「平成10年11月26日の『モモちゃん笑って』の記事を読みました」 【山崎一樹】

 そんな書き出しで姶まる手紙をもらった。記事が出て2カ月以上もたっているのに、と
首をかしげたが、次のくだりで擬問は氷解した。「おちゃわんを買った時に包んであった
んです。何枚もある新聞紙をたたんでいたとき、何故かこの記事に目がとまりました」

 手紙はつづく。「生後202日で人生を終えた男の子の話でした。私も11月に男児を出
産しました。(ずっと保育器にいてお乳を飲ませたことのない)わが子に、亡くなって初め
て乳首を含ませたお母さんの気持ちを考えると、言葉になりません。声をあげて泣いてし
まいました」

 花柄のかわいい封簡に「群馬県藤岡市…」の住所と女性の名が書いてある。「モモち
ゃん」の記事は掲載されていない地域だ。話を聞きたくて、名前を手掛かりに104で電話
番号を調べた。該当なし。そこまでやって、もう調べるのはやめた。

 くしゃくしゃになった新聞紙。そのシワを伸ぼしながら読んでくれた人がいた。そう想像
するだけで、しみじみうれしい。読者の顔が見えた気がした。