中国の反日デモに対する欧米各紙の論評 2005.040.21毎日新聞

中国での反日デモについて欧米各紙が18〜19日、社説で取り上げた。各紙とも過激なデ
モをたしなめる姿勢を示したが、一方で日本にも過去の清算の努力を求めた。
☆英タイムズ
「成熟した方法中国見つけよ」
19日付けの英紙タイムズは「(反日を)叫ぶことは政策ではない。中国は自分の意見を聞
いてもらうために、より成熟した方法を見つけなければならない」と題した社説を掲載し
た。
 同紙は、国交正常化した72年以降、日本政府が多くの公式謝罪を行ってきたとした上
で、中国政府は日本に何をしてもらいたいのかを明確にする必要があると指摘した。
 日本に過去により正直に向き合う必要があると注文。中国には、過去に生きる選択は未
来を失う恐れがあると警告した。
 同日付のガーディアンは日中間における一連の緊張は、日米同盟強化を後押しすること
になるとし、さらなる反日デモはアジアの冷戦を激化させるだけだと強調した。
☆独有力紙
 18日付のドイツ有力紙フランクフルター・アルゲマイネは1面の社説で反日デモなど
による日本と中国の対立に触れ、ドイツをはじめ欧州各国が意図的にこの問題から目をそ
らしていると指摘、欧州の関与と行動を促した。
 社説は「中国と日本という重要な二つの国が対立していることに、他国は関心を持って
行動に出るべきだ」とした上で「実際は、誰もが沈黙を守っている」とドイツなどの対応
に不満を示した。
 さらに「ドイツ、フランス、英国の親中派は、長年の同盟国、日本を犠牲にしてまで中
国を強大化させたいのか」と対中武器禁輸措置の解除など中国への支援を疑問視した。
☆米LAタイムズ
 18日付の米紙ロサンゼルス・タイムズは、中国での反日デモに関する社説を掲載、「中
国は東アジアでの支配力確立を目指して日本の地位低下を狙っており、日本はその政治ゲ
ームの術中にはまっている」と論評した。
 「日本の最悪の敵」と題した社説は「中国は日本が帝国主義に戻る可能性はないことを
知りながら(戦争の)過去を日本脅しに利用している」と批判。同時に「毛沢東時代に無
数の国民を餓死させ、(現在も)チベット占領を継続している」と、日本の過去のみ非難
する中国の矛盾点を指摘した。
 一方で、戦争責任を徹底的に追求し近隣国の信頼を得たドイツの例を挙げ、日本による
過去の清算の努力が不十分だったとの見方を示した。
☆ワシントン・ポスト【ワシントン=貞広貴志】中国での反日デモなどで日中両国間の緊
張が高まっている問題で、米紙ワシントン・ポストは18日、「中国の身勝手な記憶」と
題して、中国が日本に「歴史を直視する」ように求める一方で、自らは権力維持のため恣
意(しい)的に歴史を解釈していると指摘する論評を掲載した。
 筆者は、かつて同紙の北東アジア総局長(東京)を務めたフレッド・ハイアット論説面
担当部長。「中国では歴史解釈はひとつしかなく、変わるのは共産党がそう決めた時だけ
だ」と前置きし、日本では、教科書問題などをめぐり「新聞や雑誌、大学の場で、開かれ
た議論が行われている」現状と対比した。
 さらに、中国の教科書が、3000万人が飢饉(ききん)などで命を落としたとされる
毛沢東の大躍進政策の失敗には全く触れていないことや、天安門事件については「(共産
党)中央委員会が適時に対処し、平静を取り戻した」としか記述していないことなどを紹
介。「権力維持のため歴史を利用する独裁体制では、開かれた論争により歴史解釈が見直
され真実に近づくという希望は持てない」と、中国の“歴史悪用”を批判した。
 さらに論評記事は、中国共産党が、「アジアで先導的な役割を果たす上で、日本を便利
な悪役に仕立て上げる」以前には、ロシア批判を自己正当化の道具としていたと指摘し、
「来年は米国の番かもしれない」と警鐘を鳴らしている。
☆フランスフィガロ
フランスの3紙は、先週末の上海でのデモの様子も伝えているが、ル・フィガロは、以下
のように指摘。
『騒動がはじまってから10日たっても、明確な答えが得られていない疑問がある。普段
は遠慮などしない中国の警察がなぜ、日本の財産に対する攻撃が行われた際も動かなかな
いままだったのか?東京とのやりあいはもう、外交をすっ飛ばして、街中での動きにまか
せたということなのか?体制側は、自らのイメージにとって壊滅的な影響が及ぶだけでな
く、おそらくはさらに過激な暴走の前触れとなるであろう、若者たちとの衝突を避けたい
のだろうか。』
また、リベラシオンは以下のような動きを紹介し、反日デモが別な方向に向かいはじめて
いることを示唆。
『昨日もまた、テレビも他のメディアも、この民族主義的なデモについて沈黙を守ったが、
人民日報は一面で、「社会の安定」を呼びかける長いコメントを掲載した。民族主義の炎
が他の要求にまで飛び火する危険があるということだ。土曜日、東莞でのデモにあたり、
ストライキ中の3000名の労働者らがこのデモを利用するかたちで、自分たちの勤める日
系電子部品工場の前で賃金アップと労働条件の改善を求める要求を行ったが、警察によっ
て退散させられた。』
コリエーレ・デッラ・セーラは、事態の解決に向けた両国の取り組みが始まったと指摘。
また、中国内の日本の財産に対するあらゆる暴力を阻止し、また、デモに参加した若者を
説得するような対策をとると中国側が約束したことについて、平静を呼びかける人民日報
の記事を紹介しつつ、以下のように論評した。
『国際政治のためである以上に、国内のバランスを保つという理由から必要な措置である。
改革の進む中国には社会的に不安定な側面があり、コントロール不能なほどの衝突に直面
して持ちこたえることはできない。』