょう。そのためには、多くの知恵と孤独を手なずける強い心が必要です。友人の輪
を広げ、たとえば、趣味や仕事、ボランティアなどに参加し、ご自分の視点を外に向けてみて
はいかがですか。ご自身に別の居場所が見つかれば、今の不安なお気持ちはずいぶん和
らぐはずです。
 60代はすばらしい年代です。これまでの辛苦の経験が糧となり、さまざまな面で豊かに花
開くときです。彼との恋も人生の大切な通過点と考えれば、どうしようもなくつらくなったとき、
自ら別れを告げることもできるのではないでしょうか。
 「女の人生」は長くなりました。多くの女性たちにとって、家族はやがて解体し、いつかは
1人になって生きていかなくてはなりません。もう何かに我慢する必要はないのです。